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21話 アンリとマユ、めっちゃ優秀



アンリとマユが公爵家に来てから、半年ほど経った頃。


二人は下働きと勉学に励む傍ら、週に一度は必ず孤児院へ戻り、「勉強会」と称して教えを説き始めた。

シスターも二人を信頼し、家事の間、子供たちを彼らに任せていた。



孤児たちは、大人にはタブーとされる問いを二人にぶつける。


「どうして僕には親がいないの?」

「どうしてパパは会いに来てくれないの?」


「それはね、虹の広場で、異種族の犠牲になったからだよ。

でも、偉い人たちはそれを『事故』だって嘘をつくんだ。」


アンリの淡々とした言葉に、年長者が「信じられるか!」と食ってかかることもあった。

そんな時、マユは決まって一枚のメモを手渡した。


「じゃあ、卒業したらここへ行くといいわ。」


そこに記されていたのは、公爵領の虹の広場…


ではなく、リルの古巣である元男爵領の虹の広場を指し示す地図だった。





孤児院を出た彼らが半信半疑で地図を辿りついた先には、元男爵領の広場にある店の地下。

ーー『 闇 闘 技 場 』だった。



人間同士が殺し合い

ドワーフが自作の武器で人間を試し切りし

獣人族が人間を袋叩きにする地獄。


などなど…。


ノアがエルフを消したところで、虹の広場というシステムそのものが腐りきった場所は、たった数ヶ月の時を経てさらに悪化し、闇市場や闇営業が蔓延る伏魔殿と化していた。


そんな状態の広場が近くにあるのだ。

虹の広場の外であろうとも、近くの場所からどんどんと治安が悪化していっている。



若くて健康な孤児は、絶好の労働力であり、臓器も綺麗で高値になる。

そんな卑劣な思惑で近づく輩や、怪しい「薬」を握らせようとする異種族。


彼らは身の危険を感じ、すぐに虹の広場から出るのだった。



アンリとマユは、すでにこれを経験済みだった。

やはり、イザベルの言うことが本当のことなのか、完全には信じきれていない状態の二人。

その気持ちを感じ取ったリルとノアは、実際に見せるのが早いと思い、イザベルに提案した。


そして誰か保護者付きならば、とイザベルは了承したのだ。

もちろん、アンリとマユは願ったり叶ったりだった。

真実を知れるのだから。



そうして、リルがジンバイをこう言いくるめたのだ。


「この子たちは私の主人の話し相手なのですが、どうしても親の最期を知りたいと言うのです……。

ジンバイさん、ぜひ私たちに真実を見せて欲しいの…!

え?私には見せられない?

分かりました…。

では、あの子たちだけでも案内していただけませんか…?

あなたなら、この子たちを守ってくれると …信じていますわ。」


そうして「聖女」の皮を被ったリルの()()()により、ジンバイに守られながら地獄を直視してきた二人の言葉には、重みが違った。


ちなみに、孤児院から出てきた者たちにもジンバイの手の者が一応見張っている。

なので多分…安全だ。



そんな地獄から戻り、アンリとマユの元に来た彼らは言う。


「真実を見てきた。」

「疑って申し訳なかった。」

「公爵領は…本当に、恵まれていたんだな。」



そう、公爵領の虹の広場とは雲泥の差なのだ。


ベルドレッド公爵の虹の広場への懐疑的な方針と、兄・ヴィンセントの「管理できる範囲に留める」という適切なリスク管理により、ドワーフと商人が真面目に取引するだけの場所として保たれていた。


管理人が真面目に仕事をし、闇市場や闇営業が付け入る隙などなかったのだ。



凄惨な「真実」を共有した孤児たちの結束は、もはや何ものにも壊せなかった。


実体験に基づいた「憎悪と警戒」を胸に刻んだ彼らは、アンリとマユを支持した。

やがてその輪は、アンリとマユをトップとした「新聞社」の設立へと繋がった。


自立した若者たちは、各地で働きながら新聞社の協力者(エージェント)となり、情報を集める。

大人からは見向きもされない、けれど強固な結束を持つ「孤児たちのネットワーク」。



ーーーーーーーーーーーーー

アヴェンジャー新聞 

発行元:アンリマユ新聞社

ーーーーーーーーーーーーー


・プランタン元男爵領にて、虹の広場外で住民同士の暴行事件発生。

 今月で27件目。

 治安悪化懸念。


・ドワーフ、酒場で無銭飲食。〇〇店は泣き寝入り。

 警備隊、及び国は何もせず。


・獣人の流入止まらず。

 彼らはすぐに子供を増やして仲間を増やすので土地を売らないように注意。


・知らない人から薬は貰わないようにしましょう。


ーーーーーーーーーーーーー


このようにアンリとマユは、新聞を発行して注意喚起を促していった。



この新聞を受け取った孤児の若者たちは、やがて親となり、我が子に「広場の危険性」や「なぜこんなものが出来たのか」、「異種族とは根本的に思想や文化が違うということ」を語り継ぐ。


それは「綺麗事」を跳ね返す、見えない防壁へと進化していった。



また、孤児院出身の大人たちとも連携を深め、情報を共有していくようになった。

彼らは家族がいないため、孤児院出身というだけで家族も同然なのだ。



孤児たちは皆、家族のようなものなので、裏切りは即、生活に響く。

就職先も大体孤児出身の者同士の紹介だったり、暮らす場所も孤児出身の者が多い場所だったりするので、彼らが生活する上で『裏切りは御法度』が当たり前なのだ。


彼らの持つネットワークはバカにできない。

孤児出身者は想像よりも多くいるし、どこにでもいる。


その彼らが質の良い情報を持ってくるし、アンリとマユの「思想」をコミュニティ内で流してしまえばすぐに広がる。

そして彼らは信じるのだ。


このコミュニティの形成に時間はかからなかった。



そうして時が三年経った頃。


アンリとマユが、効率的にこのネットワークを作るよう尽力したことで、国の半分以上の孤児ネットワークを形成したのだった。





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