人生の転換点(ノア視点)
ノアくんは目上の人の前ではちゃんと「私」。
理性保てなくなったり、素で話す時は「俺」。
大人なので使い分けてます。
妹が消えたあの日から、俺の日々は復讐することでいっぱいだった。
何か手掛かりを掴めるかもしれないと、警備隊に入ったは良いものの、犯人の名前は特定できない。
どうやら虹の広場で起きた事件については、警備隊は事故として処理するのが決まってるようだった。
しかも、異種族が関わっていたら「個人情報保護」という名目で、調べた過程の情報は燃やして処分してしまうらしい。
俺が警備隊に入ったのは、妹が見つかった後。
当然、すでに燃やされてしまっていた。
(まぁ、そもそも真面目に情報収集していたとは思えないけどな…。)
絶望の淵で、それでも少しずつ情報を得ていく日々。
だが、俺には、勇気がない。
あいつらを殺して、その後の自分はどうなる?家族はどうなる?
それに、調べていくうちに分かったことだが、妹をあんな目に遭わせた奴は、どうやらエルフだということが分かった。
エルフは魔法を使うと聞いたことがある。
(俺がエルフを殺れるのか…?)
仮に殺れたとして、俺が犯人だとバレたら、俺や家族が報復されるかもしれない…。
不安ばかりが頭をよぎって、体が動かなかった。
だが、チキン野郎な俺が、あの七歳の少女――イザベル様の言葉で変われた。
彼女は、俺の迷いを打ち消す言葉をたくさんくれた。
『相手が人間じゃないことに怖気付いているのでしょう?
でも問題ないわ。
エルフは魔法石がないと魔法を発動できないの。
リルに調合してもらった強力な眠り薬をあげますわ。
眠った相手から石やアクセサリーを外して、手足を縛ってしまえば…ねぇ?』
『報復?
ふふっ、エルフは下等な人間に負けたとなれば、一族の恥さらし。
他のエルフは、我関せずを貫くでしょうね。』
『安心して。
公爵家にはね、たくさんの禁書があるの。
私は、そのほとんどに目を通しているわ。
だって異種族が危険なものだと、知っているもの。
相手を制すには、まず相手を知らなければならないの。』
『大丈夫。あなたは、正義の執行人。
あなたは、あなたが思う以上に強い人間なのよ。』
『さぁ、それを知らしめて来なさい。』
彼女の言葉、一つ一つが俺を安心させた。
俺がやろうとしているのは人殺しではなく、妹のための「正義」なのだと肯定してくれた。
そして何より…
ーーー殺すよりも残酷な方法。
淡々と悪魔の囁きを口にする彼女の姿は、まさに『悪役令嬢』そのものだった。
ジンバイやベルナルドたちを追い詰めた時、自分の心は驚くほど静かだった。
イザベル様が教えてくれた知識と道具を使えば、淡々と遂行できた。
(あんなに勇気が出なかったのに…。)
一歩踏み出せば、あとは止まることなく歩き続けられた。
ようやく、先の人生に進めそうだ。
馬車の窓から流れる景色を見ながら、俺は自分の手を見た。
この手で殺しはしていないが、俺はもう、清廉潔白な人間とは言えないだろう。
だが、そのおかげで妹は今、公爵領の最高の医者の元で治療を受けられている。
復讐を無事に遂げたら、俺を公爵家で雇うと同時に、妹の治療も約束してくれたのだ。
(俺の希望を、イザベル様は全て叶えてくれた。
これから先、俺は、イザベル様の護衛として命を捧げる。)
「命を賭してでも…な…。」
小声で俺は呟いた。
妹に復讐の報告をした時、誓った。
俺のこの命は、もう俺のものではない。
俺に復讐をさせてくれた、あの冷徹で、賢くて、そして「自分の背中を押してくれた」少女に捧げるのだと。
馬車の向かい側では、イザベル様が何やら難しい顔をして俺を見ている。
「まじ少年……。」
(イザベル様。聞こえてますよ…。
ふっ…。
あなたは俺のことを『少年』だと思っているようですが、そう思っていられるのも今のうちですよ。
俺はまだまだ成長期なんですからね。)
イザベル様に俺の心の声は届かない。
「ノア。
あなた、そんなに私を見つめて、何か言いたいことでもあるのかしら?」
イザベル様と主従関係を結んでから、イザベル様は敬語を使わなくなった。
年の割に背伸びしているようで、可愛らしいと思える。
今は『悪役令嬢』に見えない、普通のご令嬢だ。
「いいえ。
ただ、これからどんな仕事ができるのか、楽しみだなと思いまして。」
俺が笑顔で答えた。
「そう。ならいいのだけれど。
公爵家に着いたら、お望み通り、やってもらうことは山ほどあるわよ。」
「はい、イザベル様。
どこまでも、お供いたします。」
どこまでも、それが地獄だとしても。
俺は彼女の歩みを阻む、全てを刈り取っていくだけだ。




