14話 ノアの能力
「それは、警備隊に入隊してから警備隊内部の資料を見てたからです。」
ノアの口調が元に戻っていた。
どうやら少し落ち着きを取り戻したらしい。
「何でバレなかったのですか?」
「それは……私が『地味』で『目立たない』からだと思います…。」
ノアの答えに、私は拍子抜けする。
「じ、地味だから? 目立たない?
それだけで、警備隊の機密に触れられたというの?」
(まさか警備隊なのに警備ザル…?
SEC◯Mにセキュリティお願いしたらいかが…。
まぁ冗談はさておき。
警備隊が無能集団な可能性もあるけど…。)
そう疑った目で見てしまっていたからか、ノアがさらに説明してくれる。
「本当です。
調査のために虹の広場へ何度も通いましたが、親は『また調べ回りに来たのか』と邪険にされるのに、私は普通に素通りできました。
警備隊に入ったのも、広場や異種族を調べるためです。
この地味さを活かして隊長の執務室の資料を盗み見たり、お気に入りの隊員たちの部屋を回ったり…。
もちろん、見つからないよう気は配っていましたし、足音がしたらすぐに逃げるようにしていましたが。
捕まったら、復讐ができなくなりますからね。」
ノアは自嘲気味に答えた。
「誰にも気づかれませんでしたよ。
でも、さすがに広場の中枢にまで潜入して、決定的な証拠を握る勇気はありませんでした…。
情けない話ですが…。」
(これは、天性の隠密能力と言ってもいい…!
そう、まるで忍者…!!
特別な教育も受けずに独学で辿り着いたのなら、本物の才能だわ。
この才能、きっとこれから私のやりたいことの手助けになる…!)
私は、満足げに口角を上げた。
そして、獲物を誘う悪魔のように囁くのだ。
「ノアさん。その復讐……私がもっと確実に、そして残酷に終わらせてあげましょうか?」
私の言葉に、ノアが弾かれたように顔を上げた。
「…公爵令嬢とはいえ、何ができますでしょう?」
ノアは「冗談でしょう?」と言わんばかりに苦笑する。
「冗談に見えるかしら?
ノアさん、私はね、こういう理不尽が罷り通る世の中が我慢ならないの。
この国には妹さんのような、あなたのような人がきっとたくさんいる。
そして、これからもっと増えていくわ。
そんなの、私は耐えられない。」
私は椅子から身を乗り出し、彼の瞳を覗き込んだ。
「でも、あなたの言う通り、私はただの公爵令嬢。
だから、あなたの手助けしかできません。
けれど、協力者がいた方が少しは心強くなると思わない?
あなたが私の手を取ってくれるなら、私は全力であなたの復讐をサポートしますわ。
ただ…。」
一呼吸おいて、私は「対価」を求める。
「復讐が終わったら、あなたは私に何をくれますか?」
沈黙が流れる。
ノアは私を、そして背後に立つリルを交互に見た。
やがて、彼は椅子から滑り落ちるようにして私の前に跪いた。
「あなたが、妹をこんな目にした奴らを引きずり出してくれるなら。
私のこの汚れた腕も、復讐の後に残る空っぽの命も、全部あなたに預けましょう。
地獄へ行けと言うなら……ーーー喜んで 行ってやる!」
ノアは覚悟を決めた顔をしている。
「いいわ。その魂、買い取ったわ。
でも、引き摺り出しはしないけどね?」
私の浮かべた笑みは、きっと他人が見れば「悪役令嬢」と呼ぶに相応しい、歪で冷酷なものだったに違いない。




