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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
イザベル十三歳。初等部二年生/イザベル十五歳。中等部二年生〜

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85話 ティア。



リルとノアにそれぞれ指示を出してから、早いもので三ヶ月ほどの月日が流れた。

だが、期待していた調査結果は、未だにもたらされていない。




無理もない。




国外であるエルフの国へ潜入し、謎に包まれた一族のルーツを暴くことも、二つの特殊な植物の成分や相互作用を詳細に解明することも、たった数ヶ月で答えが出るような簡単な代物ではないのだ。




気長に待つしかない。




頭では分かっている。

分かってはいるのだが…!



(あ~~~、もどかしい……!!)



パズルのピースは揃いつつあるのに、まだ足りずに完成させることができない状態が続いているのだ。

もう少しで完成するというのに…!だ。



だが、私にできるのは、調査結果が来ることを信じて待つことだけ。

そう自分に言い聞かせ、私は日々の学院生活と王妃教育を淡々とこなしていた。




 ◆




それから数日後の、学院内での昼休憩。




私は学院の廊下を、メリッサと一緒に歩いていた。

窓から差し込む柔らかな日差しとは裏腹に、私の頭の中は相変わらず「ソージュ・ロリエ」と「ファシネフルール」、そして「グロビン一族」のことで占められていた。




「イザベル様。

今日のデザートのタルト、すっごく美味しかったですね〜。」



「ええ、本当に。」




少し上の空の私を気遣ってか、メリッサが他愛のない話をしてくれている時のこと。

中庭へと続く廊下の角を曲がった、その時だった。




「あれっ?」




メリッサが、ふと前方を凝視して声を漏らした。

彼女の視線を追って、私も少し遠くの木陰へと目を向ける。




そこには、ティア・ミストレイの姿があった。




遠目からでもはっきりと分かるほど、肩を震わせ、その大きな瞳から大粒の涙をボロボロと溢れさせている。

どうやら泣いているようだった。



少し遠目から見ると、ティアと数人の男女が熱心に会話をしている。

メリッサ曰く、彼らは日頃からティアを気にかけ、何かと彼女の味方をしている高位貴族の令息や令嬢たちとのことだ。



すると、その中の一人がこちらを見て、私とメリッサの存在に気がついた。



その生徒はあからさまに顔を強張らせると、ティアとその他の面々に何かをコソコソと伝えた。

すると彼らは、まるで見られたら不都合なものでもあるかのように、そそくさと場所を移動していった。



ティアはこちらを見向きもしなかった。



「うわーっ、感じ悪〜っ!!」




通り過ぎていく彼らの背中を見送りながら、メリッサが心底嫌そうに口を尖らせた。




「えっ…、もしかして今の、私たちを避けたの?」




私が小首を傾げて問いかけると、メリッサはハッと目を見開いて頭を掻いた。




「えっ、あ、そっか!

伝え忘れてました、すみません!

最近、ティアへの嫌がらせの犯人が、イザベル様なんじゃないかって一部の生徒の間で噂されているんですよ。

完っっっ全に言ったと思ってました!あちゃー!」



「あー、そういうこと…。」




その言葉を聞いた瞬間、私の脳内は一気に沸騰した。




(はぁぁあん!?

こちとら二年間、旧体制派の安全保障とスローライフ防衛のための内政、あと学院と王妃教育のせいで寝る間を惜しんで行動してんだぞ!?

嫌がらせなんかしてる暇なんて、一分…いや、一秒もないわ!!)




内心は激しく荒れていたが、深呼吸をして、すぐに冷静になる。




(そもそも、最近はティアと話すことは愚か、近付くことすらない。

私がいじめをするメリットもない。

なんなら少し前までは、お互い仲良さげにして………。)




……。




…あぁ、なるほど。そういう筋書きか。




私は一つの可能性…いや、答えに辿り着いた。




(まず、私と徐々に仲良しになる。

だけどその後、何かの理由で私に嫌われ、いじめを受けるようになった。

そうやって被害者を装って周囲に言いふらし、私をいじめの首謀者に仕立て上げて評判を落とす。

…って筋書きかな。

まっ、私に落とされるほどの評判が最初からあるのかは疑問だけど。)




リュシアン殿下か、アニエスか、革新派貴族か…。

彼女を裏で操る者がいて、私を陥れる指示を受けてやっているのだろうか?

それとも彼女自身が私に敵意を向けてやっていることなのだろうか?



(さっきのように、取り巻きたちと共に私を避けてどこかへ行くという行動がその証拠。

噂が本当でないことを証明するのであれば、ティアはさっき、私に駆け寄って話しかけてくるべきだった。

それをしないということは…。

よしっ、やっぱこれは完全に黒だな!)



今は、私をより悪役に仕立て上げるための、外堀埋め埋めタイムなのだろう。

くだらなすぎて、思わず笑いが出そうになる。




彼女と過ごしてきた時間は、それなりに楽しかった。

残念だ。

非常に。




だが。

正直こうなることは予想していた。




「ねぇ、メリッサ。

そろそろ彼女の茶番に付き合うのも、面倒になってきたわね。」



「そうですね〜。

私もはっきり言っちゃいますと、飽きてきたところです!」




メリッサが同意するように肩をすくめるのを見ながら、私は少し悪戯っぽく微笑んだ。




そう、私は最初からティアは『何かしてくる』だろうと考えていた。

だって、リュシアン殿下の元婚約者候補が私に近づいてくるなんて、普通に考えて変だろう。



何よりも、調べた結果がそうだった。



メリッサには、ティアの学院内での交友関係と行動を調査してもらっていた。

彼女は私たちに近づいて来るまで、他の高位貴族令息や令嬢と仲良く楽しく過ごしていたそうだ。

それに、元々そこそこの人気者であり、前世でいうところの「THE・一軍女子」って感じだったようだ。

他のクラスの人とも仲が良く、交友関係は広いらしい。




それが、リュシアン殿下の婚約者が私に決まってからは、私とメリッサと一緒にいるようになったのだ。




なぜ急に?と思うのが自然だろう。




ティアは比較的成績も良く、割と誰からも慕われ、表面上はそれなりに明るい性格に見えた。

それはきっと、リュシアン殿下の婚約者になることを見据えて、学院入学当初から意識して行動していたのだろう。


実際、彼女がこの国の第一王子の婚約者と言われても、大体の人は納得するのではなかろうか。

少なくとも私は思うし、「さっさとティアと婚約しておけよ」と何度思ったことか。




もう一つ、リルとノアが自発的にティアのことを調べてくれた。



彼女は伯爵家の長女。

下には跡取りの弟がいる。

ミストレイ伯爵家は革新派貴族で、かなり王家に課金…いや、献金しているのだ。



ミストレイ伯爵は、リュシアン殿下と自分の娘を結婚させて自らの権力を強めたいらしい。

ティアの気持ちがリュシアン殿下にあるかどうかは知らないが、もしかしたら彼女は父親の意向に沿って今まで行動してきたのかもしれない。

となると、彼女は「殿下の婚約者にならなければ…!」という親からの重圧もあるはずだ。



実は、リルとノアは調べ終わってもなかなか私に言い出せずにいた。



私が本当にティアに対して「友人」という気持ちを持っていたら、私が彼女の「婚約者」という立場を奪ってしまったことを気に病むのではないかと配慮してくれたのだ。




まぁ、最初からティアのことは信頼していなかったし、「友人として振る舞う彼女」を見ている分にはとても面白かった。

メリッサとの会話にも頑張って食いついてきて、愉快だなという感情が湧いて来るほどに。




彼女と一緒に過ごしたのも、いつ何を仕掛けてくるのか様子見をしていたからだ。




(学院外で休日一緒に過ごしたのも、彼女が「私からの信頼を得た」と確信した後の行動を知りたかったから。

あの時は一緒に遊べなくて、ごめんねリル〜〜〜。)




まぁ、ティアから物が隠されたという話をされた、その後すぐに、メリッサから彼女が自分で自分の物をゴミ箱に捨てている様子を聞いてから、私が悪役になるであろうことはなんとな〜く想像できていた。



だが、すぐに対策を講じることはしなかった。

私が「悪者」だという扱いを、彼女が見せてから動こうと思っていた。



なぜなら私が事前に彼女の策略を潰してしまうことで、また別の策を練られて行動されるのも面倒だからだ。



(何事も早急に対処すれば良いってわけじゃないんだよね〜。

何事もタイミングが大事ってこと。)



であれば、予想しやすいままでいてもらっ方が私としても対策を立てやすいし、最後に完膚なきまでに潰せば一度で済むから楽だと判断した。




「ねぇ、メリッサ。私が未来予知できるっていったら信じる?」



「え?いくらイザベル様といえども、未来は分からないんじゃないですか〜?」




笑いながら言うメリッサに、私は中庭の奥へと消えていった彼女を思い浮かべながら、冷ややかに…、そして確信を込めて告げた。




彼女(ティア)はね。きっとリュシアン殿下の卒業パーティーで……」




そこで一呼吸置き、私は極上の笑みを浮かべる。




「殿下と一緒に私を断罪するわ。」




明日、明後日はお休みします。

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