【掃除】リルとキル 2
「おっ…、おいっ……!!食べないんじゃなかったのかよ…!?」
ガブッ
ゴッチュゴッチュゴッチュゴッチュ…
ペッ
また一人、肉塊となった。
最後に残った一人は、顔面蒼白で震えている。
「食べてないじゃない。
ただお口で遊んでいるだけだもの。ねっ、キル。」
「ヌァ〜。」
キルは返事をするように鳴いた。
「さて、ちゃんと質問に答えてね。
じゃないとあなたもコレと同じようになるから。」
コクコクと、カメレオン獣人は壊れた玩具のように首を縦に振った。
「まず、なぜ窃盗をしていたの?
それも、執拗に繰り返していた理由は?」
「それは…。
金目の物は仲間と一緒に使ったり売ったり、食料は自分たちが食べるために…。
俺たちにも家族がいるんだ!養っていくために仕方なかったんだ!
それに、回数だって…、す…数回だけだ……!」
「…数回かどうかはどうでもいいわ。
一回やろうが十回やろうが、罪を犯してる事実は変わらないし。
それに、数回だけじゃないってことも知っているから。」
「う…、嘘じゃない!俺たちの仲間は他にもいるんだ!
俺は本当に数回目で、他の奴らが別の場所でやってるんだ!」
「……そう。
ちなみに、あなたたちが盗んだ物から出たゴミってどこに捨ててるの?
まさか家の前ではないでしょう?」
「当たり前だ!
そんな『自分たちが盗みました』ってバレるようなことはしない!
えっと…、たしか…、なんかデカそうな家の裏だ。
もう使われてない場所だし、誰もいないし、表からは見えないし…。」
「……そう。
ちなみに、あなたたちって夜な夜などこかに集まってる…?」
「ど、どうしてそれを!?」
「……そういうこと。」
先ほど酒場の店主から言われた不穏な噂は、全て窃盗団に関連することだったのだ。
「ねぇ、あなたたち獣人は、何でこのアステリア王国に来たの?」
「…獣人の国はもう人が多すぎて、住める場所がないんだ。
そこで『人間の国にいけば、今より良い暮らしができる』と国から言われた。
実際に人間の国に来て思ったよ。
何でこんなに弱い種族が、俺たちよりも良い暮らしをして平和に暮らせているんだ!?
何で俺たちはあんな狭い国で苦しい思いをしながら暮らしていなきゃいけないんだ!?
不公平だろう?!」
カメレオン獣人は、堰を切ったように身勝手な不満をぶちまけ始めた。
「…もういいわ。
あなたたちと対話するのは無駄だってことだけは、よく分かったから。
じゃあ、集まってる場所を教えてくれるかしら?」
「そ…、それだけは言えない!」
グシャァッ!
「ギャァァァァァァア!!!」
キルが、カメレオン獣人の片足を容赦なく踏み潰した。
「早く答えて?答えないなら消えて?」
「ゥグッ……。
に、虹の広場と呼ばれていた場所の…赤い建物……。
もともとエルフが経営していた宿屋らしいが、もう獣人の住処の一つみたいなものだ…。」
「そう。」
ガブッ
ゴッチュゴッチュゴッチュゴッチュ…
ペッ
キルの口から、カメレオンズ最後の生き残りだった男が肉塊となって吐き出された。
「ゴミは…やっぱり燃やすに限るわね。
土が汚れるもの。
キル、燃やしちゃいましょう。」
「ヌァ〜。」
キルが返事をした次の瞬間。
ゴォオォォ……!
キルが口から猛烈な火を吹き、転がる肉塊を一瞬にして消し炭にした。
これで証拠隠滅の完了である。
「さて、ベルドレッド公爵領まで狙うような不届者の仲間も、早く掃除しに行きましょう。」
◆
虹の広場。
エルフが元々宿を経営していたという、問題の赤い建物。
この建物には広いホールがあり、何十…いや、何百人もの様々な種類の獣人が集まっていた。
(こんなにいるのね…。)
リルは気配を消し、その薄暗い喧騒の中に紛れ込んでいた。
ザワザワ…
「カメレオン獣人の奴ら、おっせぇーなぁー。」
「今日は良い物が手に入らなかったのかしらねぇ?」
「もーっ!人間なんか全員殺しちゃえばいいのに!」
「そうだ!弱い者は生きる資格などない!」
どうやら彼らは、先ほどのカメレオン獣人たちを待っているらしい。
その日に盗った物を見せびらかすのか、それとも分配するのか。
そこかしこで、人間を蔑む悪口大会が行われていた。
「もういっそ、この領地を俺たち獣人の国にしちゃおうぜ!」
「いいねぇ!この領地、荒れ放題だからすぐ手に入りそう!」
「ここに住んでる人間はどうする?」
「殺して埋めればいいんじゃないか?」
「どうせ人間の警備隊、動かないもんね。それがいいね。」
「いつ始める?」
もう彼らの中では、この国のこの土地は自分たちのものだという気分になっているようだ。
か弱き人間なんて、抵抗してきたところで『無駄』。
消すのは容易い、ということなのだろう。
リルは、別に人間すべてが良い人間だとは思わない。
人間は確かに獣人よりも弱い者が多いし、自分の父親のように愚かでどうしようもない人間もいる。
だからと言って、獣人どもに、かつて自分の領地だった場所を占領されるのは決して良い気分ではない。
ましてや、先ほど盗みのためにベルドレッド公爵領をターゲットにしようとしていた奴らの仲間だ。
やはり思考回路は同じ。
いつかベルドレッド公爵領にも害を成す存在であることは確定だ。
リルは冷静に、だが確実に腹を立てていた。
「ここの現状は、理解したわ。さて、と…。」
リルは静かに赤い建物から抜け出すと、外側から建物の出入り口をすべて強固に塞いだ。
「キル、燃やしちゃいましょう。」
「ヌァ〜。」
ゴォオォォ……!!!
「なんだ!?」
「火だ…!」
「窓が開かない…!」
「こっちの扉も開かないぞ…!」
「どうして…?!だれかっ…!誰か助けて!!」
「ぎゃぁぁぁあ熱い!熱いぃいい!!」
密閉された建物の中から、無数の悲鳴が響き渡る。
だが、それも数分だけだった。
キルの炎によって、もう建物の中身は焼き尽くされたのだ。
獣人たちが、周りの建物を力と数で牛耳っていたこともあり、幸いにも建物周辺には人がいなかった。
悪いことを企むために、周りに人を寄せ付けていなかったのだろう。
これ以上ない自業自得である。
「キルの炎って、本当、なんでもよく燃えて綺麗ね。」
「ヌァ〜。」
赤々と燃え盛る建物を見つめながら、リルは静かに思考を巡らせる。
他者を『弱いから』という理由で淘汰しようとしたのなら…、いや、実際かなりの数の人間を殺してきたのだから、自分たちが『より強い力』に淘汰される理不尽も、甘んじて受け入れるべきだ。
過去の犠牲には間に合わなかった。
けれど、これから奪われるはずだった未来の命が、今、この炎によって救えたのなら…。
今日の「掃除」には十分な価値がある。
そもそも、獣人たちの困窮など知ったことではない。
獣人族は無知だから知らないだろうが、彼らの住む国は別に狭くはない。
自国で出生率すら管理できず、土地が足りなくなったのは完全に彼らの自己責任だ。
それを棚に上げて他国へ侵入し、自分たちの居場所を作るために原住民を間引こうなど、身勝手にも程がある。
彼らがどこまでも身勝手な理屈で動くのなら、私がどれほど理不尽に彼らを駆除したところで、文句を言われる筋合いはないのだ。
ちなみに、事前に何種類かの獣人、数十人程はすでに確保済みだ。
こちらはジンバイ経由で、あのマッドサイエンティストの元へ送る予定になっている。
彼らを実験台にし、主人が言っていた植物の成分の検証のために役立ってもらおう。
数十人もいれば、実験台としては足りるはずだ。
「はぁ…。昔は私も、純粋だったはずなんだけれど…。」
いつからだろう。
自分がここまで、敵の命を軽んじてしまうようになったのは…。
だが、後悔はない。
人を消すことに躊躇うことなど、とうに忘れた。
イザベルにとっても、そして自分にとっても、邪魔になる者は排除するまでだ。
「キル。近くに獣っぽい者たちがいたら、遊んできて良いわよ。」
「ヌァヌァ〜〜!!」
キルは喜びを全身で表現しながら、闇の中へと走り去っていった。
「今夜はたくさん掃除が出来て、気分が良いわ。」
リルの美しい瞳が月光を映し、夜闇の中でキラキラと怪しく輝くのだった。
次回から本編戻ります。
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