裏話〜アニエスの激昂〜『どこから狂ってしまったの』 2
…完璧な計画のはずだった。
…順調だった。
それなのに、ここへ来て信じられないほど物事が上手く進まない。
どこから狂ってしまったのか。
革新派と旧体制派に分断させたのは良かった。
対立を生み、溝を深め、混沌とさせるためには必要だった。
だが、ここまで旧体制派が持ち堪えるとは思っても見なかった。
もうとっくに貴族のほとんどが革新派になり、ほぼ全ての領地で異種族が好き勝手しているはずだったのに。
「なんでこんなにしぶといのよ…!
誰かが私の邪魔をしている…?
それが出来るほどの権力と知力がある者なんて、ベルドレッドしかいない…。
でも、調べさせても奴らが動いている形跡が全くないのは…なぜ…?!」
さらに最近の異常事態は、私の手駒であるはずの「革新派」の領地にまで及んでいた。
「どうして革新派の領地だけが、ここまで治安が悪化しているのよ!?
それに、領民どもが次々と旧体制派の領地に逃げ出したせいで、領内の生産性も完全に死んでるじゃないの…!
旧体制派を潰す前に革新派が潰れたら、旧体制派の力が強くなるだけじゃないの…!!」
革新派領地が混乱するのは、別に良い。
だが、私はこの国が「どの領地も均等に」混乱に陥って欲しいのだ。
旧体制派の領地だけが健全な状態で生き残っていたら、最終的に革新派と旧体制派が全面戦争でもしなければこの国を手に入れられなくなってしまう。
そんなことをしても、この国が手に入るかどうか…。
(私はあくまで、グロビン一族の利益のために動いているだけ。
エルフの国から指示されて来たわけではないのよ…。
だからこの国が内戦に陥ったところで、エルフの国が軍を動かして戦ってくれるわけではない。
それに元老参の老害どもは、今戦争を起こす気なんてないでしょうし。
戦費が馬鹿にならないでしょうから、一族としても戦争に参戦するのは無しでしょうね…。
あぁ!もう!!上手くいかない…!!!!)
このまま両派閥の対立が激化し、泥沼化して国が二つに分離でもしたら…、目も当てられない。
そうなったら、旧体制派が国として独立し、私が手に出来るのは革新派の領地だけになってしまう。
「そんなの、今までの私の苦労が、すべて水の泡になるじゃない!!
分断させるために派閥を作ったのに…!!
それに、あんな人間の不細工な男どもに、笑顔を振りまいて調子を合わせてあげていたのよ!?
革新派の領地だけしか手に入らない、なんてことになったら…割に合わないわ!!」
脳裏に、私の美貌に完全に脳を溶かされ、自分の国が崩壊しかけているということすら知らないリュシアンの顔が浮かぶ。
あの使えない王子は、未だに現実を直視してはいない。
それは、私にとっては『傀儡の国王』に出来るということを意味している。
「もう少し、国王らしさを身につけて欲しかったけれど…。
でももう、猶予はないわ。
これ以上じわじわと旧体制派が強くなってしまうくらいなら、さっさと計画を強制進行させるしかないわ。」
あの哀れで、救えないほど愚かなリュシアン王子。
彼を操って、強制的にこの国の実権を握らせる。
(リュシアンの婚約者…イザベル・ベルドレッド。
あなたを最初の犠牲者にしてあげるわ。)
私が直々に家庭教師をすると言ったのに断った、あの小娘。
調べ尽くしたけれど、やはり何も出てこなかった。
その割には、私が手を回した家庭教師が問題を起こし、そのせいでこちらの立場が悪くなった、地味に手を煩わせてくる不細工な小娘。
(彼女はきっと外見が不細工な分、運が良いのかもしれないわね。
でも、その運も彼女自身が消えてしまえば終わり…。
もしかしたら運が良すぎたあまりに、ベルドレッド公爵領…いえ、旧体制派に幸運をもたらしてしまっていたのかしら?
でも…。
ふふっ、ベルドレッドの末娘が消えれば、ベルドレッド公爵のあの澄まし顔が崩れ、歪んでくれるのでしょうね!
それに彼らの幸運も消える…!
あぁ、想像するだけでも気持ちが晴れやかになる…!)
「覚悟しなさい、人間ども。
私の筋書き通りに、踊らせてあげるわ。」
込み上げる怒りを強引にねじ伏せ、私は唇を吊り上げて妖しく笑う。
―――さぁ、次の計画の準備へと取り掛かろう。
ブックマーク・評価など
お願いいたします。




