34 専門家の見解
2026.10.26 修正
34 専門家の見解
廊下から戻ってきた教授たちが、順に席へ着いた。アストリッドもロイの隣へ戻り、閉じていた資料を開く。
今日の検討会では、魔導先端工学課が議論を担当し、タクトの課が運営を受け持っていた。アストリッドとロイも、会場の準備を終えてから同席している。
ユリウスがオリヴァーとの話を終えたところで、ブルーノが四人へ顔を向けた。
「では、再開します。炉を停止させたあと、なぜ再稼働させたのか。考えられる操作の目的についても、ご意見を伺いたい」
ハルトマン教授が運転記録を手前へ寄せた。
「炉を止めたままなら、あの爆発には至っていない。停止と再稼働を、初めから一組の操作として考えていたのか。それとも停止後に予定を変えたのか」
ベルク教授が図面を開く。
「停止そのものが目的で、再稼働は元へ戻すためだった可能性はあります。ただ、炉だけを止めても、施設全体が安全な状態になるわけではありません」
「通常の停止では、供給側の処理も連動するか、余剰分が別の経路へ逃がされます。今回の停止では、記録上、そのどちらも正常に行われていません」
ユリウスが答え、図面上の二か所を示した。ベルク教授が身を寄せ、その位置を確かめる。
「そうなると、通常の停止手順とは異なる操作ですね」
「はい。炉の動作と、供給側の動作が一致していません」
アストリッドも手元の図面へ目を落とした。ユリウスが示した箇所を確かめていると、クライン教授が口を開いた。
「炉の制御回路だけに命令を入れたとすれば、説明はできます。全設備をまとめて操作する仕組みではなく、炉を停止させる機能だけを外から使った」
「既存の操作系統をそのまま使ったとは限らない、ということですね」
オリヴァーが確認すると、クライン教授は頷いた。
「新たな制御回路を接続した場合も考えるべきでしょう。もっとも、接続箇所を確認できなければ、回路の構成までは絞れません」
レオンが手元の回路図へ書き込んだ。オリヴァーも同じ図面を開き、教授が示した箇所を確かめている。
ブルーノが尋ねた。
「その機能を、実際の設備で使う理由としては、何が考えられますか」
「遠隔で操作できるのであれば、用途はいくつか考えられます。緊急停止や、現場の操作盤に近づけない場合の操作補助などです」
メイソン教授が答えた。
「今回の記録では、停止したあとに再稼働しています。単に炉を止めることだけが目的ではなく、一連の動作を確認しようとした可能性もあるでしょう」
ハルトマン教授が腕を組んだ。
「試験ですか。稼働中の発電所で?」
「可能性の一つです。もちろん、許可を得て行われた試験だと申し上げているわけではありません」
メイソン教授は落ち着いた声で答え、資料を一枚めくった。
「外部から炉を操作できる仕組み自体には用途があります。事故時に操作盤へ近づけない場合、離れた場所から炉を止められれば、対応の選択肢は増えるでしょう」
ユリウスが手元の資料を開いた。
「前の供給施設の事故では、非常扉に使われていた独立小型炉が、高出力のまま制御を受け付けなくなりました。扉の内側には職員が取り残されており、現場ではコアを破壊して炉を止め、救出しています」
メイソン教授が顔を上げた。
「事故報告では、コアを破壊して停止させたとありましたね。その出力のまま破壊したのですか」
「はい。他の方法では、救出が間に合わないと判断しています」
「救出のためとはいえ、無茶な技術者ですね。逆流が起きれば、作業した本人もただでは済まないでしょう」
アストリッドは資料を押さえていた指を止めた。顔を上げかけ、そのまま手元へ目を落とす。
負傷した二人の名前は公表されていない。教授が話しているのは、あのとき自分を助けたユリウスのことだった。
「逆流による負傷はありました」
ユリウスはそれだけ答えた。教授はわずかに眉を寄せる。
「そうした方法を取らずに済む停止手段が必要です。操作を受け付けなくなった炉を、別の系統から止められるなら、技術者をそこまで危険にさらす必要はなくなる」
「その場合も、炉を止めたあとの供給側まで含めて検証する必要があります」
ユリウスが供給側の記録を示すと、教授は頷いた。
「ええ。炉単体で機能することと、施設全体を安全に停止できることは、別の話です」
クライン教授が運転記録へ目を戻した。
「復帰のさせ方も、いくつか考えられますね。一定時間が経過したあと、自動で戻す回路もあります」
「ええ。どこまでが人の指示で、どこまでが回路の動作だったのか。操作の手順を考えるには、その区別も必要です」
メイソン教授が答えた。クライン教授は頷き、回路図に書き込んだ。
ハルトマン教授が、机に並べた図面を見比べた。
「この発電所の図面だけで、それを把握できたかも問題です。増設のたびに、既設側の状態をすべて調べ直したわけではありませんから」
ベルク教授は、手元の古い図面の写しを開いた。
「私が評価に用いた資料も、評価対象の設備についてまとめたものです。それだけで施設全体の接続を確認したことにはなりません」
「改修ごとの資料を合わせて、確認します」
ユリウスが答えた。アストリッドは机に並んだ資料へ目を向ける。同じ発電所に関わっていても、教授たちが確認した範囲はそれぞれ異なっていた。
ブルーノが教授たちを見渡した。
「外部から停止機能を試した可能性と、爆発そのものを狙った可能性。この場の情報だけで、どちらかに決めることはできますか」
クライン教授が首を横に振った。
「できません。操作した側が供給系の状態をどこまで知っていたのか、それによって意味が変わります」
「試験だったとしても、無断で設備へ介入したことに変わりはありませんね」
ベルク教授の言葉に、メイソン教授も頷いた。
「ええ。目的と責任は、別に考える必要があります」
アストリッドは四人の教授を見た。話を聞く限り、操作の目的はまだ絞れない。
続いて、教授たちは、改修時に確認した範囲と現在の設備図を照合し始めた。ユリウスが炉側の接続を確かめ、オリヴァーとレオンが回路について質問する。図面の年代が違うため、同じ設備を示しているのか、位置と名称を一つずつ確かめる必要があった。
ベルク教授が古い図面の一角を指した。
「こちらの接続は、その後の改修で変わっています。私が確認したのは、変更後の状態です」
「その改修の記録は、お手元にありますか」
ユリウスが尋ねると、教授は端末で資料を開いた。オリヴァーが椅子を寄せ、示された箇所を確かめる。
アストリッドが顔を上げると、入口にいたタクトと目が合った。呼ばれて廊下へ出ると、タクトは扉から少し離れたところで足を止めた。
「議論が続いているから、予定の時間を過ぎそうだね。会場はこのまま使えると確認したよ」
「分かりました」
「ロイにも伝えておいて。教授方にも、頃合いを見て僕からお伝えするよ」
「はい」
会議室へ戻ると、ハルトマン教授が別の図面を広げていた。アストリッドはロイへタクトの話を小声で伝え、隣に座った。
卓上の資料は、休憩前より増えていた。ユリウスはベルク教授から受け取った図面をオリヴァーへ渡し、次の記録を開いた。




