33 技術検討会
2026.10.26 修正
33 技術検討会
慰労会から数日後、アストリッドはロイとともに、ブルーノの席で出席者名簿を確認していた。大学名と専門分野に加え、発電設備の設計や改修に関わった経歴が並んでいる。
「技術的な意見だけでなく、設備に関わったときの話も聞きたい。誰が、何のために操作したのか、手掛かりになるかもしれない」
ブルーノの向かいには、ユリウスとオリヴァーも立っていた。
「遠隔操作だというこちらの見解は伝えない。外部制御信号の記録も、今回は配布資料に含めていない」
「停止と再稼働をどう考えるか、先生方の意見を伺います」
ユリウスが答えた。アストリッドは名簿を閉じ、会議用の資料を端末へ入れた。ロイと配布する資料を確認し、発言を記録するための入力欄も用意する。
午後、魔導省の会議室には、国立大学の教授が四人集まった。
魔導動力工学博士のヴィクトル・ハルトマン教授とコンラート・ベルク教授。魔導電子工学博士のピーター・メイソン教授とマルティン・クライン教授だった。
魔導先端工学課の職員も揃い、教授たちと同じ机に着いていた。ユリウスの前には魔導炉の運転記録が置かれ、オリヴァーとレオンは回路図を開いている。ハルトマン教授は資料の端を揃え、ベルク教授は図面に付箋を貼っていた。メイソン教授の隣では、クライン教授が端末で資料を確かめている。
アストリッドとロイは、壁際に用意された運営用の机に着いた。出席者を確かめて名簿に印を付けると、アストリッドは端末で記録用の画面を開いた。
ブルーノが開会を告げ、ユリウスが魔導炉の調査経過を説明した。続いてオリヴァーが、魔導回路の確認結果を伝える。事故直前の運転記録や、爆発後の写真は、事前に送付した資料と同じものだった。
説明が終わると、ベルク教授が記録の一か所を示した。
「この停止は、安全装置によるものではないのですね」
「はい。予定された点検でもありません」
ユリウスが答えると、オリヴァーが補足した。
「操作盤から停止命令が出た記録もありません」
「再稼働についても?」
「通常の操作手順では説明できない動きです」
ベルク教授が資料に書き込んだ。隣で、メイソン教授が運転記録を手前へ引く。
「外部から制御された可能性はありませんか」
アストリッドは端末の入力欄へ、教授の発言を書き留めた。
「炉を停止させ、時間を置いて再稼働させる。別の制御系統から指示が入ったと考えれば、この動きは説明できます」
クライン教授が、設備図にある制御盤へ指を置いた。
「操作盤を通さず、炉の制御回路へ命令を入れることも考えられますね。こちらの接続は確認できましたか」
「損傷した箇所が多く、現物だけでは追い切れません。残っている配線と、改修時の記録を照合しています」
オリヴァーが答え、手元の回路図を教授へ示した。
ハルトマン教授がペンを置いた。
「その可能性は、まず検討すべきでしょうね。操作盤から命令が出ていないのに、炉は停止と再稼働をしている。魔導省では、どこまでお調べになったのでしょう」
教授は背もたれから身体を起こし、ユリウスへ顔を向けた。
「必要な技術があり、設備にも手を加えられる人物です。関係者を確認することくらいは、お済みでしょうが」
「ハルトマン先生」
メイソン教授が、穏やかな声で呼びかけた。
「調査が不十分だと決まったわけではありません。まずは、この場で確認できることを整理しましょう」
ハルトマン教授は一度そちらを見て、資料へ目を落とした。
「失礼。では、技術の話を続けましょう」
ユリウスはベルク教授の前に、点検記録の一覧を置いた。
「先生は、この発電所で改修後の安全評価を担当されていますね。評価の際に使われた資料で、こちらの一覧にないものはありますか」
ベルク教授は眼鏡を掛け直し、一覧を上から追った。
「保守会社が撮影した、作業前後の写真ですね。報告書に載っているのは抜粋ですが、元の写真は会社側で保管していました。私が評価に使った写真と当時の図面は、手元に残っています」
「その資料も、お渡しいただけますか」
「ええ。一式お送りします」
オリヴァーが端末で点検報告書を開いた。
「元の写真は、盤の番号と撮影日を対応させられるものでしたか」
「私が見たものには記載されていました。それ以外の写真が今も残っているかは、保守会社に確認が必要です」
アストリッドは、教授から受け取る資料と保守会社への確認事項を記録した。ハルトマン教授が、一覧へ目を落とす。
「写真が残っていれば、設備全体を確認できるというわけでもありませんよ。私がこの発電所の増設に関わったときも、既設の制御盤内部は検査の対象外でした」
ユリウスは教授が示した工事の記録を開いた。
「増設側の試験記録は受け取っています。その際、既設設備について渡された資料はありましたか」
「接続点の資料です。既設側の配線をすべて追ったものではありません。私が確認した範囲は報告書に明記してあります」
「当時の資料も、改めて照合させてください」
「構いません。必要な添付記録も出しましょう」
レオンが、増設工事の図面を教授の前へ置いた。
「当時、既設側との接続を確認した箇所を示していただけますか。今回の現地記録と照合したいです」
「この接続点です。ここから先は、既設側の資料を参照しています」
教授が指で示すと、レオンは手元の図面にも同じ箇所を記した。アストリッドも、発言の記録に図面の番号を書き添えた。
ベルク教授が、運転記録へ目を戻した。
「外部から停止と再稼働を指示できても、それだけで爆発に至るわけではありません。今回は、停止している間の余剰分が逃げていない。操作の方法と、余剰分を処理できなかった理由は、分けて検討する必要があります」
「先生が評価された時点の接続も、現地の記録と照合します」
ユリウスが答えた。アストリッドは発言を記録し、ベルク教授から提供される図面も一覧へ加えた。
「外部から炉を停止する仕組みには、どういった用途が考えられますか」
ブルーノが尋ねた。メイソン教授は資料から顔を上げた。
「事故時の緊急停止や、現場の操作盤に近づけない場合の対応などです。用途そのものはあります。ただ、今回の停止が何のために行われたのかは、この記録だけでは判断できません」
ブルーノは頷き、手元の時計を確かめた。
「ここで十分間、休憩を取りましょう。再開後も、引き続きご意見を伺います」
教授たちが席を立つ間に、アストリッドは議事録を見直した。発言者の名前と資料の番号を照らし合わせ、追加で受け取るものを一覧にする。
ロイが隣から画面を見て、一か所を指した。
「資料の保管先も付けておいてくれ」
「はい。追記します」
ベルク教授の資料と、保守会社へ確認する写真を分けて記入した。ロイに一覧を確かめてもらうと、アストリッドは休憩後に使う資料を手元へ揃えた。




