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魔導省魔導災害局  作者: すもも
第二章 結婚から始まる恋愛

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31 原因の特定

2026.10.26 修正

31 原因の特定


翌朝、アストリッドは自席で、魔導生物工学局から届いた分析結果を開いていた。昨夜提出した試料の番号が並び、それぞれの結果が添付されている。


分析してくれたセシリアからの連絡には、不明な点があれば問い合わせてほしいとあった。アストリッドは受領の返事を送り、現場での採取記録を表示した。


エミールが端末を持ってきた。


「採取地点ごとに記録をまとめました。元のデータも参照できるようにしています」

「ありがとう。こちらに届いた結果と合わせましょう」


アストリッドは隣の椅子を引いた。エミールが腰を下ろし、二人で記録を照合する。採取地点と時刻に分析結果を対応させ、現場の写真や媒質の移送記録も報告書へ添えた。


昼前に確認を終え、アストリッドは報告書をロイへ渡した。


「ロイさん、まとまりました」

「ありがとう。確認する」


ロイは報告書に目を通すと、それを持ってタクトの席へ向かった。二人が資料を見ながら話している。しばらくして、タクトが書類を手にブルーノの席へ向かうのも見えた。


今回、魔導薬学係が対応したのは、気化した媒質が発電所の周囲へ飛散したことだった。槽内の液体はすべて別の保管施設へ移され、区画内と周辺に残った分も中和処理を終えている。媒質による被害は収束し、アストリッドたちの現地対応は終了していた。


午後、フロアの入口から機材ケースを運ぶ音が聞こえた。


ユリウスたちが戻ってきていた。朝、家を出るときに、魔導先端工学課の職員たちと発電所へ向かうと聞いていた。ユリウスは鞄を自席へ置くと、資料を持ってブルーノの席へ向かった。


ユリウスが広げた図面を、ブルーノが覗き込む。ユリウスは指で示しながら何かを説明していた。声までは聞こえなかったが、やがて他の課長たちが全員呼ばれた。


話が終わると、ブルーノが席を立った。


「発電所の事故について、ユリウスから説明してもらう。まずは共有フォルダの画像を見てくれ」


アストリッドは自分の端末で、指定された画像を開いた。ユリウスがブルーノの隣へ進み、職員たちに向かって説明を始めた。


「魔導炉と周辺の回路は、爆発で激しく損傷しています。残った部品から回路の構成を解析することはできません」


表示された写真では、炉の外殻が大きく裂けていた。周囲の配線も切れ、破片とともに床へ落ちている。アストリッドが現場で見たときより近い位置から撮られたものだった。


「ただ、運転記録のバックアップは残っていました。サーバールームは別の事務棟にあり、今回の爆発による損傷を免れています」


アストリッドは次に指定された資料を開き、運転記録を表示させた。時刻に沿って並んだ数値の一部に印が付けられている。


「炉の運転状態と、供給側の記録を照合しました。爆発する少し前に、この炉は一度停止しています」


ユリウスが示した時刻には、運転状態が停止へ切り替わり、出力もゼロになっていた。その間も、別の欄には数値が続いている。


「炉が止まっている間も、上流からの魔導エネルギーの供給は続いていました」


アストリッドは、停止した時刻を起点に、供給側の記録を追った。


「通常なら余剰分を逃がす経路がありますが、今回はそちらへ流れていません。記録では、停止している間にエネルギーの蓄積量が増え続けています」


アストリッドは二つの記録を見比べた。炉が停止している時間と、蓄積量が増えている時間が重なっていた。


「その後、炉が再稼働し、蓄積していたエネルギーが一気に流れ込みました」


次に示されたのは、再稼働直後の流入量だった。アストリッドはその欄を拡大する。大きな値が記され、それを最後に炉側の記録は途切れていた。


「流入量は炉の臨界点を超えています。現場の損傷状況から急激な過負荷を疑っていましたが、記録からも確認できました。これが爆発の原因です」


ユリウスは一度言葉を切り、手元の資料をめくった。


「停止と再稼働の経緯についても分かっています。操作盤から停止命令が出た記録はありません。予定された点検でもなく、安全装置も作動していませんでした」


ユリウスが制御系の記録を示した。アストリッドも同じページを開く。


「バックアップには、外部からの制御信号を受けた記録が残っていました。停止も再稼働も、その信号に応じて行われています。正規の操作系統から出された命令ではないことも確認しました」


信号を受けた時刻と、炉が停止した時刻が一致していた。再稼働の直前にも、外部信号の受信が記録されている。


ユリウスが記録から顔を上げた。


「炉が外部から遠隔操作されたことは確認できます」


アストリッドは資料をめくり、破損した回路の写真へ戻った。


「回路そのものは解析できませんが、残った記録と現場の状況を合わせれば、外部から停止と再稼働の命令が送られたことは断定できます」


ユリウスが資料を机に置くと、ロイが口を開いた。


「供給施設の件と、関係があるのか?」


ユリウスは首を横に振った。


「そこまでは分からない。今回の操作を誰が行ったのかも、何のために炉を止め、再稼働させたのかも不明だ。爆発まで意図していたのかどうかも分からない。回路を比較できない以上、供給施設の件と同じ人物が関わっていると決めることもできない」


アストリッドは、外部信号の記録にも印を付けた。運転記録と制御信号の記録を保存し、受け取った資料の一覧へ加えた。


ブルーノがフロアを見渡した。


「引き続き、魔導先端工学課を中心に調査する。関係機関への説明は、私から行う」


共有が終わると、ロイは届いた資料を保存し、エミールにも声をかけた。アストリッドは自分たちの対応記録に、今受け取った資料の保存先を付け加えた。媒質の漏出への対応は終わっても、設備側の調査に必要な記録は渡せるようにしておかなければならない。


ユリウスはオリヴァーと図面を広げ、いくつかの箇所を確かめていた。やがて自席へ戻る途中で、アストリッドの机に立ち寄った。


「アストリッド、今日も先に帰っていて」

「今日も遅くなりそうですか?」

「まだ分からない。区切りがついたら帰るよ」


アストリッドは頷く。事故が起きてからユリウスは忙しくなり、昨日は帰宅時間が遅かった。


「あまり無理はしないでください」

「ありがとう。アストリッドは先に休んでて」


ユリウスが小さく笑った。アストリッドも微笑みを返す。


「帰る前に、連絡をいただけますか」

「もちろん」


ユリウスはそう答えて、自席へ戻った。アストリッドは机の上を片づけると、連絡に気づけるよう端末の通知を確かめ、鞄へ収めた。

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