03 歓迎会(フライング)
十一人となると、自然と選択肢は絞られた。
座敷のある宴会場か、貸し切り。
椅子よりは掘り炬燵のほうが落ち着く。
「初日に焼き鳥は、煙がついて可哀想だと思いまして」
そう言ったジョンに、すぐ声が返る。
「料亭って……」
「お前の実家じゃねえか」
「だってみんな、掘り炬燵がいいって言ってたじゃないですか」
反論は出ない。
結局、ジョンの実家の料亭に決まった。
奥の宴会場は静かで、掘り炬燵が整えられている。
座布団が並ぶ中、ソフィアが一番に動いた。
「アストリッド先輩は、私の隣です」
そう言って、左側の座布団をぽふぽふと叩く。
ソフィアの正面にはユリウス。
右隣にノエル、さらにその隣に係長のチャーリーが座り、魔導通信課の面々が続く。
アストリッドの正面にはロイが陣取り、左隣にアーロン、その先にディランが腰を下ろした。
全員が腰を下ろすと、ようやく形になった。
料理は決まったコースではないが、予算の範囲で次々と運ばれてくる。
「単品追加は自腹ですよ」
ジョンはそう言いながら、飲み物の給仕も手伝っていた。
グラスが行き渡ったところで、ノエルが口元を緩める。
「じゃあ、乾杯の音頭を。課長、お願いします」
「僕は君たちの課長じゃない。そっちの課長はどうしたんだ」
「うちの課長、今日は結婚記念日でして。辞退されました」
「じゃあチャーリーがすればいい。係長だろう」
「ユリウスがこの中で一番偉いんだから。諦めろ」
視線が集まり、結局ユリウスが立つ。
「正式な歓迎会は別日にあるが、まずはソフィア。魔導災害局へようこそ。分からないことは先輩たちに聞くといい。各課も、必要な連携は回してくれ」
グラスを持ち上げて全員を見渡す。
「乾杯」
「乾杯!」
グラスが鳴る。
宴会は和やかに始まった。
◇
「美味しい……」
ソフィアが素直に感激する。
料理も酒も進みが早い。
グラスが空くたび、ビールが注がれた。
「先輩、覚えていますか。私が初等部一年のとき、三年だった先輩に助けてもらって」
「覚えていますよ」
「上級生相手に理詰めで言い負かして……」
「可愛げのない子供でしたね」
「そんなことないです。私、すごく嬉しかったんです」
笑うたび肩が揺れ、ソフィアは距離を詰めていく。
指先がアストリッドの腕に絡み、やがてこてんと肩に頭を預けた。
「先輩みたいな淑女に憧れました」
甘える声のまま抱きつかれ、アストリッドは身動きが取れなくなる。
胸元へ伸びた指先が、落ち着きなく彷徨った。
「ちょっと、ソフィア……」
ユリウスは何とも言えない顔をする。
ソフィアの正面の席で、目のやり場に困っていた。
「ソフィア。淑女はそんなことしない」
見かねたユリウスの低い声が落ちる。
空気が一瞬、張った。
ソフィアがハッとして手を離す。
「ごめんなさい……」
「ソフィア、ここは女子会じゃないんですよ」
「はい……」
ソフィアは深く頷いた。
アストリッドも強く叱る気にはなれない。
「もうお酒はこの辺で。ジュースにしましょう」
ジョンがすぐに動き、ジュースの入ったグラスを置いた。
男たちは口を挟まない。
視線だけが一瞬交わり、各自のグラスへ戻った。
◇
「では、一旦締めます。二次会に行く人は挙手!」
ノエルがそう聞けば、半分が手を挙げる。
ユリウスとディランは挙手しなかった。
「僕は帰る。明日も現場だからな」
「俺も帰るよ。奥さんが待ってるし」
「私も、明日は現場なので」
「先輩が帰るなら私も……」
女性二人が続けて帰ると言った途端、魔導通信課の男たちの空気が露骨に落ちた。
「二人はうちの車に乗るといい。ロイも乗れ」
「ロイさん、明日は現場ですよ?」
「俺はまだ全然酔ってないから、平気平気」
「乗れ」
ユリウスとロイの間で、しばし無言のやり取りが続く。
ロイが先に折れた。
「……迎えを呼んでくる」
ユリウスはそう言って席を立つ。
二次会に行けないならと、ロイは座り直して余ったビールを飲み始めた。
魔導通信課の面々は二次会の場所を早速相談している。
「ソフィア、帰る前にお手洗いに行きましょう」
「はい」
ソフィアはアストリッドに手を引かれながら立ち上がる。
足取りはふらつき、危なっかしい。
ユリウスが戻り、アストリッドとソフィアも席へ戻る。
改めてお開きになった。
ソフィアはアストリッドに甘えるように寄り添いながら、駐車場へ向かった。
「女性優先だ。それに、ロイのお守りは最優先だ」
「俺は子供じゃない!」
ロイはある程度なら飲めるが、朝にものすごく弱い。
酒を飲めば翌日は家族の助けを借りなければ起きられない。
同期で幼馴染のユリウスが家まで送り届けるのが常だった。
やがて黒塗りの車が静かに滑り込む。
ユリウスの実家の車だった。
四人が乗り込み、ドアが閉まる。
「ではまた明日」
車が走り出し、店先の灯りが遠ざかった。
二次会組は別の方向へ散っていく。
課の歓迎会の夜は、そうして静かに終わった。




