27 大規模魔導災害
2026.10.26 修正
27 大規模魔導災害
その日の午後、アストリッドは自席で報告書を確認していた。午前中に届いた検査結果をまとめ、数値を確かめる。少し離れた席では、ロイとエミールも端末に向かっていた。
電話を受けていた職員がブルーノの席へ向かい、声を落として何かを伝えた。ブルーノが眉を寄せ、統括課長とタクト、ユリウスを呼ぶ。
アストリッドは手を止めた。会話までは聞こえない。まもなく、タクトがこちらへ戻ってきた。
「王都西部の魔導発電所で爆発事故があった」
ロイが顔を上げる。
「発電所ですか?」
「ああ。発電用魔導炉のある建屋で爆発した。消防が周囲を簡易測定したところ、施設外でも魔導媒質が検出された。それで対応要請が来た」
アストリッドも立ち上がった。
「媒質貯蔵区画も損傷しているんですか?」
「そのようだね。詳しい状態は、現地で確認する」
タクトは三人を見た。
「僕は現場の指揮に入る。ロイ、アストリッド、エミールは貯蔵区画を確認して。漏出を止める方法を検討したい」
「はい」
三人は防護服と防護マスク、測定器、採取容器、簡易分析器を揃えた。同じフロアでは、ユリウスも魔導先端工学課の職員に指示を出していた。
「現場へ出られる職員を集めて。局には連絡対応の人員を残す。発電用魔導炉と周辺回路、補助設備を確認するから、必要な機材を持っていこう」
「分かりました」
「現地の設備情報は?」
オリヴァーが資料を開いた。
「電力会社から届いたものを確認しています」
「移動中に見るよ」
タクトがブルーノへ声をかける。
「僕たちは先に現場へ向かいます」
「ああ。状況が分かり次第、連絡をくれ。私と次長も準備ができたら向かう」
「分かりました」
装備をまとめて顔を上げると、ユリウスと目が合った。
「無理しないでください」
「アストリッドも」
それだけ言って、それぞれ準備に戻った。
現場へ近づくにつれて、道路が混み始めた。消防と警察の車両が行き交い、警察官が交差点で車両を誘導している。
「思ったより大きいな」
隣に座るロイが窓の外を見る。発電所の建物の窓が割れ、敷地の周囲にも破片が散っていた。近くの住宅や店舗からは、荷物を持った人々が警察官の誘導に従って移動している。
車は発電所の敷地から離れた場所で停まった。仮設テントの前に消防と警察の車両が並び、机を囲んだ人々が地図を見ていた。
タクトに続いてテントへ入ると、消防の担当者が発電所の職員とともに迎えた。
「ここに現地災害対策本部を置いています。周囲は測定済みです。この場所では媒質は検出されていません」
地図には測定地点と立入規制の範囲が書き込まれていた。タクトが発電所の周辺を指す。
「敷地の外でも検出されたんですね」
「はい。施設の職員と消防で簡易測定を続けています。警察が周辺住民の避難を進めています」
「分かりました。測定結果は引き続き本部へ集めてください」
発電所の職員が設備図を広げた。
「爆発したのはこちらの建屋です。天井がすべて吹き飛びました。爆発時、建屋の周囲には人はいませんでした。施設内の窓ガラスも割れています。隣の媒質貯蔵区画は、壁に大きな穴が開いています」
アストリッドは二つの区画の位置を確かめた。図面では、媒質貯蔵槽が損傷した壁に沿って並んでいる。
「媒質は槽内に残っていますか?」
「はい。槽も衝撃で損傷していますが、媒質は残っています。爆発の直後から、区画の外でも測定器が反応しています」
アストリッドは貯蔵区画の出入口と、槽から続く配管の位置を確かめた。槽の状態だけでなく、液体を取り出す経路も調べる必要がある。
「貯蔵量の記録も用意してください。抜き取りが必要になるかもしれません」
「分かりました」
「魔導エネルギーの供給は?」
ユリウスが尋ねた。
「現在は停止しています。炉や回路に残っている分は、まだ確認できていません」
「では、僕たちが確認します。運転記録も用意してもらえますか」
「手配します」
消防の担当者が図面に通路を示した。
「こちらから入れます。損傷した壁には近づかないでください」
タクトは通路の位置を確認し、ロイへ顔を向けた。
「貯蔵区画を見てきて。僕はここで調整する。入れない場所があれば、無理せず戻って」
「分かりました」
アストリッドたちはテントの外で防護服を着た。エミールと互いに装着状態を確かめ、防護マスクをつける。ロイが測定器を起動し、三人は案内する職員に続いて敷地内へ向かった。
敷地へ入ったところで空気中の濃度を測り、エミールが地点と時刻を記した。貯蔵区画へ近づいたときの数値と比べるため、ここから測定を続ける。
消防の通信機から短い報告が聞こえた。通路にいた隊員が、壁から離れて歩ける場所を示す。アストリッドはロイに続き、エミールが後ろから来るのを確かめた。
通路には割れたガラスが散っていた。歩ける幅は確保されているが、建物の窓枠には細かな破片が残っている。アストリッドは足元と壁を確かめながら進んだ。
爆発した建屋の前で、職員が足を止めた。天井のあったところには空が見え、コンクリートの壁の上部が欠けている。
ユリウスとオリヴァーが設備図を確かめる。
「炉だけでなく、接続している回路と配線も確認しよう。供給が止まっていても、残っているエネルギーがあるかもしれない」
「分かりました」
「原因を調べるためにも記録は必要だ。まずは安全に確認できる設備から進めよう」
アストリッドたちは、その先の貯蔵区画へ向かった。外壁に開いた穴から、複数の貯蔵槽が見える。槽のそばにはコンクリートの破片が散っていた。
アストリッドは通路から測定器を向けた。表示された濃度は、敷地へ入ったときより高い。位置を変えて確かめても、穴の前では数値が上がった。
「ここから漏れています」
ロイも測定値を確かめ、エミールが地点と時刻を記録した。アストリッドは空気を採取し、容器を密封する。
壁の穴は人が通れるほど大きく、周囲にも亀裂があった。その向こうに液体の媒質を収めた槽が並んでいる。区画の状態を確かめる間も、測定器は媒質を検出し続けていた。




