20 解析依頼
2026.10.26 修正
20 解析依頼
続いて訪れた王都南部魔導供給施設でも、規格表示のない魔導回路が確認された。東部施設で回収したものと同じく、製造元と規格番号の表示がなく、保守記録にも交換の記載はなかった。事故現場から回収された回路と、外見上の共通点もある。設備への接続状態を確認したあと、問題の回路は取り外され、専用のケースに収められた。
魔導災害局へ戻ったのは、夕方だった。アストリッドはロイやエミールたちと地下駐車場からフロアへ上がった。東部施設と南部施設から回収した二つのケースは、魔導先端工学課の席へ運ばれた。ロイとエミールが魔導薬学係の席へ戻る。アストリッドは回路の確認結果も聞いておくため、レオンたちのあとを追った。
レオンが回収記録を開き、オリヴァーの席へ向かう。オリヴァーは机の上を空けた。
「まず、こっちで確認します」
ユリウスも席を立ち、オリヴァーのところへ来た。
「記録を確認してから開けよう」
「はい」
レオンが端末を操作する。東部施設の第二変換設備の補助安定化装置から回収した回路と、南部施設から回収した回路。どちらも取り外す前の位置と接続状態が記録されている。オリヴァーは二つのケースに付けられた番号を確認した。レオンが読み上げる記録と一致している。
「問題ありません」
ケースを開く。東部施設から回収した回路と、南部施設から回収した回路が並ぶ。アストリッドはオリヴァーの席の横から二枚を見た。
基板の大きさと端子の配置、固定部分の位置。二枚を並べると、共通する部分がはっきりした。部品の配置にも似たところがある。
オリヴァーが一枚ずつ確認する。
「外形はかなり近いですね」
「同型ですか?」
「まだそこまでは言えない」
オリヴァーは南部の回路へ視線を移した。
「部品も確認します」
表面から確認できる各部品の規格表示を読み取り、端末へ入力していく。東部の回路。南部の回路。いくつか確認したところで、オリヴァーが画面を見る。
「使われている部品の規格も近いです」
ユリウスが画面を確認した。
「製作時期も近そうだな」
「その可能性は高いと思います」
オリヴァーはもう一度、二枚を見比べた。
「少なくとも、使われている部品の世代に大きな差はありません」
「劣化の状態は?」
「こちらも大きな差はないですね。ただ、設置されていた環境でも変わるので、これだけで製作時期までは決められません」
「分かった」
オリヴァーは二枚の回路を撮影し、比較用の画像を作る。レオンが記録を追加した。
オリヴァーが事故現場から回収された回路の解析資料を端末に表示した。
北部、東部、南部。三つの画像が画面に並ぶ。オリヴァーが順に拡大する。端子の配置と固定部分、表面から確認できる部品。
「共通点は多いですね」
ユリウスが尋ねた。
「北部の回収品と同じものだと思うか?」
オリヴァーは北部の解析資料と、二つの回収品を見比べた。
「表面から確認できる範囲では、かなり近いです」
東部と南部の回路をもう一度確認する。
「内部構造と機能まで比較するなら、また魔導先端工学局に依頼した方がいいですね」
ユリウスが頷いた。
「そうだな」
「北部の解析結果との比較も依頼しますか?」
「外部から信号を受け取る機能があるか。接続された設備の制御回路へ同じように信号を渡せるか。それから、内部構造がどこまで一致しているか」
「製作時期の推定も依頼しますか?」
オリヴァーが尋ねた。
「そうしてくれ。どれも共通点が多すぎる」
「分かりました」
オリヴァーとレオンが解析依頼の資料を作り始める。アストリッドは画面に並んだ三つの回路を見る。
オリヴァーが東部と南部の回路をそれぞれケースへ戻した。レオンが番号を確認し、記録を更新する。ユリウスも内容を確認した。
アストリッドは自分の席へ戻った。ロイはすでに端末を開いて仕事を再開していた。アストリッドが席に着くと、ロイが顔を上げる。
「回路の確認は終わったか?」
「はい。東部と南部の回路は、魔導先端工学局へ解析に出すことになりました」
「そうか」
ロイが一件の記録をアストリッドの端末へ送った。
「今送ったのが昨日入った曝露事故だ」
アストリッドは届いた資料を開く。作業員一名。症状は軽く、すでに処置を受けている。
「使用した媒質の確認がまだ終わってない。記録と症状が合ってるか見てほしい」
「分かりました」
「今日中じゃなくていいぞ」
「はい」
使用された媒質と記録された濃度、曝露した時間、応急処置の内容。アストリッドは最初の記録から確認を始めた。




