19 国立大学の院生
2026.10.26 修正
19 国立大学の院生
ロイも端末を閉じた。
「こっちも問題ない」
「こちらもです」
エミールが答えた。タクトは三人の結果を確認した。
「では、戻るぞ」
「はい」
アストリッドたちは大学の一団より先に設備区画を出た。魔導電子工学係と魔導情報通信係も、すでに確認を終えている。更衣区画で防護服を脱ぎ、身支度を整える。三係の調査結果を簡単に確認してから、一行は施設のロビーへ向かった。
回収した回路は専用のケースに収められ、レオンが記録を確認している。その隣では、オリヴァーがユリウスと話していた。
「戻ったら解析に出します」
「そうしてくれ」
媒質側に異常はない。通信系統にも、現時点で事故につながる異常は見つかっていない。残ったのは、規格表示のない回路だった。
廊下の奥から話し声が聞こえてきた。大学の見学組も戻ってきたらしい。メイソン教授を先頭に、グレイ助手と六人の学生がロビーへ入ってくる。防護服を脱いだ学生たちは、アストリッドと同じくらいの年代に見えた。
グレイ助手がアストリッドへ顔を向けた。
「シルヴェル主任」
「グレイ助手」
「改めて、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
最後に会ったのは、しばらく前の会議だった。
近くにいた学生が、二人へ顔を向けた。
「グレイさん、シルヴェル主任と知り合いなんですか?」
「前に会議や現場で何度かお会いしたことがあるんだ」
「そうなんですか」
学生はアストリッドを見る。
「さっき、媒質の区画にいましたよね?」
「はい」
「俺たちは回路なので、あっちは全然分からなくて」
「専門が違えば、見るところも違いますから」
グレイ助手が学生を見る。
「だから見学に来てるんだろ」
「分かってますよ」
学生はそう答えてから、少し間を置いた。
「すみません。シルヴェル主任って、俺たちとあまり年が変わらないように見えるんですけど」
「おい」
グレイ助手が止める。アストリッドは答えた。
「二十四です」
学生が目を見開いた。
「え、俺も二十四です」
「そうなんですね」
隣にいた学生もこちらを見る。
「二十四で主任?」
少しして、その学生が聞いた。
「王立学院のご出身ですか?」
「はい」
「ああ、なるほど」
最初の学生が口を挟む。
「俺たちだって国立の院まで来てるんだけどな」
「そこで張り合うなよ」
「張り合ってないって」
学生たちが笑う。グレイ助手が口を挟んだ。
「本人の前でする話じゃない」
「すみません」
最初の学生がアストリッドに頭を下げた。
「でも、同い年でもう主任っていうのはすごいです」
「ありがとうございます」
学生は、回収用ケースのそばにいるオリヴァーたちへ目を向けた。
「今日見てたら、魔導省も面白そうだな」
隣の学生が笑った。
「お前、大学に残るって言ってなかった?」
「まだ決めてない」
「この前は残るって言ってたぞ」
「実際に仕事を見る機会なんて、そんなにないだろ」
「さっきの回路の調査も面白かったし」
グレイ助手が頷いた。
「見学に来た意味はあったみたいだな」
「ありましたよ」
「なら、帰ったら今日見たことを整理しておけ」
「はい」
学生が素直に返事をする。アストリッドはグレイ助手に尋ねた。
「学生の引率もされているんですね」
「今日は教授の補助です。現場を見るのは貴重な体験ですから」
「そうなんですね」
「元気なのはいいんですが、こういう場所でも普段とあまり変わらないので」
グレイ助手が学生たちの方を見る。
「聞こえてますよ」
学生の一人が言った。
「聞こえるように言ってる」
グレイ助手が返すと、学生たちが笑った。
「シルヴェル主任は、今日はこのあと魔導省へ戻られるんですか?」
グレイ助手が聞いた。
「はい。回収したものもありますので」
「そうですか」
グレイ助手が回収用のケースを見る。
「今日は大がかりな調査でしたね」
「三係で来ていますから」
「現場でこれだけの人数がそろっているところを見るのは久しぶりです」
「私も、普段は自分の係だけで動くことの方が多いです」
「そうですよね」
そこで会話が途切れた。最初の学生が、アストリッドの左手に目を留める。
「シルヴェル主任、ご結婚されてるんですか?」
アストリッドも左手を見る。グレイ助手も指輪へ目を向けた。
「ご結婚されたんですね」
「はい」
「知りませんでした。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
学生が聞いた。
「お相手も魔導省の人ですか?」
「はい」
アストリッドはそれだけ答えた。学生は頷いたあと、グレイ助手を見る。口元が緩んだ。
「グレイさん、残念でしたね」
「お前は黙っていろ」
周囲の学生たちが笑った。言った本人も笑ってから、アストリッドに頭を下げる。
「すみません」
「いえ」
グレイ助手も少し困った顔をした。
「すみません。普段からこんな調子で」
「大丈夫です」
少し先から、メイソン教授の声がした。
「そろそろ行きますよ」
「はい」
学生たちが返事をする。
「ほら、行くぞ」
グレイ助手が促した。学生たちがメイソン教授の方へ向かっていく。先ほどの学生は、最後にアストリッドへ会釈してからその後を追った。グレイ助手は一礼した。
「失礼します」
アストリッドも軽く頭を下げた。大学の一団がロビーを出ていくのを見送り、魔導災害局の職員たちの方へ戻った。




