18 現地調査
2026.10.26 修正
18 現地調査
王都東部魔導供給施設には、魔導災害局から十二名が入ることになった。魔導先端工学課、魔導生物工学課、魔導情報工学課。各課から四名ずつ。
事故現場は現在も封鎖されている。原因を調べるため、同じ設備を持つ別の施設で、事故時に開かなかった扉を含めて確認することになった。
防護服に着替え、アストリッドたちは施設職員の案内で設備区画へ入った。
「事故現場と同型なのはこちらです」
設備区画には、事故現場と同型の媒質貯蔵設備や扉もあった。まず全員で、前回確認した第二変換設備の制御盤へ向かう。各係に分かれる前に、調査対象の回路を確認する。
制御盤の前では、オリヴァーが内部を確認していた。
「そのままですね」
レオンが隣で記録を取っている。規格表示のない回路が一枚、ほかの回路の間に収まっていた。事故現場で回収されたものと、外見上の共通点がある。
オリヴァーが端子の配置と固定部分を確認する。
「前回から変わっていません。ユリウスさん、外して確認してもいいですか?」
ユリウスが施設職員を見る。
「設備への影響は?」
「切り替えれば問題ありません」
「では、ほかの確認が終わってから外しましょう」
「分かりました」
そのとき、通路の向こうから複数の声が聞こえた。アストリッドが顔を上げる。別の施設職員に案内されて、一団が歩いてきていた。全員、防護服を着ている。
「本日は国立大学の院生の見学の予定が入っていまして」
案内役が説明した。先頭にいる二人には見覚えがあった。会議や現場で何度か顔を合わせている、ピーター・メイソン教授と、その助手のダニエル・グレイだった。後ろには大学院生が六人続いている。
メイソン教授がこちらへ顔を向けた。
「これは、魔導省の皆さんでしたか」
互いに挨拶を交わす。
「先日の事故の調査ですか?」
「はい」
ユリウスが答えた。
「事故現場は現在も封鎖されていますので、同じ設備のある施設で原因究明に向けた確認をしています」
「扉が開かなくなったと聞いています」
「その点も調査しています」
事故が発生し、職員二名が巻き込まれたことは公表されている。誰が巻き込まれたのかまでは公表されていない。
メイソン教授が後ろの大学院生たちを示した。
「魔導回路を専攻している学生たちです」
大学院生たちの視線は、開かれた制御盤へ向いていた。オリヴァーが作業を再開すると、興味深そうにその手元を見る。施設職員がメイソン教授を紹介した。
「教授は、この施設の建設にも関わっていらしたんですよ」
ユリウスが教授を見る。
「建設当時の設計にも?」
「ええ。設備設計の一部を担当しました」
ユリウスが制御盤へ目を向けた。
「でしたら、一つ確認していただけますか」
「何でしょう」
オリヴァーが場所を空ける。ユリウスが、規格表示のない回路を示した。
「こちらです。見覚えはありますか」
メイソン教授が制御盤の中を確認する。大学院生たちも、少し離れたところからそちらを見ていた。
しばらくして、教授が答えた。
「私が設計したときには、なかったものです」
オリヴァーが設計図を開く。
「現在残っている当初の設計図にも記載がありません」
レオンがその内容を記録する。オリヴァーはもう一度、回路を見た。
「少なくとも、当初の設計には含まれていなかったということですね」
「ええ」
ユリウスが頷いた。
「ありがとうございます」
「いえ。参考になったなら何よりです」
「アストリッド」
タクトに呼ばれ、そちらを見る。
「媒質側を確認するぞ」
「はい」
アストリッドは制御盤を離れた。ロイとエミールも合流し、四人で魔導媒質を扱う区画へ向かう。
事故現場と同じ設備が並んでいる。アストリッドは現在の数値を確かめ、運転記録を遡った。魔導媒質の状態や濃度に異常はなく、過去の記録にも、事故現場で確認されたような異常値は残っていなかった。
「こちらは問題なさそうですね」
エミールが言った。
「はい。少なくとも、確認した範囲では異常はありません」
アストリッドは最後の記録を保存した。
そこへ、通路から声が聞こえてきた。先ほどの大学の一団が、施設職員の説明を聞きながらこちらへ入ってくる。オリヴァーたちの作業を熱心に見ていた学生たちは、今度は魔導媒質の設備を見回している。
アストリッドは端末を閉じた。
あの回路は、いつ、どの段階で組み込まれたのか。そこを確認する必要があった。




