16 調査報告
2026.10.26 修正
16 調査報告
魔導災害局へ戻ったのは、夕方を過ぎた頃だった。地下駐車場で公用車を降り、三人でフロアへ向かう。扉が開く。まだ多くの職員が席に残っていた。レオンは魔導先端工学課へ、リタは魔導情報工学課へ向かい、アストリッドも自分の席へ戻った。
携行端末の記録を局内端末へ移す。施設概要と保守記録、撮影した制御盤、規格表示のない魔導回路。必要な資料を揃え、タクトの席へ向かった。タクト・グリマーは魔導生物工学課の課長だ。
「タクトさん、調査の報告があります」
「何か見つかった?」
「確認が必要な回路が一つありました」
携行端末を机へ置き、撮影した制御盤と保守記録を示した。現地で確認した内容を報告すると、タクトは問題の回路を拡大した。
「触ってないよね?」
「はい。記録だけ取っています」
「それでいい」
アストリッドは保守記録へ画面を切り替えた。
「これはブルーノさんへ報告した方がいいね」
「はい」
アストリッドが端末を持ち上げたとき、少し離れた席にいるレオンが見えた。
ユリウスの机の前に立ち、端末を指し示している。ユリウスが画面に顔を近づけた。レオンが端末を操作すると、ユリウスは画面を指した。
さらに奥では、リタがアランの席にいた。アランもリタの端末を覗き込んでいる。
アストリッドも、自分が確認してきた保守記録へ目を戻した。
しばらくして、タクトが席を立った。ユリウスも端末から顔を上げる。アランが手元の資料を閉じた。
「そっちもブルーノさんに報告する?」
「ああ」
「その必要がある」
三人の課長がブルーノの席へ向かった。
アストリッドは自分の席へ戻った。
少しして、レオンが近づいてくる。
「ユリウスさんも確認が必要だって」
リタも戻ってきた。
「アランさんも同じです」
「三課とも同じですね」
「初日でこれか」
レオンが自分の席へ視線を戻した。アストリッドはブルーノの方を見る。タクト、ユリウス、アランの三人が、ブルーノの机に端末を並べていた。
しばらくして、ブルーノが顔を上げた。
「アストリッド、レオン、リタ。小会議室へ来てくれ」
三人で席を立つ。小会議室には、ブルーノとタクト、ユリウス、アランが先に入った。アストリッドたちも空いている席へ座る。七人が揃ったところで扉が閉まった。
「三課から同じ回路について報告が届いている。現地で確認した内容を順に聞く」
アストリッドは端末を開いた。
「第二変換設備の補助安定化装置で、規格表示のない魔導回路を一枚確認しました」
制御盤の画像を会議室の画面に表示する。
「施設側にも確認しましたが、交換記録はありません。古い保守記録にも該当する記載はありませんでした」
「設置時期は?」
「分かりません」
ブルーノは画像からレオンへ視線を移した。レオンが自分の端末を操作する。事故現場から回収された回路の画像が、その横に並んだ。
「外から見える範囲だと、端子の数と配置、それから固定部分の位置に共通点があります」
二つの画像の向きを揃える。アストリッドも見比べる。
似ている。だが、同じだとは言えない。
「事故現場のものは内部まで解析されています。今回の回路は外から確認しただけなので、内部構造までは分かりません」
ユリウスが二つの画像を拡大した。
「現物を確認した方がいい」
ブルーノの視線がリタへ移る。
「問題の回路は設備側の制御系統には接続されています。ただ、中央制御室との通常回線と予備回線には直接つながっていません」
リタが通信系統図を表示する。アランは事故現場の解析資料を開いた。
「事故現場から回収した回路には、正規の通信系統を経由せずに外部から信号を受け取る機能がある」
今回の系統図と、事故現場の解析結果が並ぶ。
「今回の回路にも同じ機能があるかは分かりません。ただ、正規の通信系統につながっていないからといって、外部から信号を受け取れないとは判断できません」
ブルーノは資料へ目を落とした。
一つの共通点だけでは判断できない。だが、重なる点が多い。アストリッドは現地で保存した記録を開いた。
「施設は現在も稼働しています」
タクトが画面を見る。
「異常は?」
「ありませんでした。確認した範囲では、設備の数値も安定していました」
タクトは小さく頷いた。
「この段階で、設備の停止を求めるだけの根拠はないね」
「同じ回路だと分かれば、話は変わるな」
ブルーノの言葉に、ユリウスが頷いた。
「写真だけでは判断できません。現地でもう一度確認した方がいい」
「取り外す必要は?」
「今はありません」
ユリウスは問題の回路を拡大した。
「端子ごとの接続先と、周囲の制御回路を確認します」
「通信側も実物を見たい」
アランが系統図へ視線を戻す。
「図面にない接続がないか確認する」
ブルーノがタクトを見る。
「生物工学側は?」
「設備側を確認する。もし制御に介入できる回路なら、異常が起きたときにどこまで影響するか見ておきたい」
ブルーノは一度、資料へ目を落とした。
「分かった。現地を再調査する」
アストリッドは顔を上げた。
「施設側には?」
「不審な回路との関連は伝えない。研修を兼ねた同型設備の安全確認として入る」
ブルーノは三人を見る。
「現地で確認できるまでは、今日と同じだ。回路には触るな」
「はい」
「ああ」
「分かりました」
日程と人員は三課で調整することになった。
会議が終わり、七人で小会議室を出る。
フロアでは、別の調査班が戻ってきていた。数人が一つの端末を囲んでいる。ブルーノが足を止めた。
「次の班も戻ったか」
タクトもそちらを見る。
「ほかの班の結果も聞いておいた方がいいね」
そのまま全員で向かう。戻ってきた班の一人が、ユリウスへ端末を渡した。画面には制御盤が映っていた。アストリッドは少し離れた場所から、その画像を見る。
並んだ魔導回路。一枚だけ、ほかと違う。ユリウスが画面を拡大した。
「この回路は?」
「規格表示がありませんでした」
「保守記録は?」
「確認しましたが、交換記録はありません」
隣では、レオンとリタも画像を見ていた。
「場所は?」
「王都南部魔導供給施設です」
今日調べた施設とは別だった。規格表示がない。交換記録もない。
王都北部魔導供給施設と、王都東部魔導供給施設。そして、王都南部魔導供給施設。
同じものだとは、まだ分からない。それでも、詳しく調べる必要のある回路が、また一つ増えた。




