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魔導省魔導災害局  作者: すもも
第一章 事故から始まる結婚

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15 新人研修

2026.10.26 修正

15 新人研修


翌週。アストリッドは地下駐車場で携行端末を確認した。今日訪問するのは、王都東部魔導供給施設だった。王都へ供給される魔導エネルギーの一部を受け取り、変換・安定化して各区画へ分配する施設で、王都北部魔導供給施設より規模が大きい。


アストリッドは施設資料を閉じ、内部向けの調査資料を開いた。魔導回路の製造番号と交換履歴、通信系統、正規の記録にない部品の有無。一通り確認したところで、駐車場に足音が響いた。


「おはようございます」


顔を上げる。魔導先端工学課のレオンと、その後ろから魔導情報工学課のリタが近づいてきた。


「おはようございます」

「おはようございます」


二人が揃ったところで、アストリッドは端末を閉じた。


「今日の目的は分かっていますね?」

「ああ。表向きは現地研修だろ。施設を見ながら、対象の回路がないか調べる」

「見つけても触らず、記録だけ取るんですよね」

「そのとおりです。特に、こちらから不自然に特定の設備へ関心を示さないでください。何か見つけても、その場で結論を出さないこと」

「了解」

「はい」


三人は公用車へ乗り込んだ。移動中、アストリッドはもう一度施設の図面を確認した。建設から二十七年。大規模な改修は二度行われている。


事故現場から回収された回路が、いつ設置されたのかは分かっていない。施設の新旧だけでは判断できなかった。


「アストリッド」


アストリッドは端末から顔を上げ、レオンを見た。


「何ですか?」

「事故現場にあった回路って、外見だけで分かるのか?」

「形だけでは判断できません。規格表示や端子の配置まで確認する必要があります」

「じゃあ、結局かなり見ることになるな」

「研修ですから」

「便利な名目だな」


否定はできなかった。


やがて公用車が施設へ到着した。受付前では、管理責任者と二人の職員が待っていた。


「魔導災害局の研修班です。本日はよろしくお願いいたします」


アストリッドが身分証を示すと、責任者も一礼した。


「お待ちしておりました。まず概要をご説明したあと、中央制御室からご案内します」

「お願いします」


施設概要の説明を受けたあと、三人は中央制御室へ向かった。壁一面に表示盤が並んでいる。各設備の数値に異常はない。


「ここで施設全体の運転状況を監視しています」


アストリッドは表示盤を確認した。レオンは設備を見回し、リタは通信装置へ目を向けた。


「通信が途絶した場合は?」

「通常回線とは別に予備回線があります。両方が使用できなくなった場合には、各設備側で独立して安全停止します」

「設備側の制御と中央制御室の通信は、同じ回路を使っていますか?」

「いえ。系統は分けています」


リタが内容を端末へ記録する。研修として不自然な質問ではなかった。


中央制御室を出たあと、変換設備へ向かう。案内役の職員が制御盤を開いた。レオンが回路の製造番号や規格表示を確認し、リタは通信端子を見る。最初の設備では、不審な点は見当たらなかった。


第二変換設備でも、同じように確認を続ける。


二時間近く設備を見て回った。何もないかもしれない。その方がいい。


次の制御盤が開かれた。


「これは何の回路ですか?」


レオンが尋ねる。


「補助安定化装置です。主回路の出力変動を抑えるためのものですね」


レオンは並んだ回路を確認していたが、やがて一枚を示した。


「これだけ規格表示がないな」


アストリッドも回路へ目を向けた。六枚のうち、一枚だけ製造元と規格番号の表示がない。すぐに案内役へ視線を戻した。


「この回路は、交換されたものですか?」

「少々お待ちください」


職員が保守履歴の端末を操作する。


「……交換記録はありません」


アストリッドはレオンを見た。レオンもこちらを見たが、二人とも何も言わなかった。


「古い設備では、記録が残っていないこともありますか?」

「可能性はあります。昔は紙で管理していた時期もありますので」

「研修資料として、古い記録も後ほど確認できますか?」

「もちろんです」


その間も、レオンは回路を確認していた。リタが制御盤の脇へ回る。


「通信系統も確認します」

「お願いします」

「はい」


リタは系統図と実際の接続を見比べた。


「この回路、中央制御室との通信系統には直接つながっていませんね」

「補助安定化装置ですから、必要がないのでは?」

「そうかもしれません」


リタはそれ以上追及せず、端末へ記録した。正規の通信系統につながっていないこと自体は、異常ではない。


それでも、事故現場の回路との共通点は増えた。アストリッドは研修の記録として、制御盤を撮影した。


「次の設備も見せていただけますか?」

「こちらです」


制御盤が閉じられる。三人は案内役のあとを歩き始めた。


そのとき、アストリッドの携行端末が短く振動した。リタからだった。――端子配置、回収品の資料と共通点があります。アストリッドは足を止めず、画面を閉じた。


少し前を歩いていたレオンが振り返る。視線が合う。アストリッドが小さく頷くと、レオンは前へ向き直った。


事故現場にあったものと同型だとは、まだ言えない。だが、別の施設でも、製造元と規格番号の表示がなく、交換記録も確認できない回路が見つかった。しかも、この施設は現在も王都内の各区画へ魔導エネルギーの供給を続けている。


通路の壁の向こうから、一定の低い振動が伝わってくる。今のところ、運転に異常は表れていない。

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