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魔導省魔導災害局  作者: すもも


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10/13

10 線引きの後

朝のフロアは、いつもより静かだった。


復旧確認は終わり、仕組みを正すための作業が始まった。

報告書の最終版。

改善命令に対する回答書式。

期限、責任者、提出経路。

曖昧にすると揉める部分だけを拾い、文言を揃える。

表現は淡々と、感情は入れない。

だが、逃げ道も作らない。


タクトが資料を一枚差し出した。


「施設側の是正計画、来たよ」

「早いですね」

「ヘルマンがきちんとしているからだよ」


アストリッドはページをめくった。

持ち込み制限の再周知、視察動線の固定、例外運用の承認プロセス。

現場に負担を押し付けない作りになっている。

指摘すべき点が少ないのは、良いことだ。


「このまま通せます」

「うん。組織本部の方は、通せないけどね」


書類の端から、ロイの声が挟まった。


「こっちの労基向けもできました」

「なんだロイ、今日は朝から調子がいいな」


ロイは珍しく朝から目が冴えていた。

机上の書類を揃える手つきも速い。

余計な動きがなく、必要なことだけを片付けていく。


組織本部宛ての業務改善命令の添付資料。

音声記録の写し、処分通知の写し、内部議事の写し。

ページ番号を振り直し、参照先を揃え、矛盾が出ないように整形する。

午前のうちに、必要な書類が一通り揃った。

タクトが局長へ提出し、さらに上へ回される。

“知らなかった”が通らない形に、きれいに固まっていく。



通信課の島の方からはソフィアの明るい声が聞こえた。

挨拶に返る声も、前日より増えている。

着任当日の硬さが薄れ、場に馴染み始めているのが分かった。


タクトがふと視線を向け、笑った。


「今週末、局の歓迎会だね。公式の」

「そうですね」


ロイが鼻で笑い、軽く肩をすくめた。


「着任当日に課だけで歓迎会をするとか、あいつら浮かれ過ぎだっての」


その言い方が、通信課の空気を正確に捉えていた。

前日までのノエルの喜びよう。

ジョンの段取り。

アーロンとディランの無駄な便乗。

結果として大所帯になった、あの夜。


「女の子が来たってだけで、あそこまで――」

「そう言うロイだって、アストリッドが来た時は嬉しそうに世話を焼いていたじゃないか」

「そりゃあ、同じ研究室の後輩ですからね」


言い返しはしたが、語尾に力が乗り切らない。

タクトは笑みを崩さないまま、記憶を手繰るように言った。


「同じ研究室の子が来たって、あの時ははしゃいでたよね」

「はしゃいでないです」

「いや、はしゃいでた。局の扉の前でさ、“まだかな”って顔で待ってたじゃないか」


ロイが視線を逸らす。

指先だけが落ち着かず、机の端を軽く叩いた。


「端末の説明が必要だったんです」

「説明って、IDカードをかざすだけだろう?」


タクトは冗談めかしつつも、言葉を柔らかく重ねた。

ロイは口を開きかけて、閉じる。

反論の文言が見つからない時の沈黙だ。


「それで、あの時はロイが嬉しそうにアストリッドを連れ回して」

「連れ回してないです」

「連れ回してた。地下会議室と倉庫も。最初に場所を覚えるのは大事でしょう、って」


ロイは小さく息を吐き、ぶっきらぼうに言った。


「大事です」

「うん。大事だ。いい先輩だね」


ロイは視線を逸らし、最後にだけ短く言った。


「……俺の話はいいんですよ」


話を切ろうとする声はぶっきらぼうだ。

それでも、どこか気まずそうに視線が泳いでいる。

タクトはそれ以上追わず、微笑みだけを残した。


「それでさ。今回は通信課の方が、ロイよりはしゃいでるだろう」

「……確かに」

「だから、やり過ぎないようにアストリッドも気にかけてあげて」


軽い口調のまま、指示は具体的だった。


「あの子は褒めて伸びるタイプなので、きっと大丈夫ですよ」

「そうだろうけど、一応ね」


アストリッドは魔導通信課の島に視線を向けた。

ソフィアは何かする度に褒められていて、満更でもない顔をしている。

けれど、その背筋の硬さはまだ残っている。

場に馴染む速度と、緊張が抜ける速度は別だ。

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