91.寝る子は育つ。じゃあ寝坊したら?
うららかな日差しを顔に受けて僕はそっと目を開けた。するとそれに気付いたサラとキャロとエンジュが一斉に僕の顔を覗き込んだ。
「えっと、おはよう皆」
「おはようございます、アル様」
「うん、おはよう!」
「おはよう、ございます」
僕が声を出せばみんな笑顔で応えてくれた。でもなんで3人共居るんだろう。キャロはまぁ寝ている僕の護衛で張り付いていたんだろうと予想は付く。でもサラとエンジュの2人がかりで僕のお世話をする必要はないだろうから、どちらかは部屋の掃除だったり別の事をしてそうなものだ。ということは僕が起きるタイミングが分かってたって事かな。
「よく僕が起きるって分かったね」
「それはほら。あたしは今アルと繋がってるから」
胸を張ってキャロが言う。なるほど、眷属とその主人との間には肉体を越えた繋がりが出来る。そこから僕の体調であったり、もうすぐ起きそうだって事が分かったのか。
ちなみに東の山岳地帯に居るクママも僕の眷属になったけど、さすがにちょっと距離があり過ぎて今も元気に暮らしてるんだなって位しか分からない。こちらから呼び掛ければ飛んでくると思うけど。
さていつまでも寝ている訳にもいかないな。僕はベッドから上体を起こして、幾つか違和感があることに気が付いた。
「えっと、まるで春のような陽気だけどなんでだろう」
「春ですから」
「うん、春だな」
「お日様、ぽかぽかです」
やっぱりおかしいな。僕がキャロを眷属進化させて眠りに就いたのは夏前だったはずだ。そこから数か月たったのなら晩夏くらいかなと思っていた。もしくは秋だと言うのならまだ分かるけど春?
「僕ってどれくらい寝てたのかな」
「10カ月少々です」
「つまりほぼ1年か。そりゃまた随分と寝坊したな」
「ふふっ、アル寝坊助」
キャロが楽しそうに笑いながら僕の頭の寝癖をツンツンしてる。
ともかく立ち上がって身体がちゃんと動く事を確認しつつ、もう1つの疑問を聞いてみることにした。
「なんかサラだけ小さくなってない?」
と聞いてみれば皆して驚いた顔で僕を見ていた。
「あれ、僕変な事聞いた?」
「いえ驚いているのはそこではなく」
「アル大きくなったな!」
「……え?」
キャロの言葉を聞いて僕は急いで姿見の前に立った。すると鏡に映った僕の姿は眠りに就く前と比べて身長だけでも20センチ以上伸びていた。顔つきも少年というより15、6歳くらいの青年と言った方がしっくりくる。
「僕間違って5年くらい寝てたとか言う事は無いよね?」
「は、はい。それは大丈夫です」
「寝る子は育つとは言うけど、これは育ちすぎだね。
まあ原因はキャロだろうけど」
「あたしか!?」
別にキャロが悪いって話じゃなくて、キャロの眷属進化を行うにあたって、主人に相応しい状態になる為に強制的に肉体を15歳くらいまで成長させたんだろう。確かに今の状態だったらキャロの眷属進化を行ってもちょっと疲れたなくらいの負荷で済むはずだから。
そしてサラが小さくなったと感じたのは、キャロは進化して色々成長したしエンジュも成長期だから1年で結構大きくなった。だけどサラは身長はもう伸びない時期だから、相対的に小さくなったように感じた訳だ。
あとは。
「お腹空いたね」
「はい。そう言うだろうと思って隣室に食事の用意が出来ています」
「さすが抜かりはないね」
病み上がり、とはちょっと違うけど寝起きだから消化に良い軽いもの中心の食事を食べつつ、僕が寝ていた間の話を聞くことにした。
「幾つかご報告すべきことがあるので順番にお伝えしますね」
「うん、お願い」
「まずツバイク王子についてです。
アル様が眠りに就いた後、半月後にツバイク王子は魔物討伐の遠征から帰ってきました。
討伐は成功、ツバイク王子も大きな怪我はないご様子でした」
「それは良かった」
「それとアル様が裏から手を回していた事については気付いていないようです」
僕があの時したことと言えば、裏の騎士団に応援に向かってもらった事と、魔物ハンターギルドに討伐依頼を出した事と、アルファ商会から薬を安く販売してもらった事と、クママを派遣したことくらいか。こうやって並べると過保護過ぎたかなと思わなくもないけどお陰で元気に帰ってきてくれたんだから良かっただろう。
「最近のツビーはどうしてるの?」
「はい。アル様に代わり国王様の執務室に出入りしているという噂を聞いています」
「そっか。ツビーも頑張ってるんだね」
元々ツビーは真面目だから、1年も頑張ってればもう僕以上に仕事が出来るんじゃないだろうか。
「続きまして、フィディさんが王都を離れました」
「フィディが? そう」
フィディは元々人探しの合間に僕の所に逗留していただけだからね。僕の所に居るのも自由ならどこかに行くのも彼女の自由だ。
「何か言ってた?」
「『精霊様に呼ばれたからちょっと行ってくるわ。戻ってくるかは分からないけど』だそうです」
「そっか」
精霊に呼ばれたのなら仕方ないね。
「あとは先日、第一騎士団の入団試験が行われ、150人程が仮入団しています。
その中にはバックラー領に居たゴンさんの姿もありましたよ」
「ゴンか。元気にしてるんだね」
バックラー領の貧民街で子供たちのリーダーをしていた子だ。確か僕より5歳くらい年上だったと思うし騎士団の入団試験があると聞いて遠路はるばる王都までやってきたんだな。
「最後に」
「うん」
「ティーラさんに婚約者が出来ました」
「おお!」
なんというか今日一番の驚きだ。あのティーラが婚約かぁ。
「相手は誰?というか、すぐ結婚しない理由はなにかあるの?」
「ブラッドレーという騎士団の青年です。
ティーラさんは真面目ですから、アル様の許可が出るまで待ってほしいと言ったそうです」
「あらま。別に自由にしてくれて良いのに。
まあ後で許可云々も含めてお祝いに行こうね」
さて。1年も寝てたら色々ありすぎだな。
でもまずは父上に会いに行くのが最優先事項だろう。




