92.後継者問題について
父上の執務室に入れば、そこには父上と文官の他にツビーの姿もあった。文官の何人かは僕の姿を見て「誰だ?」みたいに首を傾げたのは、去年通ってた時と比べてだいぶ大きくなっちゃったみたいだから仕方ない。
それでもちゃんと父上やツビーは一目で僕がアルファスだと理解してくれた。
「おはようございます。父上、ツビー。
突然長い事休みを頂いてしまい申し訳ございません」
「うむ、起きたか」
「アル兄! 1年も寝ていて身体は何ともないのか?」
その場で鷹揚に頷く父上と、慌てて駆け寄って来てペタペタと僕の身体を触って無事を確かめるツビー。どちらも僕が戻ってきてくれたことを喜んでくれているようでうれしい。
そして何かを考えた父上が席を立った。
「しばし休憩とする。アルファス、ツバイク。一緒に来なさい」
「「はい」」
僕たちは揃って別室へと移動した。
メイドたちもお茶の用意を終えて部屋を出れば、僕達3人だけ。つまり内密の話という事だ。
父上はお茶を一口飲んでから話始めた。
「アルファスは起きて早々で悪いがふたりに大切な話がある。
私はこの1年、ずっと考えていた。私の後継者を誰にするかということをだ。
その為の試金石の一つが去年の魔物討伐遠征だった」
「失敗していれば失格だったということですか?」
「いいやツバイク。そこまで厳しい話ではない。
一番大事だったことは生きて帰って来れるかどうかだ。
別に負けて逃げ帰ってきたとしても咎めることは無かった。
それどころか行きの途中で怖気づいて戻ってきたとしても流石に少し早過ぎたかと思う程度だ。
今後お前達には何度も危機が訪れるだろう。それらすべてに立ち向かえとは言わん。逃げても誰かに任せても良いのだ。
その代わり国と民と共に必ず生きて乗り越えて行かなければならない。
それが王というものだ」
僕たちはじっと父上の言葉を聞いていた。
父上が王位を継いでから15年。その間にいったいどれほどの困難があったのだろうか。今度ゆっくり聞いてみたいものだ。
「ときにアルファスよ」
「はい」
「お前、王になりたくないのか?」
「はあ!?」
その驚きの声は僕ではなくツビーから発せられた。逆に僕はまぁ僕とツビーを呼んだ時点でそういう話なのかなと思っていたのでのんきに構えていた。
「賢いお前の事だ。起きたばかりで現在の情勢を見てはいなくてもある程度予想は出来ているのだろう?」
「ええまぁ」
討伐遠征に出るときの市民の様子や各貴族たちの噂話、更には遠征から帰って来てすぐに倒れて一切姿を見せなくなったこと。これらを統合するに貴族を含む国民の大半が次期王にはツビーをと望んでいることだろう。そうなるように僕自身が演出した訳だし。
「幸いにして優しくて責任感のあるツビーが居てくれますからね。
ツビーさえ嫌でなければ次期王はツビーにしてください」
「いやちょっと待ってくれ!」
「あれ、ツビーは王様になりたくない?」
「そういう話じゃ無くてだ」
一体ツビーはなにをそんなに興奮してるんだろう。ってそうか。元々気楽な第二王子だったのに急に次の王太子は君だなんて言われたら心の準備が出来ないか。
そんな僕の呑気な考えは実の所的外れだった。
「確かに俺は次期王になっても大丈夫なように努力してきたつもりだ。
だけどそれはアル兄が王位に就けない場合の話だ。
昔の病弱な時しかり、この1年眠りに就いていつ起きるとも分からない時だってもしこのまま起きなければアル兄に代わって俺が王になってこの国を護って行こうと考えていた。
でもアル兄は起きたじゃないか。こうして話していても元気そうだ。
なら次の王にはアル兄がなるべきだ。
……悔しいけど能力も才能も俺なんかよりアル兄の方が上だと思うし」
「ツビー……」
悔しそうに、でもどこか誇らしげに言うツビーを見て僕は嬉しくなった。
「ありがとうツビー。
そしてそこまでこの国を大事に思ってくれてて嬉しい。
やっぱりツビーは僕よりもずっと王様に向いてると思うよ」
「だからどうしてアル兄はそんなことを言うんだ!」
「事実だからね」
「まあ落ち着けツバイク」
「っ!」
父上に言われて渋々持ち上げていた腰を下ろした。まあ顔を見れば何も納得していないというのは分かるんだけど、さてどこまで説明したものか。
「アルファスよ。聞きたかった話はもう一つあるのだ」
「え、何でしょう」
「お前がこの1年眠りに就くことになったのは魔法の副作用だという事で間違いないな?」
「はい、その通りです」
「ではその魔法が何かもそうだが、いったいどこで知った」
「あー」
そりゃ気になるか。父上は元々僕が病気(呪い)に苦しんでた頃から治療の為に魔法や薬の研究資料を集めていたようだし。お陰で城内の図書室にはそう言った書物が多く存在している。だけどそのどこにも僕が使った『眷属進化』の魔法は載ってなかった。それもそのはず、元は魔族の魔法だからね。
そんな魔法をいったいどこで僕が覚えたのか、気にするなって方が難しい。
「正直に言って信じてもらえるとは思えませんが」
問題はこれなんだよね。前世の記憶があるんです、なんて言ってそうかと返されることはまずないだろう。信じてもらえないか、頭の病気を心配されたり何かに憑かれてたんじゃないかと疑われる可能性もある。
「実は僕には前世の記憶があるんです」
「なるほど」
「そうだったのか」
「……あれ?」
なんかあっさり納得された?
いやそんなはずは無いし。きっと何かと聞き間違えたんだろう。
「あの、僕の言った事伝わりました?」
「前世の記憶があるのだろう? それがいつの時代のものかまでは分からぬがな」
「予想の斜め上だったけど、そういうことなんだな」
どうやら本当に受け入れられてしまったらしい。流石僕の家族と言うべきなのかな。
だけど話はそれで終わらなかった
「では父上。次期王はこのまま何事も無ければ俺が成るということでよろしいですか?」
「うむそうだな。それしかあるまい」
「え?え?」
なぜかツビーが王位継承に乗り気になっていた。いや僕としてはそうなってくれた方が嬉しいんだけどね。でもこの短時間の内に何がツビーの気持ちを変えてしまったのか。
「えっと、それで良いの?ツビー」
「勿論だ。アル兄にはやるべきことがあるのだろう?
なら残念だが俺の我がままで引き留める訳にはいかない」
「うむ。前世の記憶があるなどと普通は考えられないからな。
何か重大な使命があると考えるべきか。
ならば第一騎士団も改めてアルファス直属の騎士団として自由に動けるように手配せねばな」
「いえ父上、むしろ国を挙げてアル兄のバックアップ体制を築くべきでは」
「うむ、その為には法整備を始め何かと無駄に反対してくる貴族たちを抑えねばならん」
気が付けば僕を置き去りにして父上とツビーが楽しそうに今後のことを話していた。いやまぁ親子仲も良さそうで良いんだけどね。




