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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
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88.閑話~北部魔物討伐の行方・中~

 討伐開始から5日が経過した。

 昨日までで討伐したゴブリンの数は4桁に登っている。かなりの戦果だと言えるだろう。だがしかし、こちらの被害も少なくは無い。100人近くが命を落としており、残りの半数以上も重傷を負い作戦に従事できるものは500人程度だ。

 ここまで被害が出たのはなにもこちらが弱かったからだけではない。敵のゴブリンも話に聞いていた以上に強いのだ。それは自分自身でも前線に立って戦ったからはっきり分かっている。

 周囲を見れば初日の士気の高さはすっかり消えてしまっていた。


「このあたりが潮時であろうか」

「そうですな」


 すっかり参謀の位置に納まったラバックが俺の呟きに首肯した。

 ただ問題は今ここで帰ってはまた魔物が際限なく増えることになるだろう。なにせ相手はゴブリンなのだから。人で言う王に相当する存在を叩いておかなければ奴らの増殖を抑えることは出来ない。

 そしてその存在が居るかもしれない場所は昨日判明している。


「よし。本日をこの討伐遠征最後の戦いとする。

 昨日見つかった魔物たちのねぐらに攻撃を仕掛け、見事奴らの王の首を取ったものには俺から褒美を出そう」

「「おおっ!」」


 どんな褒美かは考えていないが、士気を上げるにはそれくらいハッタリを言っても許されるだろう。

 だけど折角上がった士気に横やりが入った。


「ご報告申し上げます!

 南東の山岳部に強力な魔物の存在を確認しました!!」

「なんだと!?」


 くそっ。昨日見つけたねぐらはここから北東方向だ。そこに攻撃を仕掛けていては最悪南からその魔物に襲われて挟み撃ちに遭う危険がある。

 ……ん?ちょっと待てよ。


「おい、その魔物はどんな奴か分かるか」

「はっ。遠目で確認出来た姿は真っ黒く大きな熊のようでした」

「熊の魔物か。確かアル兄が討伐に向かったのが王都から見て東の山岳地帯だったな」


 俺の考えが正しければ、と思考を巡らしたところで別の男が今の報告を聞いて声を上げた。


「まさかアルファス王子が取り逃がした魔物がこっちに逃げてきたのでしょうか」

「なに!?もしかしてツバイク王子に手柄を立てさせない為にわざとやったのではあるまいな」

「忌々しい。これでは今日の出撃は取りやめるしかあるまい」


 勝手な事を言い合っている間にも俺はこれからの行動を決めた。


「その熊の魔物を監視している部隊に連絡だ。決してこちらから攻撃することのないようにと」

「はっ」

「それとその熊の行動を逐一報告するようにと伝えてくれ。

 特にゴブリンと戦っているようならすぐに報告するようにと」

「分かりました!」


 伝令兵が急ぎ出て行くのを見送って俺は皆の方を向き直った。


「さてみんな。これは千載一遇の好機だ。

 一口に魔物といっても別に熊とゴブリンは友好関係ではない。むしろゴブリンからすれば熊は自分達の領土に侵入してきた敵だろう。

 つまりゴブリン達は俺達と熊と2つの敵を抱えた事になる。

 そこで、ゴブリン達が東の熊に気を取られている隙に俺達は西側から攻め込んで大将首を取って撤収する。

 間違っても熊にこちらから近づいて攻撃することのないようにと厳命して欲しい」

「「ははっ」」

「出撃は次の伝令が戻って来た時だ」


 そうして30分と経たずに熊を監視していた者から報告が来た。それは俺が最も求めていたものだった。


「よし。ゴブリンは熊に掛かりきりだ。一気に行くぞ。

 総員出撃!」

「「おうっ!」」


 昨日までに比べれば圧倒的にたやすく俺達は森の奥深くへと進んでいった。やはりゴブリン達は想定外の襲撃に慌ててそっちに向かったようだな。

 そうして遂に俺達はその魔物の姿を見つけることが出来た。


「グオオオッ」

「くっ、なんて大きさだ」


 身長2メートル半。ゴブリンというよりミノタウロスだ。あれがゴブリンキングというものか。そしてその体格に見合うだけの力強さも持ち合わせている。今も後ろから飛び掛かった兵士が振り向きざまの一撃で数メートル吹き飛ばされた。

 あんな化け物に勝てるのか?

 ……いや。弱気になるな。ここで俺が下がれば軍は瓦解する。そうなれば狩る側から狩られる側になることは目に見えている。そうだ、ここが正念場だ。


「ラバック!」

「はっ、ここに」

「お前なら奴を倒せるだけの一撃が放てるか?」

「誰かが奴の気を引きつけてくれれば。しかし今の状態では」

「いやそれだけ聞ければ十分だ。

 俺が正面から奴の気を引く。その隙に倒して欲しい」

「おやめ下さい、危険すぎます!

 それに囮役なら私がなります」

「それでは駄目だ。悔しいが今の俺では不意を突けてもあれに致命傷を与えることは出来ないだろう。

 安心しろ。これでも俺は盾の国の王子だ。護り生き延びることには長けている。

 それに言い合ってる暇はないようだ。頼んだぞ」

「王子!」


 なおも何か言いたげなラバックを無視して俺はこちらへと近づいてくるゴブリンキングの前に立ち、これ見よがしに自分の盾を叩いてみせた。


「さあ来いデカ物!

 アイギス王国第二王子のツバイクが相手だ!!」

「ガアアアッ」


 俺目掛けて巨大な石斧を振り下ろしてきた!

 こんなのどう考えても受け止められるはずがない。ならどうする?決まってるさ。半歩横に動いて身体を捻るんだ。動けよ俺の身体!

 一瞬後、ゴオオッと物凄い音を立てながら俺のすぐ横を石斧が通り過ぎて行く。


『ツバイク王子、休み時間にこちらをよく読んでおいてください』

『これは?』

『古くから我が国に伝わる護りの極意書です。ツバイク王子はまだ身体が出来上がっていませんから特に受け流しの項目を熟読し、時間のある時に反復練習を繰り返してください』


 そういって武術の先生から渡された真新しい冊子をちゃんと読んでおいて良かった。極意書と言いつつ読みやすく理解しやすく、所々に吹き出しで『ここが大事』とか書いてあってまるで子供が読むことを意識して書かれたようなそれは、確かに理に適っていた。

 特にこういう強敵と相対する時は。


「地面に叩きつけられて止まった腕は真上からじゃなく斜め横からそっと触れて捩じる様に押さえつける!」

「グオッ!?」


 ゴブリンキングは思ったより力が入らなくて驚いたようだ。そしてそれは致命的な隙になった。


「お見事です王子!」

ズバッ!!


 横から飛び込んできたラバックの鋭い一撃が見事ゴブリンキングの首を叩き落した。

 俺はその首を拾い上げながら叫んだ。


「敵大将は討ち取った!

 総員、速やかに撤収するぞ」

「「おおおっ」」


 多くの犠牲を出しつつも、俺達は無事にゴブリンの討伐を達成し帰還するのだった。



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