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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
85/131

85.王都に帰って来たので

 領都に戻ってから1週間。負傷した騎士達の回復も順調なので僕たちは王都に帰ることにした。


「子爵家の皆さん、長い事お世話になりました」

「こちらこそ大したお構いも出来ませんで」

「もっとゆっくりしていらしても良いのですよ?」


 夫人はそう言ってくれるけど向こうには僕の帰りを待っている人も居るし。主に書類仕事が溜まっている文官や父上だけど。それに帰ったら話があるとキャロからも言われている。僕としてはそれが一番重要かな。


「では皆さん、お元気で」

「王子も道中お気を付けください」


 そうして僕らは子爵領を後にした。

 帰りの道中は、見るからに騎士の一団って感じの僕らを襲う盗賊が居るはずもなく、目に見えた魔物たちも僕らを見ると慌てて逃げて行くので戦いらしい戦いもなく王都に辿り着いた。ちなみに通るのは軍用の通用門だ。街の正面から行くと目立つし騒ぎになるからね。そういうのは儀仗隊に任せたい。

 城に戻った僕は早速父上に報告に上がった。


「父上。アルファスおよび第一騎士団、東の魔物の討伐を終え帰還致しました」

「うむ。ご苦労であった」


 父上はなにか苦いものでも噛んだような顔をしているが何かあっただろうか。街そのものは特に変わった空気は感じられなかったし、多くの騎士が出払っている今を見て他国が攻めてきたというのであれば子爵の所にも情報が流れてきたはずだ。だとすると。


「もしかしてツビーの方で何かありましたか?」

「いや、届いた報告書によればツバイクの方は予想以上に地元で戦力が集まり順調に魔物の討伐が進んでいるそうだ」

「そうですか。良かった」


 ツビーの方には第二騎士団の表と裏の他、第一騎士団の裏がバックアップに入り、地元の領主も恩を売る絶好の機会だと挙兵しているだろう。更には各地の魔物ハンターも加わりさしずめ山狩りような状態になっていそうだ。


「問題があるのはアルファス。お前の方ではないのか?」

「僕ですか?」


 問題……山でクママを眷属進化させてしまったことかな? でも余程魔力感知に優れてる人でないと山奥で行ったあれを感知するのは無理だと思う。そもそもクママを眷属にしたのが問題かと言われたら首を傾げる話だ。


「魔物に返り討ちに遭い、大勢の騎士を負傷させて逃げ帰ってきたと報告が来ているが?」

「……あ」


 なるほどそっちか。それなら確かにティーラ達が重傷者を急いで領都に連れ帰ったり、僕らも途中の町に寄ったのでそれを見た人達から話が回って来たと考えれば納得がいく。


「申し訳ございません、父上。

 子爵が派遣してくれた騎士の半数以上に重軽傷を負わせる結果になってしまいました。

 幸い死者は出ていませんが、まだ完治していない者が50名近く居るはずです。

 その者たちについては後の事は子爵が面倒を見てくださるそうです」

「そうか……」


 恐らく父上の中で報告の内容と僕の話の齟齬を補正しているのだろう。負傷者を多数出したのは事実だ。なら逃げ帰ってきたというのはどうだろうか。報告は従軍した騎士ではなかったはずだ。なら魔物と戦っている所は見ていないと考えられる。


「魔物の討伐自体はどうか」

「そちらは問題なく鎮静化出来たと見ています。

 討伐した魔物の数は82体。当初の予想では100体は居ないだろうと見ていましたし、麓に出没する魔物を中心に狩りましたので当面は近隣の町村に被害は出ないと思います」


 クママを始めとした山に住む魔獣に関しては増え過ぎなければ食物連鎖の範囲で納まってくれるし、十分な食料があるなら魔獣だって無理に人里に降りてくる事も無い。

 後はまぁ北に遠征に行ってもらったクママが帰ってきたらその辺りの調整も任せてしまえば良いだろう。進化した影響でそういった思考力や統制力もパワーアップしてるはずだし。

 

「では父上。他に無ければ今日は下がらせて頂きます。報告書は後程」

「うむ。遠征ご苦労であった」


 そうして父上への報告を終えた僕は、郊外の草原に来ていた。ここは先日模擬戦を行った場所だ。なぜこんなところに来ているかと言えば、待ち合わせをしていたからだ。その相手はどうやら先に来ているようだ。


「お待たせキャロ」

「うん。急に呼び出して済まない」

「それは良いんだけど、ゆっくりピクニックって感じではないよね」


 待っていたキャロは愛用のポールアックスを持ち完全武装だ。対する僕も軽鎧に盾も持って来ている。それになによりキャロからはピリッとした闘気が溢れている。


「まるで決闘だね」

「まるでというか、アルには1つ本気の手合わせを頼みたい」

「理由は、まあ聞かなくてもいっか。キャロには大事な事なんだよね。

 良いよ。やろうか」


 周りを見れば少し離れた所にサラを始め皆が一体何が始まるんだと静かに見守ってくれている。

 そして。

 皆の方を見た瞬間にキャロの姿が消えた。


「フンッ!」

「おっと」


 慌てて身を屈めれば僕の首があった場所を突風を伴ったキャロの一撃が通り過ぎて行く。

 開始の合図などは無い。当然だ。


「まだまだ!」


 続いて真上からの振り下ろしを横に大きく跳んで回避した。


ズガッ!!


 地面に突き刺さった斧が地割れを作った。

 さっきの一撃といい、どちらも真面にくらえばただでは済まない。キャロもどうやら本気のようだ。だけどまぁ、当たらなければ意味は無い。


「キャロ、人間相手にその威力はちょっと過剰だよ。

 もっとコンパクトに、スピードと手数を増やして」

「うんっ」


 決闘中とはいえ僕のアドバイスを素直に聞いたキャロは、先ほどまでの大振りを止めて僕に当てる事を意識し始めた。するとまるで軽い竹竿を振る様にポールアックスが風を切る。


ヒュンヒュンヒュンッ!

「よっ、ほっ、はっ」

「って当たらないぞアル!」


 そりゃそうだ。速くなったとはいえキャロの攻撃はまだまだ素直だから避けるのは難しくは無い。訓練なら敢えて受け止めたりするのもありだけど本気でということなので容赦はしない。


「くっそぉ。

 なら!これでどうだ!!」

「おぉ」


 突然巨大化するキャロのポールアックス。それはもう斧というより大槌だ。線で当たらないなら面で攻撃すれば良いじゃないかと。なるほど、これを避けようと思ったら大きく後ろに下がるしかない。それをしたら追撃が来るだけでいつかは追いつめられる。


ガキィィンッ

「へへっ。やっと当たった」


 僕が盾で攻撃を受け止めたのを見てキャロは嬉しそうだ。

 ちなみに受け止めたポールアックスは元の姿に戻っている。さっきのは恐らく魔力で一時的に大きく見せたのだろう。ティーラには以前フェイントで使うようにアドバイスした魔力の運用をキャロなりに応用してみせたんだな。

 ただ、喜んでばかりではいられない。


「盾を使わされたか。

 ならここからは僕の方からも積極的に攻めるよ」

「うん。いつでもこぶへっ」


 言い終わる前に僕の鋭い踏み込みからのシールドバッシュがキャロの顎に叩き込まれた。

 軽く2メートル以上撥ね上げられたキャロは空中で身体を回転させて足から着地。武器を構えるも僕の姿はさっきの場所にはない。慌ててその場で左右に視線を送るけどそれは悪手だ。


「くっ、どこに」

「後ろ。まだ目に頼りすぎだね」

「ぐはっ」


 今度は真横へと吹き飛ばされたキャロはゴロゴロと地面を転がり飛び跳ねるように横に移動しながら身を起こした。うんうん。その場で起きてまた周りを見るようならもう一回行こうかと思ったけどその心配は無かったみたいだ。

 ただ、転がった際に尖った石か何かに引っ掛けたみたいで服が少し破けてしまっている。そこから見えるキャロの肌と古い傷痕。


「そういえばキャロのその傷痕ってどうしたんだっけ」

「これか?これは昔病気だったあたしをゴリアンが助ける為に付けた傷だ。

 あたしにとっては勲章みたいなものだな」

「そっか」


 薄々そうじゃないかとは思っていたけどキャロが昔僕が助けたゴブリンの少女だったんだね。

 ま、それは今はいいや。まずはこの決闘に集中しよう。

 ただ、長引かせる意味も無いか。


「キャロ。お互い体力も魔力も十分あるし打たれ強いしで、どちらかが倒れるまでやると日が暮れちゃうから次の一撃で決めよう。

 僕は避けたりしないから安心して撃ち込んでおいで」

「うん、わかった。なら今持てる全力をぶつける!

 おおおォぉオオぉっ!!!」


 気合と共に闘気が渦を巻く。激しい力の迸りが、次の瞬間には全てキャロの中へと集約されていく。まるで爆発寸前の火山だ。


「フンッ」

ズドンッ!!


 踏み込みだけでキャロが居た場所の地面が吹き飛んだ。そして一瞬で僕の目の前に迫るキャロが選んだ攻撃は唐竹割。天よ切り裂けとばかりに振り下ろされるポールアックスを僕は避けることなく正面から盾で受け止める。


「はあぁっ!!」

「ぐっ」

バキィィンッ


 昔、最強の矛と無敵の盾がぶつかったらどうなるか、なんて話があったけど今回はこうなった。

 ぶつかる衝撃に耐えきれずに砕け散るポールアックスと、まるで逆再生するように吹き飛んでいくキャロ。そして。


「お疲れ様でした、アル様。こちらを」

「うん、ありがと」


 サラが差し出してくれたハンカチで額から流れ落ちてきた血を拭く僕。矛そのものは防いだけどその闘気は見事盾を貫通して僕にダメージを与えていた。



 彼我の距離は5メートルほど。僕らからしたら1歩で踏み込める距離だ。

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