82.王子率いる騎士団は壊滅的被害を受けて撤退したそうだ
野営地に戻ってきてみた僕らが見たのは大勢の負傷した騎士達だった。その人数は重傷者だけでも明らかに20人を超えている。軽傷者も合わせれば100人近く。一体何があったのだろうか。
そもそもの話、彼等は僕が連れてきた騎士団ではないのだけど。むしろティーラ達の姿がないな。
「ん、あれはっ!王子!!
ご無事でしたか!?」
僕を見付けて慌てて駆け寄ってきたのは子爵家騎士団の副団長さん。ということはここに居る人達は子爵家の騎士団で間違いないなさそうだ。
その副団長も既に血は止まっているようだけど装備がボロボロだ。
「うん。僕らは大丈夫だけど何があったのですか?
あと僕の連れてきた者達が何処に行ったかご存知ないですか?」
「我々はその、情けない事に森で魔物の襲撃に遭いこの有様です。
幸い死者こそ出なかったもののほぼ半数が重傷を負い軍としては壊滅状態です。
王子の部下には無理を言って特に傷の深かった者達を領都に搬送してもらっています」
なるほどね。ティーラには命令や指示を受け入れる必要は無いと伝えておいた。だけど別にお願いを聞くなとは言ってないし手助けしても行けないとも言ってない。
だからティーラ自身が考えて行動したので僕としては特に問題はない。もし僕がこの場に居たとしても同じようにしただろうからむしろ良くやったと褒める事にしよう。
でもそれは帰ってからで、今は帰る準備を進めよう。
「キャロ。戻ってきて早々で悪いんだけどフィディ達を呼んできてもらえる?」
「うん、行ってくる」
僕の言葉に頷いたキャロはさっと森の中へ戻っていった。キャロとフィディなら入れ違いになることもないから安心して任せられる。
だけど全く安心出来てない人がここに1人。
「お、王子。
先程の少女は大丈夫なのですか!?
こんな凶悪な魔物蔓延る森に1人で行かせるなんて」
「え、まぁキャロなら大丈夫ですよ」
今のキャロなら山で遭った大きい熊相手でも勝てるだろう。それに既にかなりの数の魔物を討伐出来ているようだし山まで行かなければもうほとんど魔物は残っていないはず。
「それより重傷者の手当てを急ぎましょう。
見たところ治癒魔法の得意な人も居ないようですし、今は大丈夫でも急に症状が悪化する事もあります」
「はっ!」
僕は重傷者を中心に治癒魔法を掛けつつサラに指示を出して何人かに解毒剤を飲ませていく。
「魔物の中には存在そのものが人間にとっては毒ってこともあります。
爪が掠っただけだと油断してると1週間後にバッタリって事もあるから解毒消毒は念入りに!」
「はいっ」
僕の指示に比較的軽傷の人達が従いテキパキと作業を進めて行く。僕らが持って来た薬草類は、なんだまだまだ残ってるじゃないか。
「ねぇどうしてもっとこっちの薬草を使わなかったの?
これ使ってれば傷口が膿んだりしなかったのに」
「えっそうだったんですか!?
すみません、薬にはあまり詳しくないもので」
いや箱に何の薬か書いておいたんだけど。ってあると分かってないと緊急時に探したり調べたりしないか。消費されてるのはきっとティーラ達が使ったんだろうけど、その情報の引継ぎをする前に重傷者の搬送に移ってしまったんだな。
まあ今更言っても仕方ない。今からでもこの薬があれば治療が捗るのは間違いないし。
さて次の患者は、と思ったところで野営地に悲鳴が上がった。
「大変だ。魔物が来たぞ!」
「くそっ、こんな時に。
動けるものは急ぎ陣形を組め。
1匹たりとも野営地には入れるな!」
バタバタと慌てて森の方へと向かう騎士団の人達。僕も後を追って行ったんだけど、なんだ。たった4体しかいないじゃないか。しかも既に手負い。この様子だと何かから逃げて来たって感じかな。
僕は必至の形相で盾を構える彼らの間を縫って前に出た。
「お、王子!?いったいなにを。
危険です。早くお下がりださい」
「心配要らないよ。むしろ怪我人は無理しないで」
ひとり前に飛び出してきた僕を襲おうと魔物たちが駆け寄ってくる。けど、それが彼らの命取りになった。
「『ファイアランス』」
「ふっ。ていっ」
ゴオオオッ!
トストストスッ!
森の奥から飛んできた炎の槍で2体が消し炭に変わる。残りの2体も顔や耳といった防御の薄い所に矢が何本も突き刺さりその命を奪っていった。そんな芸当が出来るのは僕の知る限り彼女らしか居ない。
「危ない危ない。仕留めそこなって逃がしちゃったわ」
「もうフィディさんはエルフなんですから、もっと森に被害が出ない魔法を多用した方が良いんじゃないですか?」
「だから森を出るまで攻撃を控えたじゃない。それに火魔法が一番殺傷力が高くて楽なのよ」
「殴った方が早いと思うぞ」
元気にそう言いながら森から出てきたのはフィディ達。ちゃんとキャロも一緒にいるし同行した騎士の皆も元気そうだ。
まるで緊張感の欠片もないそのやり取りを見た子爵家の人達は声を震わせた。
「な、なんなのですか彼女達は」
「僕の自慢の仲間たちですよ。
それよりこれでここに留まる理由は無くなりました。
彼らが居れば重傷者も運べますし陣を撤収して帰りましょう」
「そ、そうですねっ」
野営地を解体して即席の担架を作って重傷者を乗せ僕らはその地を後にした。あ、でも今からだと近くの町に行くのがギリギリかな。ここから一番近い町は真っ直ぐ領都に向かう道から南に逸れたところにある。
日も暮れた頃、ようやく町に辿り着いた僕達だったけど、なにやら先客が居た。この町に似つかわしくない武装した集団100人程が郊外でテントを張っている。
「あれ、何処かの騎士団でしょうか」
「そのようですね。
あの旗印は隣のチョンキ伯爵のものです」
僕の疑問に副団長さんが答えてくれる。
この町は子爵領の町だから普通に考えれば別の領地の騎士団が居るなんて事は滅多にない筈。もちろん貴族同士が対立している訳でも無ければお抱えの騎士達が他領に入ってもそれほど大きな問題ではない。まああまり良い顔をされない事も確かなんだけど。
「おやそこに居るのはもしかしてビガルド騎士団の副団長のケンテン殿ではありませんか?」
「む、その声はやはりブジナ殿か」
近くの酒場から顔を出したのはちょっと小太りな男性。どうやら副団長、ケンテンっていうのか、とは顔見知りの様子だ。
「王子。こちらチョンキ伯爵家の長男のブジナ・チョンキ殿です」
「おぉあなたが噂のアルファス王子ですか。私はブジナでございます。どうぞよろしく」
「アルファスです。
しかしどうして隣領のブジナ殿が騎士団を連れてこんなところに居るのですか?」
「それはもちろん、王子が兵を挙げたと聞き、我々も微力ながら増援をと思った次第です。
もっとも、どうやら間に合わなかったようですが」
ちらりと僕たちの後ろを見てほくそ笑むブジナ。
ああ、確かに負傷兵をこれだけ抱えてわずか数日で撤退してきているのを見れば、僕らが魔物の討伐に失敗して逃げ帰ってきたようにも見えるか。
「ゆっくりお話したいところではありますが、彼らを早く休ませてあげたいのでこれで失礼します。
それと宿も極力お譲り頂けると助かります」
「ええ、もちろんですとも。
うちの騎士達は町には入らず外で野営し明日の朝には撤収させますので」
「ありがとうございます」
そう言いつつ彼は部下に幾つか指示を出して、自分は町の中へと去って行った。恐らく自分だけはちゃんとしたベッドで寝る気なんだろう。まあいい。僕としては怪我人たちをゆっくり休められれば文句は無い。




