81.眷属進化クマッ
ときどきこう、はっちゃけたくなる時ってありますよね。
『眷属転生』
これは魔物や魔獣、魔人など『進化』することが可能な種族にのみ行使可能な契約魔法だ。その効果は対象を強制的に進化させ、そして魔法を行使した者に絶対服従するように魂を束縛するというもの。
転生と付いているけど実際には進化であり死んで生まれ変わる訳ではない。ただ肉体的には劇的な変化が生じる為、今回のように瀕死の重傷を負っていても問題なく健康な肉体を手に入れることが出来る。
そんな便利な魔法があるなら世界中で多用されて世の中眷属だらけになるんじゃないかと言われそうだけど、そうはならない。なぜならそれ程の事を成すのには対象者の強さに比例して大量の魔力などが必要になるからだ。
「クマッ(これは!?)」
自分の変化に驚く親熊。子熊たちは、ちょっと驚いてるけどそれよりも元気になってくれた事が嬉しいのか親熊に飛び掛かっては頭をぐりぐりと押し当てている。
よかった。進化してもちゃんと自分の親だと言うのは分かるようだ。
「よし、無事に成功だね。よかった……」
その姿を見た僕は糸が切れた人形のように後ろに倒れ込み、慌てて駆け寄ったサラによって受け止められた。
「アル様。大丈夫ですか」
「うん。大丈夫。ちょっと魔力と生命力を一気に消費しただけだから。
1日ゆっくりすれば元気になるよ」
流石に今またさっきの大きい熊の魔物に襲われたらちょっと大変だけど、サラとキャロが一緒に居てくれるし。お陰で何も心配せずに魔法を使う事が出来た。
あと僕がへたり込んで慌てたのはサラだけじゃなかった。転がる様に駆け寄ってくる親熊に一瞬警戒したサラだったけど敵意が無いのを見て矛を収めた。
「ク、クママッ(だ、大丈夫ですかマスター)!?」
「あぁ、眷属化の効果で言ってることが何となく伝わってくるね。
というか声がちょっと変な感じになってるし」
まぁ可愛いからいいや。よしよしと右手だけ動かしてその頭を撫でてあげる。子熊たちはその姿に首を傾げるも、僕たちが敵ではないと理解したようで、若干警戒というよりも興味?を持ちつつ親の後ろにくっついている。
「さてえっと、名前が無いのは不便だな。
じゃあ今日からクママって呼ぶね」
「あ、安易ですね」
「え、ダメかな」
「いえ分かりやすくて良いかと」
サラが若干呆れてるけどやっぱりこういうのは分かりやすい方が良いと思うんだ。
「改めてクママ。まずはこの一帯の魔物の状況を教えてもらっても良いかな?
どうしてこんなに熊の魔物が大量発生したんだろう」
「クマ、クママ。クックマ~」
クママの話を要約すると、去年の春くらいに急に山に瘴気溜まりが出来たらしい。それに中てられた自分達の他、その瘴気溜まりからボコボコと自分たちと同じような姿の魔物が発生しては麓の方へと山を下りて行ったらしい。そしてつい先日残っていた瘴気が先ほど倒した魔物になって山を荒らしていたそうだ。
「瘴気溜まりが出来た原因は、流石に分からないか」
「クマ~」
「うん、まぁ仕方ないよ」
魔物化していたとはいえ元はただの熊だったクママにそこまで把握するのは無理があるからね。もしかしたらバックラー領で大量発生したウェアウルフと何か関係があるのかもしれないけど、証拠は無い。
それに今回はそれを調べることが仕事ではないし。
「じゃあ麓の方はともかく、山の方はちょっと荒れてしまったけどもう心配はいらないのかな」
「クマ!」
ここに長年住んでいるクママが大丈夫というのならきっとそうだろう。麓の方はティーラが頑張ってくれてるし、フィディ達も見回りをしてくれている。魔物の発生源が無くなったのであれば今回の魔物騒動は程なく鎮静化するだろう。
「と、そうだ。クママに仕事をお願いしたいんだけど良いかな?」
「クマッ!クマッ!」
「ここより北に行った山ではゴブリンが大量発生しているそうなんだ。
多分原因はここと同じなんじゃないかなって思う。
そのゴブリン達をちょっと叩きのめしてきて欲しいんだ。
あ、ゴブリンの他に人間も大勢山に入ってる可能性があるけど、人間とはちょっと距離を空けて近づかない様にして欲しい。
お願いできるかな?」
「クママ~」
力強く頷くクママ。元々はこの遠征の帰りにちょっと寄り道して僕自身が手伝いに行こうかなって考えてたけど、これなら任せても良いだろう。
「あと、それが済んだら家族仲良く山で暮らしてね。
じゃあ頼んだよ」
「クマッ」
「キュゥ」
「キュゥ」
最後にクママ親子の頭を撫でて僕らはその場を後にした。余談だけど僕はサラにおんぶされた状態だ。サラも過保護モードが発動しているようで今日はもう降ろして貰えそうにない。一応もう立って歩くくらいは出来るんだけど。
帰り道は、やけに静かだった。というのも、僕らの中で一番賑やかなキャロがさっきからずっと1言も言わずに黙っているからだ。
「ねえキャロ。何か心配事でもあるの?」
気になって聞いてみるも首を横に振られた。
「心配事では無くてその、何というか」
「うん」
どうやら何かはあるみたいなんだけどキャロの中でも考えが纏まっていないようだ。なので僕達はキャロが話してくれるのをゆっくりと待つことにした。
「あの、アル。この遠征が終わったら二人きりで話がしたいんだけど、いいか?」
「うん、もちろん。その様子だと大切な話みたいだね」
真剣なキャロの様子からして愛の告白とかでは無さそうだ。他に考えられそうな事と言えば、僕の元を去りたいとかそういう話だろうか。元々キャロとフィディは人探しの途中で僕の所に寄ってくれている状態なので、もし出て行くとなれば引き留める事は無い。もちろん淋しい人探しが済んだら戻って来てくれたら嬉しいなとは思うけどね。
そして2日後の昼頃に麓に戻ってきた僕たちが見たのは野戦病院さながらに重傷者が何人も横たわる野営地だった。




