70.裏に会いに行こう
ツビーが退室していく姿を見送り、ほっと一息。
僕の希望として伝えたけど第二騎士団でも同じようにゴブリンを相手にしたいと言ってくるだろうと思っている。その際に『アル兄の要望とも合致するし良かった』とツビーが考えてくれたら御の字だ。
「父上。一応聞きますが第二騎士団の表の練度は如何ほどなのでしょうか」
「うむ、第一騎士団と伯仲だと報告では聞いているし先日行われた模擬戦の結果も接戦であったな」
「そうですか」
父上の答えに父上と一緒にため息をついてしまった。
僕は直接は第二騎士団を見てはいないけど第一騎士団と同程度という事は騎士というより民兵と大して変わらないという事になる。一応魔法を憶えているだけマシ、くらい?
今回の遠征には表の騎士団を動員することになってるんだけど困ったな。
「……厳しそうか?」
「以前ならゴブリン相手であれば問題なかったでしょう」
だけど西のウェアウルフと同様に強くなっているとすれば、1対1で互角になる可能性もある。しかし総数だけで言えばゴブリンの方が圧倒的に多い。ただ幸いにゴブリン王国とは違って大した統率は取られていないだろうから、ちゃんと考えて戦えば数の不利は覆せる、はずだ。
「ちなみにツビーの実力ってどの程度なのでしょうか」
「歳の割には聡明で武の才もあるようだな。第二騎士団と混ざっても既に違和感が無いとも聞く」
「そう言われる第二騎士団が心配になってきました」
「そういうな」
本来であれば守護対象である王族と大差がない騎士の価値と言えば……肉壁?でも碌に訓練もしないような騎士に愛国心とか騎士道精神とかは期待できない気がする。もちろん貴族としての献身も。
「ツビーの護衛には裏から10人位回してもらいましょう」
「うむ。それに裏の部隊には先回りして魔物の数を減らしておいてもらう予定だ」
「あ、それならなんとかなるかな」
「と、ツバイクの心配ばかりしているがお前の方はどうなんだ?」
「僕?何かありましたっけ」
「第一騎士団内で模擬戦をするのだろう。勝ち目はあるのか?」
僕が騎士団長と交わした模擬戦の話は当然決まった当日に父上に報告を上げていた。なにせどこかの騎士団長が勝ったら褒美をなどと言い出したのだから仕方ない。それが無ければ事後報告で「皆でワイワイやってました」で済んだのに。
そして勝てるかという話であれば実は条件付きだったりする。
「裏が出て来なければまず間違いなく勝てます」
裏。つまり実戦部隊。実力のほどは見てはいないけど王国を支えて来てくれた人たちだ。弱い筈がない。彼らも名目上は同じ第一騎士団だから今度の模擬戦に参加する権利がある。
「そうか。裏も参戦してきたらどうだ?」
「うーん、勝てはしますが、模擬戦という意味では全く価値の無いものになるでしょうね。
騎士団長側は裏にだけ働かせて高みの見物。僕らも正面からでは数で押し負けるので側背からかすめ取るような勝利になるでしょう」
今鍛えてる20人が裏の騎士団と戦えば、多分同じ人数ならいい勝負になるとは思う。だけど倍以上となると実戦経験の差もあるし勝ち目はなくなるだろう。その場合、勝とうと思ったらフィディの魔法で敵の本陣を焼き払うかエンジュの長距離射撃で大将首を直接狙うか。いずれにしても騎士団同士の模擬戦ではなくなる。
「なので今夜にでも裏の騎士団には話を付けに行ってきます」
「そうか。団長が居る場所は分かるな?」
「はい。グントから聞いています」
そして夜。
ティーラをお供に連れて僕は1軒の安酒場へとやってきていた。ちらりと窓から中を覗けば中々に大盛況だ。扉を開ければ一気に喧騒が溢れてくる。ここが裏の第一騎士団のたまり場だということだけど誰がそうなのかはぱっと見分からないな。
「みっちゃん。こっちにジョッキ3つだ」
「はーい」
「唐揚げ山盛り、おまちどうさま~」
「待ってました~!」
給仕さんは忙しなく走り回り、客も常連なのだろう。慣れた感じのやり取りが楽し気だ。今度キャロも連れて来たら喜ぶかな。
「さてと、カウンターなら空いてるかな?」
「あらいらっしゃい」
中に入ったら給仕のひとりにすぐに見つかった。さてどんな応対をされるかな。
「店内は無礼講なのだけど大丈夫かしら。お皿とか割ったら弁償だから気を付けてね。
それで2人よね。今テーブルがいっぱいだからカウンターでも良い?」
「ええ、大丈夫です」
あれ、何というか普通だ。夜の酒場に10歳くらいの子供と若い女性の2人組が来たら、やんわり帰されることもあるかもしれないと思ってたのに。
まあそれならそれで大人しくカウンターに座ろう。そんな僕らを見て店内は若干静かになった。どうやらこれからどうなるのか楽しみにしてるって感じかな。
そしてシブメンのバーテンダーが僕らに尋ねた。
「いらっしゃい。何にしますか」
「えっとじゃあ」
「よお坊主。良く来たな。
ここは初めてだろう?なら俺から一杯奢らせてくれや」
バーテンダーに答えようとしたらひげ面のおじさんが割り込んできてそう言ってきた。何か意図はあるんだろうけど断るのは野暮か。
「じゃあ頂こうかな」
「よし来た。マスターいつものあれを」
「……ふむ。分かりました」
少し考えたバーテンダー改めマスターは棚から1本の瓶を取り出してコップに5割程注いで渡してくれた。それは無色透明で見た目だけではどんなものかは、あ、見た目の代わりに匂いで分かってしまった。匂いというか揮発するアルコール?
「さあぐいっと一杯」
「じゃあ頂きます」
「って、アル様!?」
勧められるままに一気にコップの中身を口に含む。そのまま飲んでも良いんだけど折角だから遊ぶか。このお酒、スピリタスはアルコール度数90%以上の可燃物だ。だから。
カッ。ボオオオオオオッ!!
「「おぉ~~~」」
南国のカーニバルよろしく今口に含んだお酒を霧状に吹きながら火炎の魔法で着火してあげれば、まるでドラゴンブレスのように横に向けて火柱が立った。あ、もちろん誰も居ない方向にね。ついでに火事にならない様にも注意してある。
その様子を見て酒場の人達から歓声が上がった。よし、受けは上々だ。なら次だな。
「じゃあマスター。この人に返杯を」
「分かりました」
「って、ちょっ」
マスターが同じお酒をコップになみなみと注いで髭のおじさんに差し出す。狼狽えるおじさんだけど、僕はコップの中身を空にしたんだ。ならおじさんが断るという選択肢は無い。
「く、こなくそっ……がはっ」
覚悟を決めてお酒を呷ったおじさんは、しかし半分も飲めずにぶっ倒れてしまった。それを見て再び歓声が上がる店内。ま、命に別状は無さそうだから良いんだけど、お酒は美味しく飲まないとね。




