67.意外と知らなかった話
僕の自己紹介が終わった後、それぞれのチームで順番に自己紹介を行い、一巡したらメンバーを入れ替えてもう一巡。2回目ともなると皆コツを掴んできたようで話す方も質問をする方も淀みがなくなっていた。
そして今は僕と一緒のチームになったティーラの番。
「ティーラ・ペルタです。ペルタ男爵家の2女になります。
得意な武器は短槍。魔法は身体強化と攻撃の補助に使うだけで直接的な攻撃魔法は苦手です」
「苦手と言いつつ王子みたく『魔物を灰にはできない』とか言うんじゃないのか?」
「言いません。アル様と同じ基準で考えられても困ります」
それは暗に僕が変だって言われているような気がする。まあいいんだけど。そういえばティーラが攻撃魔法を使ってる所って見た事無いし、使えるなら今度見せてもらおうかな。
「所属は元々5年前は半年だけ第一騎士団に所属していました」
「あれ、そうなのか? にしては見覚えが無いんだが。
騎士団に女性は珍しいからな。居れば見てると思うんだが。あ、もしかして裏か」
「ええ。一応オフレコでお願いします」
騎士団の人達はなんとなく納得してるけど裏ってなんだろう。実はティーラもグント達みたいな諜報部隊所属だったのかな。
「ねぇ、裏って何?聞いても大丈夫なやつ?」
「まあ王子なら大丈夫でしょう。騎士団には表と裏があるんですよ。
表っていうのはまぁ家柄だけあれば所属が可能な騎士団で、式典やらなにやら華やかな舞台に出るのが仕事みたいなものです。
反面、裏は実働部隊。実力とやる気のある人は試験を受けてそっちに回されます。泥臭かったり血なまぐさいのは全部裏の仕事です。その分、給料は良いそうですけどね。
今回の王子の魔物討伐遠征も凱旋パレードとかには表のメンバーが出て、実際に魔物を討伐するのは裏のメンバーが担当する筈だったんですよ」
そうだったのか。なのに僕が訓練所に突撃して引っ搔き回してしまったと。
でもまぁ確かに、凱旋してきた騎士団がボロボロで魔物の返り血だらけで目がギラついてたら見に来た人たちを怖がらせてしまうだろうし、綺麗に見せる用の人達も必要か。
「あれ、じゃあ今回皆を引き抜いてきたのは皆にとっては余計なお世話だった?」
「あ、それは大丈夫です。むしろ光栄ですし丁度いい機会でもありましたし」
「そうそう。あの威張り散らしてる団長の下にいるのは嫌になって来たところだったので」
「しかもあの人、偉いさんの前では自己アピールばっかだし」
どうやら騎士団長、人望もあまり無かったようですよ。最初からそんな気はしてたけど。
「あ、裏には裏の騎士団長が居て、そちらは一般兵からの叩き上げだそうです」
「じゃあ今度挨拶に行かないと」
「その時はお供します」
叩き上げの軍人なら顔と運だけって事は無いだろう。どんな人なのか今から楽しみだ。ティーラを僕に付けてくれたのもその人って事だろうし、お礼も言わないと。
「っと、それより今はティーラの自己紹介の最中だったね」
「あ、はい。と言っても何を話しましょうか。
質問などあれば受け付けますが」
「じゃあ、はい!」
「どうぞ」
「今お付き合いしている男性はいますか?」
「……はぁ」
騎士のひとりにそう質問されてため息をはくティーラ。これは呆れているというよりさっきも聞かれたのにまたかといった感じだろうか。年ごろの男性なら気になって仕方ない話なんだろうな。
「今の所居ません」
「じゃあ俺たちが立候補しても大丈夫ですか?」
「アル様より良い男だと自覚しているのであればどうぞ。受けるかどうかは別ですが」
「「……」」
男性陣がチラリとこちらを見る。まだ10歳の僕と比べて自分はどうかと考えているんだろう。地位とか将来性であれば王子に適うはずもない。経済力という意味でも彼らは知らないだろうけどアルファ商会の商会長なので動かそうと思えばそれなりの大金を動かせる。武力の差は昨日今日で思い知っただろう。
要するに言外にお断りしますって事だな。
でもティーラは今年で確か20歳の筈だ。女性としては結婚も視野に入れてもおかしくない年ごろだと言える。仮に僕に遠慮しているというなら自由にしてくれて良いのだけど。
「そういえばティーラの中でどうして僕の株はそんなに高いの?
5年前に王都を出るときに初めて会った訳だけど、結構早い段階から今と同じ感じだよね。
何かきっかけとかあったのかな」
記憶にある最初のティーラと言えば、王子の護衛任務ということでガチガチになっていた姿が懐かしい。でも当然あの時はまだ僕の事を『王子』として見ていても『アル』個人としては距離を測りかねていたように思える。
僕の認識違いで無ければ伯爵領に着いて生活が落ち着いた頃には今みたいになってたんじゃないかな。
僕の質問にティーラも昔を懐かしむように目を細めて話した。
「アル様は覚えているでしょうか。
5年前、王都を出て伯爵領に向かう途中にゴブリン王国の一団と遭遇したことを」
「ああ、あったね」
あの時は病気の子供を治療したいからって危険を承知で郷から人間の街に向かってるところに偶然合流したんだ。
「アル様は危険も顧みず、病気になったゴブリンの子供に口移しで薬草を飲ませました」
「まぁあの子は意識無かったし、ああしないと薬飲んでくれなかったからね」
「私の中で王族や貴族というのは穢れを嫌うもので、平民や他種族を汚物のように見る者たちだという印象がありました。
しかしアル様は目の前に助かる命があるならばと一切の躊躇なくその身を触れ合わせたのです。
その姿に私がどれだけ衝撃を受けたかアル様はご存じなかったでしょう」
あ、思い返せばなんかティーラがボーっと僕の事を見てたっけ。まさかそんな理由だったんだ。
「領都に着いてからも街の人達と一切の垣根を造らずに接し、時には汚れ仕事までするそのお姿に、私が将来お仕えする相手はこの方なのだと決めたのです」
キラキラと尊敬の眼差しで僕を見つめるティーラ。そこまで慕われて僕も悪い気持ちは一切しない。
ただ代わりに騎士団の人達は諦めたような表情が印象的だった。まぁ下手に期待を残すよりかは良いのかもしれない。




