66.交流時間を設けよう
翌朝は日の出と共に訓練開始だ。
「ほら皆起きて起きて~」
「アル様の手を煩わせる人はどなたですか~」
「「はっ!?」」
なぜか僕が声を掛けるよりもサラが優しく言った方が皆反応が良い気がする。やっぱり男の僕よりもかわいい女の子に起こされたい願望があるんだろう。
「朝食前は軽く汗を流す程度にしよう」
「「はいっ」」
「ということで、僕の後に続いて屋敷の周りを魔力強化なしで10周行ってみようか」
「「……」」
「返事はどうした!」
「「は、はい!」」
うーん、やっぱり僕が言うよりもティーラが伝えた方が素直に頷く。まだまだ子供の僕にはカリスマが足りないんだな。
ともかく走ってみれば昨日の選抜試験が嘘みたいにしっかり皆ついて来てくれる。とは言っても10周終える頃には汗だくでギリギリって感じだったけど。ただ誰よりも驚いているのは彼ら自身だ。
「お、俺たちってこんなに体力あったっけ」
「いや、昨日までなら10周どころか5周で限界だったと思う」
「だよな。ってことはもしかして王子が俺達に魔法を掛けてる?」
「僕は強化系の魔法は一切使ってないよ。
単純に錆びついてた身体が動くようになっただけだと思うけど」
想像でしかないけど、第一騎士団は大した訓練もして居なければ訓練の後の肉体のケアも食事内容にだって頓着していないんじゃないだろうか。そんなんじゃ立派な筋肉は付かないし、最悪関節を痛めて動けなくなってしまうだろう。
僕がやった事なんて、舗装されていない山野を走らせることで凝り固まった彼らの足腰を動くようにして、ジーヌさん達に事前に栄養満点の魔獣の肉と薬草を大量に納めて料理してもらい、寝ている間の彼らの回復を促進させるように魔法を発動させていただけだ。
「それより朝食だ。
食事は身体づくりの基本だからね。しっかり噛みながら好き嫌いせずに全部食べること」
「「はい!」」
昨夜同様、朝から肉の山がどどんと用意されていた。
「隣にある野菜で肉を包んで食べてください」
「お替りもありますからね」
「「はい、ありがとうございます!」」
ジーヌさんとバーミさんにしっかりとお礼を言う。やっぱり食事を作ってくれる人への感謝をしっかりするのは人格形成の第一歩だ。こうして貴族とか平民とか関係なく人に感謝できる人材が生まれて行く。
「食べ終わったらまた昨日と同じルートを行くから。
お昼までに帰って来れなかったらご飯抜きになるかもだから頑張ってね」
「「……わ、わかりました」」
一瞬手が止まったものの何とか頷くと食事のペースが上がった。気合十分ってところか。
だけど昨日の今日でそこまで劇的に速く走れるようになる訳もなく。内勤なら昼休みを終えて丁度眠くなる頃に僕らは戻って来た。
「まぁ昼というにはちょっと遅いけど、ご飯抜きは可哀そうだもんね」
僕がそう言って食堂へと皆を案内すると、おおきく安堵した声が聞こえて来た。やっぱりみんなお腹空いてるんだろう。
「アル様。ご飯抜きにする可能性はあったのですか?」
「しーっ」
サラの言う通り、ご飯を抜きにしても誰も得をしないので最初からそんなことをする気は無かったりする。でもほら、多少はスリルがある方が訓練に身が入ると思うんだよ。実際皆がんばってくれてるし。
ただ最初から飛ばし過ぎるのも良くないか。みんな今はハイになってるけど身体は疲労を蓄えているだろうし。
「食事が終わったら、今日の残り時間は交流時間としようか」
「交流、ですか?」
「そう。僕はまだ皆の名前も知らないし、趣味とか特技とか、そういうのをね。お互いに知っていけたらと思うんだ」
「は、はぁ。要するに面接というか聴取ですか?」
「全然違うよ? 一方的に僕が聞くんじゃなくて、僕の事もみんなに知って欲しい。要するに仲良くなろうってだけの時間だね。
あ、そうそう。当然僕は政務なんかにはまだ携わっては居ないから、聞いた話を元に親の貴族家に何かするって事は無いから安心して欲しい」
騎士団の人達で1グループ5人の計4グループに分かれてもらって、そこに僕らが分かれて合流した。人数的に丁度良かったのでジーヌさん達も入ってもらったので1グループが7人になった。
みんなこれからどうすれば良いんだろうって不安な顔をしてるから僕からお手本を見せるのが良いかな。
「持ち時間は1人大体10分としよう。気になったところはどんどん質問をしてね。話すの苦手って人も居ると思うから、そういう人達には積極的に質問を投げて話を膨らませて行って欲しい。
じゃあまずは僕から始めるよ。
僕は、みんなも知っている通りこの国の第1王子のアルファス・アイギス。今年で10歳です」
「「10歳!?」」
え、そうだけど何でそこで驚くのかな?
「あの、エルフ族とか龍族の血が流れてて見た目10歳だけど実は30歳くらいだという説はないんですか?」
「ないない。この身体は人族の血以外は流れてないよ」
「たった10歳でこの身体能力と魔力。一体何をどうしたらそうなれるんですか?」
「え、うーん。僕は5歳になるまで呪いに掛かって寝たきりだったからその間は読書と魔力制御くらいしかやることなかったんだ」
「の、呪い!?」
うん。ってこれ言っちゃだめだっけ?まぁいっか。もう過ぎた話だし。
ただここまで何にでも驚かれると話が進まないからちょっとスルーさせてもらおうかな。
「5歳で呪いが解けた後はバックラー伯爵領に療養に行ってたんだけど、そこで毎朝昨日からやってるような訓練を続けてたらこうなったよ」
「それ、俺たちでも5年続けたら王子のようになれるんでしょうか」
「ある程度は才能とか必要ないし大丈夫だと思うよ。
そっちにいるティーラは元々騎士団の新人だったけど、僕の護衛に付いて来てくれて一緒に訓練して今に至るから。
どれくらい強いのかは今度手合わせしてみればいいよ。少なくとも今は20人全員で奇襲を掛けても返り討ちだね」
「そんなに……」
僕の言葉に尊敬の眼差しをティーラに向けるみんな。ティーラも満更でもないようだ。
「ちなみにその私でもアル様には全く敵いません」
それを聞いて今度はみんなが僕を見た。だけどティーラの時と違って畏怖というか化物を見るような目をしているのは気のせいかな?僕は全然怖くないよ~。
「どこまで話したっけ。あ、そうだ。
趣味とか特技で言うと、盾は当然だから置いておいて、薬草や治癒魔法にはちょっと詳しいのでお腹が痛いとか気分が優れないとかあればすぐに教えてください。大した事無いと思ってたのに実はって事も結構あるから。
反面、攻撃魔法とかは使えなくはないって感じかな。最近出没してる魔物相手だと1撃で灰にするとかは無理だと思う」
「あの王子。それ普通は無理だと思います」
「そう?フィディなら行けるよね」
「そうね。上位個体とかで無ければ任せなさい」
いつものようにちょっと自慢気に話すフィディ。実際に自慢できるくらいフィディの魔法は凄いからね。
そんな感じで気が付けば皆の自慢もしつつ僕の自己紹介は終わった。




