65.選抜メンバーと合宿
騎士団長との話は終わり、僕は向こうでまだ伸びてる人達の元に向かった。
「『ヒール』」
「「はっ!?」」
治癒魔法を掛けて起こして、まずは説明と勧誘かな。
「えっと、皆さん。一次選抜突破おめでとうございます」
「「おめでとうございます!」」
「「……?……?」」
僕の言葉をより伝わりやすくするためにサラ達が僕の言葉を短く復唱してくれる。
起き抜けで若干頭が混乱してるっぽいけど時間も勿体無いし気にせず続けよう。
「皆さんの所属は引き続き第一騎士団となりますが、今後は僕の直属部隊となります。
良かったですね」
「「良かったです」」
「「は、はい?」」
なんか僕の言葉よりも一緒に復唱サラ達の言葉に頷いてるような?
「これから共に切磋琢磨し、最高の騎士団を創っていきます。
その志に賛同してくれる人は右手を上に上げてください」
「「右手を上に上げなさい」」
「「はっ!!」」
僕と一緒に皆が右手を突き上げた。その手首に魔力で創った紐が結ばれていく。これで僕から彼らに魔力のパスが通ったので今後は気軽に治癒魔法や魔力補給が出来るようになった。
「ではこれから特訓期間に入ります。
まずは場所を移しますので遅れずに着いてきてください」
「「遅れたら死ぬと思え」」
「「は、はい!!」」
やっぱりニュアンスが微妙に違う気がするけど、その行動を見れば僕の言ったことはちゃんと伝わったみたいだしいっか。
そうして僕達は王都から飛び出し、この付近では最も険しい山林へと乗り込んでいった。
ちなみに先頭は僕とキャロが走り、最後尾にはサラとティーラが脱落者が出ないように付いてきてくれている。フィディとエンジュは木の上から迷子が出ないように監視中だ。
途中、足をもつれさせて転びそうになる人が続出。山歩きに慣れていないと歩くだけでも木の根に足を取られたり走りにくいから仕方がない。僕は彼らの腰にロープを巻き付けて転ばないで済むようにしてあげながらひたすら走る。まずは足腰を鍛えて体力を付けるのが最優先だから見かけた魔物はエンジュに弓で追い払ってもらった。
その日は結局、山をグルっと一周りするだけで日が暮れてしまった。
山を降りた僕らは王都へは戻らず郊外の屋敷へと向かっていた。
「「…………」」
後ろを見れば騎士団のみんなが虚ろな目をしながら着いてきていた。うん、なんだかんだ一人も脱落せずにいるんだから大したものだと思う。
屋敷に着くと玄関扉の前に老夫婦が待っていてくれた。
「アルファス騎士団御一行様ですね。
この屋敷の管理を任されているジーヌとバーミです。
訓練お疲れ様でした。
お食事の用意が出来ておりますのでどうぞ食堂へ。
女性は先にお風呂へどうぞ」
「はい。今日からお世話になります」
「「……」」
「お前達、挨拶はどうした!」
「「よ、よろしくお願いいたします!!」」
いやティーラ。みんな疲れてるんだからそんな睨まなくても。
ともかく僕らは軽く顔と手を洗って食堂へ。そこには文字通り肉とサラダの山が幾つも用意されていた。
「さ、お替りもありますから沢山食べて下さい」
「「いただきます!」」
ガツガツガツガツガツ!!
第一騎士団に所属していたのだから全員貴族の子息の筈だけど、マナーとか一切気にせずに奪い合うようにフォークで肉を口に放り込んでいた。意外と元気残ってるな。
恥も外聞もあったもんじゃないけど、これこそ生きてるって感じがして僕は好きだ。きっと今頃向こうに残った第一騎士団の人達は優雅にナイフとフォークで食事をしていることだろう。どっちが幸せかは、まぁ本人達が決めることか。
山のようだったお肉は夏の氷のように消えてしまった。お腹が満たされたら早めに身体を清めて寝て体力の回復に努めて欲しいところだ。治癒魔法で身体の傷は癒せるけどやり過ぎるとそれに慣れて弱い肉体が出来てしまうから自然回復は必須なんだよね。
今はサラ達女性陣がお風呂に入ってる筈だけど、っと。丁度出てきたな。
「お風呂あがりました~」
「おかえり、みんな」
「「……ごくっ」」
お風呂上がりのサラ達を見た男性陣からつばを呑むような音が聞こえた。振り返れば顔を赤くしてたり挙動不審だったりする人がチラホラ。
「一応言っておくけど彼女らに本人の合意なく手を出そうとしたりお風呂場や着替えを覗こうとしたりすると死ぬからね。
どうしても我慢出来なくなったらお小遣いあげるから街のそういうお店のお世話になってくること。
いいね?」
「「は、はい!」」
釘は刺したけど別に心配はしていない。なにせ現状ではサラ達の方が圧倒的に強いから。ただ選抜を突破した中に3人だけ女性騎士が居るので彼女らだけはティーラあたりに気に掛けてもらう必要がありそうだ。僕じゃケア出来ない部分もあるだろうし。
「よし、じゃあ皆お風呂に行くよ」
「「はい!」」
「って、王子も一緒に入るんですか?」
皆を連れて更衣室に入ればなぜか驚かれた。
「そうだけど、嫌?」
「いえ滅相も無い。ただ俺ら汗臭いですし、今日はかなり汚れてますから」
「それを洗い流す為にお風呂に入るんだから良いじゃん。
ほら変な事言ってないで早く入るよ」
貴族出身で騎士団員だとは言え、入浴マナーが周知されているかといえばそうでもない。聞けば騎士団では基本かけ流しだけでゆっくり湯船に浸かることはないらしい。
「いい?まず湯船に入る前に身体を洗うよ。
バケツリレーの要領で湯船のお湯を汲んで回していく。
お湯は十分あるからケチらずに頭からしっかり被って綺麗にすること。
汚かったら入口においてあるデッキブラシで擦るからね」
「「はいっ」」
みんなで洗い場に2列に並んで、一番湯船に近い人達から順番にお湯を汲んでは隣に渡していく。続いて後ろの列の人が前の人の頭にお湯をぶっかけ頭と背中をワシワシと洗いながら前の人も自分を洗っていく。それが終われば前後交代だ。
「俺誰かに洗ってもらったの初めてだ」
「俺も俺も」
「あれ、みんな貴族出身ならメイドに洗って貰ったりとかしてないの?」
僕がそう聞くとみんな顔を見比べて苦笑いしていた。
「いやあ俺ら貴族って言っても男爵家だったり、他は商人の息子だったりでそんな余裕は無かったです」
「そうそう。偶然なのかいつも偉そうにしてる伯爵家の奴らとかは居ないみたいですね」
そういう人達は血統だけで騎士団入りしてたと思われるから、普段の訓練とかも碌にやってなかったんだろうね。でもそっか。僕はまだまだ彼らの事を何も知らないんだよな。
その後、浴槽の中で寝落ちしそうになってる人達を回収しつつ寝室へと送り届けた。今日の所は疲労でぐっすり寝れるだろう。




