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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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46.神の遣い

 日も暮れて、僕だけなら夜通し走っても良かったんだけどバーラさんも居るので、僕たちはその日はギュッテン村の1つ手前の町で夜を明かすことにした。


「みなさん、お聞きください。隣村で発生した伝染病。これこそ神が与えた罰なのです!」


 町に入った僕達を出迎えたのは、広場から聞こえるそんな声だった。

 

「隣村では日々女神様にお祈りする習慣が無かったのでしょう。

 その事をお怒りになり、女神様はかの村を見放された。

 その結果、人心は乱れ病魔が蔓延ったのです」


 朗々と語るのはどこかで見たハゲのおじさん。もとい司祭。領都を追い出された彼はしぶとくも生き延びてこの町に逃げ込んでいたらしい。そして隣村の伝染病の話を聞いてこれ幸いにと布教活動に利用しているのか。その隣には仲間らしき男が2人付き従っている。

 別に僕としては逃げた司祭が静かに暮らしている分には無視しても良いと思っていた。だけどこうして人々の不安を煽り扇動しようというのであれば見過ごせない。


「アル様、どうされますか?」


 僕の隣に居たデルタが訊ねてくる。領主の息子とは言えこの隊では副官の立場だというのをしっかり理解した態度は、流石次期バックラー伯爵だ。

 で、どうするか、か。力づくで解散させても良いんだろうけど、ちょっと遊ぶか。


「フィディとエンジュ、ちょっと耳を貸して」

「なにかしら?」

「はい」

「ごにょごにょごにょ」


 そばに来たふたりに思い付いた作戦を伝えると、フィディは楽しそうに笑いエンジュは責任重大って感じで頷いた。そして一足先にこの場を離れ準備に向かう。

 続いてデルタには声の大きい騎士団員数名と共に私服に着替えてもらって、広場に集まっている群衆に紛れ込んでもらう。デルタならきっと細かい指示が無くても卒なく動いてくれるだろう。


「ご安心ください。私は(新)アルフィリア教の司祭です。

 私と共に女神に祈りを捧げれば、皆さんは大丈夫です!」

「おぉ~~」

「私達をお救いください」


 演説は宴もたけなわって感じだ。気分良くなっている所悪いけど潰させてもらおう。


「お待ちなさい!!」


 突如響き渡る女性の声。その透き通る声に何事だと民衆は静まり返った。


「その者たちの言葉は全て虚言です」

「何だと!? 誰だ。どこから話している!」


 続く言葉に怒りを露にする司祭。

 そこで民衆の中から誰か、というかデルタが1つの屋根の上を指差しながら叫んだ。


「あそこだ。屋根の上に誰かいるぞ!」


 その言葉に人々の視線が釘付けになる。その視線の先に居たのは、月の光を背に受けた翼持つ少女とその従者。逆光になっていてその顔までは分からないが、翼を広げたその姿はおとぎ話に聞くあれだ。


「天使だ。神の遣いがいらしたぞ!!」

「なんて美しい」

「天使様。どうか私達をお導きください!」

「天使様」

「天使様!」


 デルタ達が率先して声を上げることで、誰一人疑うことなく屋根の上の2人が神の遣いだと信じた。あ、いや。司祭たちは信じてはいないか。


「待ちなさい。あれは……ぐぇ」


 余計な事を言い出す前に叩きのめして退場させる。みんな屋根の上を見てるからこっちには気付いていないようだ。


「皆さん。ご安心ください。隣村の伝染病はただの自然災害。決して神の怒りなどではありません。

 そして、神は既にその災害を鎮める為の使徒を派遣なされました。

 もうまもなく災害は収束することでしょう」

「「おぉ~~」」

「女神様ありがとうございます」


 感謝の祈りを捧げる人々。これでひとまずは無用な不安は収まったはずだ。

 だけど問題はこのままだと女神信者が大量発生してしまう。なのでもう一声伝えてもらう事にした。


「皆さん。よく覚えておいてください。

 女神は祈りの言葉も貢物もお布施も求めてはおりません。

 そんなものを求めるのは女神の名を騙る悪人のみです。決して騙されてはいけません。

 女神が求めているものはただ1つ。

 それはみなさんの笑顔です。

 日々を幸せに生きなさい。隣人を笑顔にしてあげなさい。

 それこそが女神が求めているものなのです。いいですね」

「はい。ありがとうございます女神様」

「女神様~」


 そうして話し終えた天使たちは、一瞬光に包まれたかと思った次の瞬間、その場から消えていた。後にはまだ夢の中に居るような顔をした民衆だけだった。


「どう? なかなか良い演説だったでしょう」


 僕の元に戻って来たフィディがドヤ顔で話しかけてくる。でも実際良かったしな。


「うん、フィディにお願いして良かったよ。エンジュもご苦労様」

「わたし、立ってただけ」

「それでもエンジュのお陰で上手く行ったんだよ。ありがとう」


 頑張った人にはキチンと労い感謝してお礼を言うのは当たり前だ。それにエンジュが何もしてないなんてことはない。そりゃ喋ってたのは全部フィディだけど、この作戦はエンジュが居なかったら成り立たなかったし。

 エンジュも僕に頭を撫でられながらお礼を言われて嬉しそうに笑っていた。


「って、エンジュにばかり構い過ぎじゃない?」

「ん? あぁ、フィディもありがとう」

「ふん、べつに撫でて欲しかったって言った訳じゃないんだけどね」


 エンジュを撫でたのとは反対の手でフィディの頭も撫でてあげれば満更でもない顔でそっぽを向かれた。

 その様子を見ていたバーラさんがぼそりと隣に居たティーラに話し掛けた。


「いいのかい、あれ。大事なご主人様が他の女に取られちまうかもしれないよ」

「大丈夫ですよ。アル様は懐が広いですから」

「はあーそうかい。あたしもあと60年若ければねぇ」

「ふふっ。アル様なら年齢は気にされないかと思いますが」

「よしとくれ。流石に若い子に付き合うには身体が持たないさね」


 いやまぁうん。人としてバーラさんの事は尊敬してるから大丈夫、ですよ? 自分で言ってて何が大丈夫なのかは分からないけど。



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