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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
120/131

120.巨大な岩を受け止めるような簡単な仕事

いつもお読みいただきありがとうございます。

そして大変申し訳ないのですが、

今月来月は忙しすぎて執筆時間が全く取れそうもありません。

なのでガックリと更新頻度が落ちますが、エタることはないのでゆっくりとお待ちいただけると幸いです。


 外壁の北側で陣形を組んでいた騎士団の者たちは街中の騒ぎを聞いて苦笑いを浮かべていた。


「アル様はまた無茶をする」

「うむ。しかし確かに効果的ではある。

 街としては発展途上である今だからこそ、ここに住むものとしての基準を明確にしておくことは大事だ。

 誰かに護られて当たり前だと考える輩はここに居るべきではない」


 この場所からでは分からないが、今頃南の門からは多くの者たちが街から離脱していることだろう。残りの東西北の門は堅く閉ざされているし、地上から迫る魔物達がここに辿り着くころには南門も閉じる手筈になっている。そして、魔物を撃退した後に開かれるのは北門だけだ。南門から逃げ出した者たちに帰ってくる場所は無い。


「だけどよ。これで俺達が防衛を終えて街に戻ったら誰も居なかったりしてな」

「ハハハっ。気にするな。元から勝手に集まってきた奴らだ。別に何も期待してない」

「だけどアルファス様はそうではないらしい。

 じゃなかったらわざわざ鬼姫様を説明に向かわせたりしないだろうからな」

「ああ。あの人ひとり居れば街の中は余裕だろう。空からは小さな天使様が見守ってくださっているのだから路地に逃げ込まれる心配も無い」


 もうすぐ魔物たちがここへやってくると言うのに緊張した様子はない。それは実に頼もしいことではあるんだけど多少の緊張感は持っておかないと事故の元だ。


「お前達、分かっているだろうな。

 キャロがいなくなった所為で取りこぼしましたとか怪我人が出ましたとか言ったら明日からの訓練は5割増しだからな?」

「「イエス、メム!!」」

 

 ティーラの一言にビシッと背筋を伸ばす皆。こうしてみるとちゃんとティーラが騎士団長をしてるのが分かって嬉しい。やっぱり真面目なティーラは指揮官に向いてるな。

 そしてレッドドレイクの先頭は既に森を抜けて街の100メートル手前まで近づいて来ていた。この頃には空のワイバーンもかなり近くまで来ているので、さっきからエンジュとサラが流れ作業で次々とワイバーンに致命傷を与えつつ街の広場へと投げ込んでいた。

 その広場はと言えばキャロを先頭に200人位が武器を持ってワイバーンにとどめを刺し、それ以外の人は仕留めたワイバーンを広場から運び出して解体している。

 戦える人もそうでない人も協力して事に当たれるのは良い事だ。こういう共同作業を通じて連帯感や仲間意識は育まれていくものだから、ぜひこれをきっかけに仲良くなっていってもらいたい。


「よっしゃ来いやトカゲぇ!!」

「美味しくステーキにしてやるぜぇ!」

「グオオオッ」


 咆える騎士団に咆えるレッドドレイク。地上の戦いも遂に始まったんだけど、あれじゃあどっちが魔物か分からないな。

 騎士団の陣形は前後2列の基本的な横陣だ。対するレッドドレイクはその体格に物を言わせて正面から突撃してくる。普通に考えれば物量で圧倒的に勝る魔物が防御陣を踏み潰して終わりだ。だけどそうはならない。

 まず正面からの衝突。質量で言えばレッドドレイクは少なくとも5トンはあると見て良いだろう。対する騎士は鎧込みで100キロくらい。つまり50倍の差がある訳だ。山の上から巨大な岩が転がってくるのを想像すれば近いかな?そんなものがぶつかり合えば吹き飛ぶのはどちらかは明白だ。……そう、レッドドレイクの方だ。


「ふんっ!」

「グギャオ」


 時速80キロで突撃してきた5トンのレッドドレイクが、その速度のまま前方の騎士に噛み付こうと飛び掛かる。その鼻っ面に騎士の盾が叩きつけられ、その全てのエネルギーがドレイクの首へと集約された。


グシャッ

「ガッ……」


 太いとは言っても急所だ。そんな膨大な力に耐えられるはずもなく、断末魔を上げる間もなく千切れ飛んでいった。残る胴体もちゃっちゃと後ろの騎士が運び出し、外壁近くの堀の縁に掛けて行く。首があった方を掘の底に向けることで体内に残っている血を抜いているんだ。


「最初外壁の周りに空堀を掘るって聞いた時は意味があるのかと思ったけど、まさかこの為だったとはな」

「だけど、魔物の血を流して病気になったりはしないのか?」

「そこはほら、そこのつる植物たちが吸い取って浄化してくれるらしいぞ」


 騎士たちの視線の先にはまだ若芽しか出ていない植物がパラパラと堀に生えていた。そこにレッドドレイクの血が流し込まれると、みるみる吸い込んで成長してあっという間に1メートルくらいになってしまった。


「す、すげえな」

「あ、あぁ」

「おいお前達。魔物はどんどん来てるんだ。感心してないで手を動かせ!」

「「お、おう」」


 その場を離れた騎士達の後ろで、つる植物はにょきにょきと元気に伸びて行き、やがては外壁を覆う予定だ。そうなればちょっとやそっとの攻撃で外壁が崩れることは無くなるし、つるを伝って登ろうにも敵と判断されれば四方八方から蔓が伸びてきて絞め殺されてそのまま養分にされる。更に言うと養分が余ってこれば豆に似た果実を生やしてくれて、これが結構おいしくて栄養価も高い食料になる。つまり籠城戦ではとても頼りになる存在だ。


「しかし、敵に指揮官が居なくて助かったな」

「そうですね」


 迫る魔物を盾で叩きのめしながら戦況を確認する。

 今は北側からなだれ込むように攻めてくる魔物だけど、もし仮に少しでも頭の回る指揮官が居れば、左右に部隊を展開し街を包囲しただろう。そうなれば数で劣る騎士団がそれに応じるには、4つの外門それぞれに騎士を振り分けるしかなくなる。そうして分散させた後に1カ所を集中攻撃されれば耐えきれなかった可能性は高い。


「鳥頭ならぬ蜥蜴頭って事か」

「ちなみに蜥蜴の頭って美味しいそうですよ?」

「なに!?なぜそれを先に言わないんだ!

 面倒くさいから叩き潰してしまったじゃないか」


 文句を言いながら上手く首をへし折る方向に戦い方を変化させていた。

 うーん、そこまで食に拘るって、普段そんなに良いもの食べて無いのだろうか。今度料理を提供してくれている人たちに確認を取らないといけないな。



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