119.空からの来客と街の護り
空に上がる僕をエンジュと、そしてサラまで追いかけてやってきた。
「サラはいつの間に空を駆けれるようになったの?」
「アル様のメイドですから。
アル様に付いて行く為ならこれくらい造作も無い事です」
凄いな。そんな理由で空を走れるようになる人は200年前にも居なかった。しかも見てみれば僕とはまた別の理屈で空中に静止してるみたいなんだけど、どうやってるんだろう。
まあ今はそれどころじゃないか。
「エンジュ、邪神龍モドキは先日の巨大鳥の魔物とは格が違うから多分今のエンジュだと急所に当てても攻撃が通らない可能性が高い」
「そんなにですか」
「うん。どうやら先日の戦場で見た時よりだいぶ元気になってるようだし」
あの時は生まれたてで存在が不安定だったのもあってボロボロの出来損ないって感じだったけど、今は各地で瘴気を補給した結果、肉体的には本来の状態を取り戻しているように見える。もちろんそれはモドキとしてだけど。本来の邪神龍と比べればウサギと亀くらい装甲強度に差がある。それでもなお今世で見たどの魔物よりも強固な肉体なんだけど。
「なのでエンジュは邪神龍モドキは無視してワイバーンの処理をお願い。
基地にはバリスタも配備したし騎士の皆も魔法は使えるけど、やっぱり空を飛び回る敵を相手にするのは大変だからね」
「分かりました!
それではちゃちゃっと撃ち落とし」
「って、待った!」
「はい?」
弓に矢を番えて射撃体勢を取ったエンジュに待ったをかける。止められたエンジュはどうしてって疑問顔だけど考えても見て欲しい。空を飛ぶワイバーン達まで目測でまだ2キロ近くある。エンジュの弓ならその距離でも届くだろうけど、問題はそこじゃない。
「射落とした後、ワイバーンの肉はどうやって回収するつもり?」
「それはもちろん墜落地点に行って1体ずつ引っ張って……あ」
気付いたようだ。500体近いワイバーンをエンジュ1人で引き揚げるのは時間が掛かり過ぎる。ほとんど血抜きとかも出来ないし、今でこそこの騒動で森に普段住んでいる魔物たちはどこかに隠れているだろうけど戦いが終われば戻ってくるだろう。そうしたらワイバーンの死体は彼らにとっても格好の餌だからエンジュが回収する前に大半が食べられてしまう。
折角ワイバーンの肉を楽しみにしていた騎士団の悲しみは計り知れないだろう。
「ということでせめて森を出た先で、欲を言えば200メートルくらいまでおびき寄せてから仕留めたいね」
「あの、それだと地上で戦ってるみなさんの邪魔になりませんか?」
見たところワイバーンとレッドドレイクはある程度足並みをそろえてこちらに近づいている。なので近付いてきたワイバーンをそのまま地上に落とせばドレイク達の真上に落ちることになる。それはそれでドレイク達の動きを牽制することになって良いかもだけど、逆を言えばドレイク達に踏みつぶされてしまう危険もあるか。
「あのアル様。いっそのこと街の内部に引き入れてみるのは如何でしょうか」
「うん?そんなことをしたら街の皆が危険なんじゃない?」
エンジュの弓で射落とすとは言っても全て即死とはいかないだろう。ワイバーンは生命力も高いし致命傷を受けて尚、暴れる個体も出てくるはずだ。そんなものを街中に落とせば大変な事になる。今この街は周辺の村からやって来た人や盾の王国から来た商人なんかも大勢居るんだ。
サラももちろんその事は理解しているだろう。その上で言うという事は。
「中央広場が催し物も出来るようにと広く確保してあります。
あそこに落とせば街そのものへの被害は回避できるでしょう。
それに、この街で暮らすということは危険と隣り合わせであるということを理解して頂く必要があります」
「あぁ、確かにね」
僕らの庇護を求めてやってきた人達は、この街に居れば僕らが護ってくれると勝手に期待して依存しているかもしれない。だけど実際にはそんなことは無いんだ。ここは街っぽくても城が建ってても、あくまでも前線基地。常在戦場であり、自分の身は自分で護らないといけない。
「よし、じゃあその方針で行こう。
とは言ってもどうやってワイバーンの墜落ポイントを調整しようか」
「そこはお任せください」
言いながら長いロープを取り出すサラ。今それ何処から出したの?
「先日の巨大蛇との戦いを教訓に用意しておきました」
「そ、そう」
「エンジュさん。私の射程は300メートル程です。
その距離まで近づいたら4体ずつ仕留めて行ってください」
「分かりました!」
ロープの先を輪になるように結んで、投げ輪の要領でワイバーンの首に引っ掛けるつもりか。普通に考えれば風も吹いてる上空でそんなこと出来る訳がないんだけど、何かしら魔法で上手い事調整するんだろう。その辺りの器用さはサラだし。
「街のみんなへの連絡はキャロにお願いしよう」
「そうですね。流石に突然魔物が落ちて来たら驚くでしょうから」
という訳でキャロに街の住民への説明をしに行ってもらった。その際に、今回と同じような事は今後何度も起きること、今なら南の門から出れば逃げられることを強調してもらう。
街の住民の反応はまちまちだ。我先にと荷物を纏めて逃げ出す者も居れば武器を手に防衛に参加しようとする者もいる。しかし中には騎士団の不甲斐なさを指摘し抗議する人たちも居た。
「ちょっと待てよ。騎士団が俺達を護ってくれるんじゃなかったのか!!
俺達はお前達が魔物から護ってくれるって言うからこの街に来てやったんだぞ。
市民を護らないで何のための騎士団だ!!」
「そうだそうだ。これで俺達の中から怪我人が出たらどう責任を取るつもりだ!!」
「こっちは高い税金納めてるんだぞ」
「お前ゴブリンだろっ。お前なんかじゃはなしにならん。責任者を連れてこい」
最初の一人を皮切りに追従するように何人もの男達から罵声が飛んできた。キャロはそれを聞きながら動じることなく立ち、ある程度出きった所で口を開いた。
「……何か勘違いをしているようだが、あたし達がアルファス様から受けた命は『自分達と護りたい者を護れ』ということだ。
別に街の住民を護れと言われたことはない。
近隣の村に対しても同じだ。騎士団で魔物を倒すと言ったかもしれないが、護ってあげるからこの街に来て欲しいとお願いしたことは一度も無い。
お前達は門戸が開いているのを良い事に勝手に移り住んできただけじゃないのか?
それともお前達はあたし達が護りたいと思う程、この地に貢献してくれていたのか?
誰かが税金について言っていたけど、それはただの土地の利用料だろう。少なくとも現時点で関税や人頭税を徴収してはいないはずだ。
そしてここを1つの国と考えた場合、あたしの役職は近衛騎士団長だ。あたしの上にはアルファス様しかいない。まさかお前達、こんなくだらない苦情の為にアルファス様に来いと言っているのか?」
「「……」」
キャロの放つ闘気に広場はしんと静まり返ってしまった。
うーん、キャロが静かに荒らぶっているな。以前なら問答無用で椅子とか斧とかを投げつけていた所だろう。そう考えればなかなかに精神的に成長してるんじゃないだろうか。
よし、ここはひとつキャロの援護射撃をしてあげよう。
僕はサラからロープを1本借りてエンジュに指示を出した。本来なら矢で致命傷を与えてから広場に落とす予定だったけど最初の1体はそのまま首にロープをかけて引っ張ってしまおう。
そして地上にいるキャロも僕らがやろうとしている事を敏感に感じ取ってにっこりと笑いながら右手で空を指差した。
「最後に良い事をおしえてやる。魔物はお前達の都合なんか待ってはくれないぞ」
ズドォォン!!
キャロの言葉が終わるタイミングで広場中央にワイバーンが墜落してきた。それを見て文句を言ってた奴らは我先にと逃げ出していった。残っているのはアルファ商会の商人達と、自分の街は自分たちで護ろうという気概の有る者たちだけだ。




