107.困窮した人類が求めるもの
北の剣の国との国境付近で焼き鳥を焼きながらのんびり過ごしていれば程なくしてサラとキャロがやってきた。どうやら無事に蛇の魔物は討伐出来たみたいだな。
「アル様~。お待たせしました~」
「アル、なんかいい匂いがするな!」
そう言いながら近づいてきた二人はどこも怪我とかも無く元気そうだ。
「お帰りふたりとも」
「お肉焼けてますよ~」
みんなで焼き台を囲みながら野外パーティーを堪能する僕達。周囲に人は居ないけど、居たらこんな平原のど真ん中で何してるんだって言われそうだ。こんないい匂い立ててたら魔物とかが寄ってくるのに。事実サラ達が来るまでに20体程魔物を討伐している。国境付近ということもあって教皇の力が届いていないっぽいな。
「しかしこの次元収納鞄?って凄いな。
バラバラに切り分けた蛇の魔物が全部入っちゃったんだから」
「ほんとどういう仕組み何でしょうね」
僕らの手元には2つの鞄があった。これは教皇から今回の報酬にと先払いで貰っていたものだ。なんでも古代の魔道具でほぼ無制限に荷物を詰め込める鞄なのだとか。実際鳥の魔物も頭は置いてきたけどそれ以外の部分は全部収納出来てしまった。これが大量にあれば流通革命が起きそうだけど、製造方法は分からないそうだ。
無事に腹ごしらえも終えた僕たちはこのまま盾の国に帰る予定だ。
「じゃあ帰りは真っ直ぐ剣の国を突っ切って行こうか」
「国境は大丈夫なのですか?」
「癒しの国との検問は厳しくないだろう。
キャロの角とかは帽子やローブで隠せば良いし、タリスマンを見せて『アルフィリア教で~す』って言いながら賄賂を渡せばすんなり通してくれるよ」
「賄賂ですか」
癒しの国ではアルフィリア教はちゃんと宗教してるけど、他の国では金集めの為のプロパガンダみたいなものだからね。どうしてそうなったのかも教皇に聞いてみたけど、広く布教するには影響力のある者を取り込むのが早い。つまり権力者や商人など。そう言った人たちは何故か揃って金に目が無いからそっち方面から唆したのだそうだ。結果的に盾の国の一部を含め全国に広がったんだから大したものだ。
そうして僕らは何食わぬ顔で剣の国へと入った。あ、賄賂はお金よりもお肉を望まれたので鶏肉を大量に渡してきた。本来鶏肉って足が速いんだけど魔物の肉だから大丈夫でしょう。
「それにしても酷いね」
「はい。辺境とは言えどこも壊滅状態です」
道中に見つかった村は魔物に襲われたり盗賊に襲われたりして廃墟になっていた。小さめの町にも寄ってみたものの酷い有様だった。それに子供や老人の姿ばかり見かける。
「男達はどこに行ってしまったのでしょう」
「そりゃあ兵隊として連れて行かれたんじゃないかな」
「狂暴になった魔物に対抗するにはそれしかないですよね」
「いやそれは違うよ」
サラの言葉に首を振る。魔物に対抗するために兵隊になったのなら、町の周辺に兵隊が巡回しているはずだけどそんなのは1度として見ていない。もしかしたら近くの砦に集結してるのかもと思ったけど、魔力の反応からしてもぬけの殻に近い。
「じゃあ兵隊として連れて行かれた人はどこに?……まさか」
「そう。戦争だね」
人類っていうのは不思議なもので、魔物を始め外敵が現れた場合、最初こそその外敵を排除するために頑張るんだけど効果が余りないと見ると決まって次にすることがある。
「国力を回復させるために他国を襲うんだ。
魔物と戦うより人間の方が弱くて戦いやすくて見返りも大きいって判断するみたいなんだよね」
「そんなことをしていたら共倒れになりませんか?」
「うん、その通りだよ。
どうしてか愚王に限って収入の計算は出来るんだけど支出は視えないみたいなんだ」
戦争なんかすれば戦力は摩耗するし食料は余分に消費するしで良い事は何もない。相手の国を支配下に置いたって戦争で失った分を回収するのに何年かかることか。そんなことをしている間に魔物に国を蹂躙されてボロボロになるのは目に見えている。
「まあ僕としては剣の国が自滅する分には勝手にしてくれて良いんだけど。
問題は剣の国が攻めるとしたらどこかって話だ」
大陸の地図を頭に思い浮かべれば、剣の国は北に盾の国、西は槍の国と魔法の国、南は癒しの国がある。東側は槌の国と弓の国があったけど、一度滅んで今は連合国となっている。
で、この中で軍事力という意味で一番弱いのは癒しの国、と言いたいんだけどあの教皇が居るしアルフィリア教の総本山を攻撃するとは何事かと貴族たちの反対が出るから狙う事は無いだろう。
そして剣の国は他の国とそれほど良好な関係は築けていない。それというのも200年前の邪神龍討伐の直後に盾の国へ戦争を仕掛けたり、その後も何度か他国と戦争を行っているからだ。どうも彼らは剣の国こそが人類の中で最も優れており大陸を支配すべきなのだと考えている節がある。はっきり言ってただの妄想なのだけど。
だから東や西を攻めると反対側から領土を奪われかねない。それらに多少睨みを利かせながらというと狙いは絞られる。
「つまりこの国の狙いは僕らの盾の国一択なんだ」
あとはまぁ盾の国だけが魔物の被害が少ない現状からみて今回の騒動は盾の国が裏で糸を引いてるんじゃないかってデマを流すことも出来るし、自分たちは苦労しているのにあいつだけ楽してるのは許せないっていうのも人間の心理だ。そこをついて一緒に盾の国を滅ぼそうって呼び掛けることも出来る。応じる国があるかは知らないけど。
僕の説明を聞いてキャロがちょっと慌てた。
「え、じゃあ早く帰らないと大変な事になるんじゃないか?」
「うん。今頃ツビーやティーラ達は忙しいだろうね」
対する僕はいつも通り。そして僕がいつも通りならサラとエンジュもいつも通りだ。
「アル様の事ですから、既に何か手を打ってあるのですよね」
「ティーラさん達なら早々負けることもありません」
「うん、エンジュの言う通りだ」
剣の国が万を超える軍勢で攻め上がってきたとしてもティーラが負けるとは思えない。馬鹿な将軍の指揮で戦わされたらどうかは分からないけど、ティーラに指図出来る人と言ったら父上とツビーくらいだけどふたりともその心配もない。
「でもま、ボチボチ応援に行こうか。何やら呼ばれている気もするし」
「呼ばれている、ですか?」
「うん。まぁ行けば分かるよ」
そうして僕らは剣の国を一気に北上して行けば、想定通り僕らの国へと進軍している5万を超える大軍団を見つけることが出来た。




