106.頭キーンでチャック全開作戦
アル達が鳥の魔物の討伐をして居る頃、東の地ではサラとキャロが蛇の魔物と戦っていた?
「キャロさん、そっち行きました」
「きゃああっ。こっち来ないで変態!」
襲い来る蛇に逃げ回っていたという方が正しそうだった。それでも人気のない平原に魔物を誘導している辺り、まだ余裕はありそうだけど。
「なんなのこいつ。斧で切り付けても表面のぬめる鱗で滑るし殴っても効かないし」
「蛇の身体は柔らかいですから衝撃はほぼ完全に逃がされるんです」
「というかサラ、こいつの倒し方知ってるような口ぶりじゃなかった?」
アル達と分かれる際にサラなら蛇の締め方も熟知しているから問題ないって話だったはず。だけど現地に来てみれば有効な攻撃は全くできず、こうして周囲に被害が出ない様に誘導するのが精々だ。
「キシャアアアッ」
「噛み付き来ます!」
「こんにゃろ」
振り向きざまにキャロのポールアックスが蛇の牙に叩きつけられた。
バキッという音と共に砕ける牙はしかし、数秒も経てば復活してしまう。そこは流石魔物と言うべきか。
「って感心してる場合じゃなくて、どうやって倒せばいいの!?」
「普通の蛇の魔物であれば縄で頭の後ろを絞めて拘束するのですが」
「じゃあ早くやって」
「……そんなに長い縄がありません」
「確かに!!」
なにせ直径数メートルにもなる蛇だ。全長で言えば50メートルを超えているかもしれない。そんな超巨大蛇を捕獲できるほどの縄は流石のサラでも用意出来なかった。
「それじゃあどうするの?」
「鱗の無い部分、例えばお腹側なら打撃が通るかもしれません」
「お腹側、つまり、掬い上げる!」
「シャアアアッ」
地面を抉りながら振り抜かれたキャロの斧が蛇の下顎を殴り飛ばす。それにより蛇の頭が上空数メートルまで飛び上がった。
だけど次の瞬間、まるで時間を巻き戻したかのように上空の蛇の頭がキャロの上に落ちてきた。
「シャッ!!」
「キャロさん!?」
蛇は地面にぶつかるどころか地中へと潜り込んでしまった。そこにキャロの姿は無い。まさか食べられてしまったのかと焦るサラの横で地面が爆発した。地中に潜っていた蛇の頭が飛び出してきたのだ。そしてその口元にはポールアックスを支えに食われまいと踏ん張るキャロの姿もあった。
ほっと一息つくも状況は何も好転していない。
考えなければ。はっきり言って頭脳担当はサラの仕事だ。対人戦はともかく魔物相手の攻撃力、破壊力という意味ではキャロの方が長けている。残念ながらサラの手札ではあの魔物に致命打を与える事は出来ないだろう。しかしそのキャロの攻撃も今一つ効いていない。柔らかくしなやかな肉体とそれを覆う鱗が邪魔だ。どうにかして動きを止めつつ鱗の無い部分を攻撃しないと。
「この魔物が蛇の特性を持っているなら寒さには弱い筈」
とは言ってもフィディなら周囲一帯を冬のようにすることが出来たかもしれないけどサラにはそんな大規模魔法は使えない。氷魔法なんて夏の暑い日にアルの為にアイスティーやかき氷やシャーベットを作る時に使うくらいのものだ。
「あっ、それで行きましょう」
「何か思いついた?」
魔物が首を振った勢いを利用して近くに飛んできたキャロにサラは手早く説明を行う。
「名付けて『かき氷で頭キーン作戦』です」
「なるほど。あのキーンはきついよね!」
キャロはかき氷を作ればイッキ食いをするので頭キーンの常習犯だ。
「じゃああたしがあいつの口元で陽動するからその隙にお願い」
「はい。キャロさんも気を付けて」
再び魔物の頭に向かって行くキャロを見送りサラは手早く魔法を構築していく。
「必要なのは威力ではなくただただ量と冷たさ。
行きます。『クリエイトアイスウォール』」
ガバリと開けられた魔物の口の中に氷の塊を作り出せば、魔物はそのまま氷を丸呑みにしてしまった。
「……」
「だめだったか?」
一瞬動きを止めた魔物は、しかし次の瞬間飛び上がった。
「シャウアアアッッ」
「お、効いてるぞ!」
「今のうちにどんどん行きます!」
仰け反る魔物の口に容赦なく氷の塊が幾つも作られていく。図体が大きい分、狙いも楽だ。上を向いたところで作ってやれば吐き出す間もなく喉の奥へと落ちて行く。
「シャァァ~~」
頭がキーンとしているかはともかく、魔物はぐったりとして動きが鈍ってきた。今なら攻撃が効くかもしれない。でも万全は期すべきか。出来る事なら鱗の無い部分を攻撃したい。
「鱗の無い部分は……あっ、あった!
サラ。残りの魔力であたしに防御魔法を掛けて!」
「は、はい。余り無茶はしないでくださいね」
「うん。行ってくる」
キャロだって自前で大抵の攻撃は防げるはずなのにわざわざサラに頼んだ。それはつまり相当危険な事をする気なんじゃないかと思うもののサラは止めたりはしない。それは信頼の証。キャロならばアルを悲しませることは絶対にしない。
更に見送られながらキャロは軽い足取りで魔物の顔の前まで移動した。
「おい。随分ぐったりしてるじゃないか。
さっきまでの威勢の良さはどうした」
「シャアア~~」
魔物の意地か、かなりきつそうな様子だけどそれでも目の前の敵に向かって牙を剥き襲い掛かった。それは常人ならまだしもキャロなら余裕で避けられるほど鈍い動きだった。しかしキャロは逃げるどころかむしろ自分で魔物の口の中に飛び込んでいった。
パックンと丸呑みにされたキャロは落ち着いて武器を構えていた。
「あたしとサラの防御魔法の重ね掛けならこいつの消化液でも何ともないな。
よし。じゃあ、せ~の!」
ズバンッ!!
外から見ていたサラの目には、まるで着ぐるみが背中のチャックを開けたように魔物の背中が切り開かれていくのが見て取れた。
「なるほど。体内なら鱗はあるはずがないですし、衝撃を逃がす先も無いですからね」
にょきっと魔物の後頭部から角のように生えてきたポールアックスが魔物の頭頂部に突き刺さると、魔物は完全に沈黙した。
その切れ目から出てきたキャロは怪我ひとつなく元気そうだ。ただし魔物の消化液とかでべとべとだったけど。
「『ウォータースプラッシュ』」
「ぶへっ」
サラの魔法が容赦なくキャロを洗い流した。頭をフルフルと振って水気を飛ばしたキャロはにかっと笑った。
「いっちょあがり!」
「お疲れ様でした」
これで後は魔物を解体して持ち帰るだけ、なのだけど。
周囲を見渡したサラがため息をついた。
「凄い惨状ですね」
「まああれだけ暴れまわったからな」
元々何もない草原だったとはいえ、今ではボコボコのグシャグシャの荒れ地だ。仮にこれが盾の国だったらアルから「遊んだらちゃんと戻さないと」と言われてしまいそうだ。普段ならそれはサラのセリフなんだけど。
だけどここは盾の国では無いし、後始末は教皇に任せてしまえば良いだろう。なにより北の空を見ればアル達の方も戦いが終わっているようだし待たせる訳にはいかない。
ふたりは魔物を処理して早々にその場を立ち去るのだった。




