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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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108.対峙する両軍

 僕らがその場に辿り着いた時、両軍は既に何度かぶつかった後だった。

 衝突前の状態で言えば、南からは剣の王国と槍の王国の連合軍総勢5万人超。対する北の盾の王国は多く見積もっても1万人も居なさそうだ。まぁ盾の王国の実情を考えれば、各地に対魔物用の防衛軍を残しつつ兵隊をかき集めればこれくらいだろう。むしろ南の連合軍は良く5万人も集めたなと思う。恐らく今回の為に各地から男手をかき集めてきたんだろうな。

 そんな数だけで言えば圧倒的な連合軍だけど、決して優勢とは言えない状況だった。それに怒り心頭なのは連合軍総大将の剣の王国の王子だった。


「くそっ。数は圧倒的なのだぞ。

 一気に押し潰せばそれで終わりではないのか!」


 机を殴りながら怒鳴るも軍議に参加している者たちの反応は薄い。それは現状を正確に把握しているからこそであった。


「初日に見せられた敵の突撃。あれによって兵が委縮しております。

 元々大した訓練も施していない民兵も多く居りますれば、あの防御陣を崩すのは厳しいかと」


 通常、騎馬隊が歩兵と衝突すれば騎馬が勝つ。それも騎馬隊に選ばれるものは当然正規兵なので普段から訓練も重ねているし魔力強化も出来るので一方的に蹂躙出来るはずだった。少なくとも連合軍の認識としてはそうだった。

 しかし、実際の開戦初日に起きた現象は真逆だった。横一列。正確には斜に構えた一列の盾隊に突撃した騎馬隊は、まるで波に攫われる砂の城のようにあっさりと崩れ去ったのだった。

 自信満々に送り出した部隊が全滅した姿を見て、更にはその盾部隊が騎馬のごとく走り蹂躙する理不尽な状況を見て、それまで圧倒的に有利だと信じていた士気まで叩き崩された。更には本来その場で足を止めている筈の盾部隊が何を思ったのか突撃してきてこちらの重装歩兵を吹き飛ばしていった。


「なんなのだあの化物共は!」

「くそっ。魔法の王国の奴らが居ればまた違った戦法を取れたものを」

「直前になって連合には参加できないと打診してきましたからな」

「所詮魔法使いなどひ弱な腰抜けだということだな」


 元の構想では剣と槍と魔法3国の連合軍でもって被害を最小限にしながら盾の国を支配する予定だった。なのに開戦1週間前になって急遽参加を断ってきたのだ。代わりに軍事行動中は魔法の国は他国には干渉しないと誓約してきた。

 剣の国としては元々余裕を持った陣容だったので邪魔をしないなら良いだろうくらいに思っていた。


「別動隊からの報告はどうだ」

「ダメです。周辺の山や森には魔物が多く、軍ではまともに突破出来ません」


 馬鹿正直に正面から攻撃するのではなく周囲の森を抜けて側背を突くくらいは誰でも思いつく。が、それも最近の魔物の狂暴化の影響で大人数で行動すれば必ず見つかり戦闘になる。そうなれば勝てはしても騒ぎを聞きつけて敵に見つかり隙を突くどころではなくなる。


「この3日の戦いで死者は5千。重傷者を合わせれば1万人以上が戦線を離脱しています。

 このままでは士気を維持するのも難しいかと思われます」


 正規兵1万を除けば所詮は民兵の集まりだ。有利ならともかく、不利な状況で死にに行けと言われても足は前に進まない。何よりこの戦いは侵略戦争なのだ。勝ったからと言って民兵たちに何かが返ってくることは無いし、勝てなくても何も失うものはない。だから自分たちの命こそが大事だと考えてしまう。

 対して盾の王国はほぼ全員が正規兵だ。そして彼らの後ろには愛する祖国がある。自分たちが負ければ大切な家族が襲われ嬲られ殺されるのだ。何があっても負ける訳にはいかない。

 この戦いは一人一人の練度もさることながらそう言った心構えの面でも大きく違っていた。


「……やはりあれを使うしかありませんな」


 軍議に参加していた黒ローブの男がそう言った。


「あれか。そうだな……いや待て。その前にもう一度だけ敵に呼びかけてみよう。

 それで駄目ならあれを使う」

「分かりました。では私は準備に向かいます」


 そう言ってローブの男は部屋を去っていった。残った将軍たちは王子に問いかける。


「王子よろしいのですか。

 あの薬を使えば確かにあの敵も打倒できるでしょう。

 しかし同時に王子は邪神の手先と後ろ指をさされることになります」

「分かっている。しかし他に手が無いのであればやるしかない。

 全ては祖国の為だ」


 王子もまた剣を取り会議室を後にした。残された将軍たちはその背中に静かに礼をした。

 両軍が対峙する戦場で、連合軍側から1騎の騎馬が進み出てきた。


「連合軍総大将、剣の王国第一王子エクス・バスタードである。

 盾の王国軍の大将と言えば当代の第一王子が務めるのではなかったか。

 この期に及んでもまだ戦場に姿を現さないとはよほど女の尻が好きなのだな!」


 拡声の魔法を使って盾の王国軍全体に届くように告げられたその言葉に、一部の兵士たちが反応するも全体としては動きは無い。当然、軍の中心でその言葉を聞いていたティーラも内心はともかく鼻で笑って終わりだった。

 もっとも、盾の王国軍の大部分の心情としては、第二王子こそが将来の王太子であり、その王子は今、王都で自分たちの為に支援物資を届ける為に方々に指示を出している事を知っている。後方に続々と届く食料や医薬品がその証拠だ。だから第一王子が多少貶されても気にすることでもない。

 それに開戦初日からこれで3回目なのだ。いい加減聞き飽きたという説もある。


「いっそのこと私が出て行ってあのエクスとかいう王子を叩き殺してこればこの戦争は終わるのかしら」

「ティーラ将軍。確かにその可能性は高いですが罠である可能性もあります。

 このままでもこちらには大きな被害はないのですからご自重ください」

「ああ、分かっている」


 初日こそ前に出て舌戦に応じてみたが、大した意味は無いなと思い直し無視することに決めていた。

 どうせあと数分もすれば諦めて引き下がるだろう。そう誰もが思っていた所に答える声が響いた。


「はっはっは。女性の良さが分からないとは、さては剣の王国の王子はホモであったか!」

「誰だ!? 姿を現さずに人を侮辱するとは恥を知れ!」

「別に姿を隠してはいない。上だ上。よっと」


 ゆっくりと滑るように空から降りてきたのは、誰でもないアルファス(ぼく)だ。最初の声が響いた瞬間にティーラは陣を飛び出して僕の近くまで駆けて来ていた。


「呼ばれたから来てあげたんだけど。

 僕が盾の王国第一王子のアルファスだ。

 それとただいまティーラ。元気にしてた?」

「お帰りなさいませ、アル様。はい、お気遣いありがとうございます」

「なっ!?」


 僕の登場に驚く剣の王子エクス。いや自分で呼んでおいてその態度はどうなんだろう。


「貴様まだ子供ではないか!」

「いやいやいや。盾の王国の王子はまだ10代前半だと知らなかったの?」


 確かに年端も行かない子供を戦場に送るのは暗黙的に禁止されている。だからこういった戦場には王子本人ではなく代役を立てるのが基本だ。あ、ちなみに剣の王子はぱっと見20代半ばって年頃だな。それでこんな甘っちょろい演説なんてしてるのか。



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