105.護りの一点だけは負けられない
暴れまわる魔物を空気の盾で閉じ込めながらエンジュにレクチャーを続ける。
「大事なのはあのオーラに負けない事だ。
あのオーラは攻性防壁の一種。要は触れたモノを破壊する魔法みたいなものだから、それから身を護りつつ魔物本体に辿り着ければ後は殴り放題だよね。
基本的にああいった強力な防御手段を持ってる奴は本体の防御力は低いって相場が決まってるんだから」
「それはご主人様もですか?」
「僕はほら、僕自身が盾みたいなものだから」
キャロの進化前ならいざ知らず今の僕を傷付けようとしたらかなりの攻撃力が必要だと思う。
僕のアドバイスを聞いて、手を動かしながらも考え込んでいたエンジュは「あ、そうか」と呟き顔を上げた。どうやら何か閃いたようだ。
「上手くいくかは分かりませんが」
「うん、気にせずどんどん行こう」
「はい。それでは……すぅ。
我は牙。我は盾。共に手を取り合いて災いを弾き飛ばす『シールドショット』!」
それはさっきのピアッシングとそれ程変わらない大きさの矢だった。魔物の方もさっき防ぎ切ったことから余裕そうだ。
そして数秒と経たない内に矢は魔物のオーラにぶつかった。さっきは1秒と掛からずに消されてしまったけど、今度はまるで壁に当たったように止められてしまった。消えなかったのは前進だけどダメージは与えられていない。
「私だって盾の勇者アルファス様の従者なんです。
その矢がこれしきで止められてどうするのです。押し通りなさい!」
ズンッ
まるでエンジュの声に後押しされたかのように矢はオーラの中に飛び込んでいった。
「キィエエエッ」
驚き鳴き声を上げる魔物。矢は魔物の目の前だ。だけどその時にはもう推進力のほとんどが失われており、あれでは急所であっても刺さるどころではないだろう。
「眼前の敵を焼き尽くせ!
『バーストエンド』!!」
エンジュが弓だけを魔物に向けて叫ぶ。それに呼応して放たれていた矢が大爆発を起こした。それによって頭を丸焼きにされた魔物が地面に落ちて行く。
なるほど考えたな。あれなら速度が落ちてしまっても攻撃力は申し分ない。
「さ、ここで油断せずにきっちり止めまで刺すんだよ」
「はい!」
雨のように降り注ぐ矢が魔物の首に次々と突き刺さり、まるで刃物で切ったかのように完全に切断してしまった。流石の魔物でもあれで生きてることはないだろう。
僕たちはゆっくりと魔物の近くに降りながらさっきの矢について聞くことにした。
「さっきの矢はどうして魔物のオーラに触れても消えなかったの?」
「はい。ご主人様のアドバイスを参考に、矢の周囲を防御魔法で固めてみたんです。
その分、速度とか貫通力とかは落ちてしまうのですが、まずはオーラに負けない事を第一に考えました。
太く見えたと思いますけど、矢本体は普通サイズだったんですよ」
槍のように見えたけどあれはほとんど護りの力だった訳だ。攻撃魔法は本来相手を破壊する為のものであり、使用者を護るものはあっても攻撃そのものを護るという発想は無い。だから意外と攻撃というのは横から妨害されると弱いんだ。
それは魔法矢も同じで風壁やさっきみたいな魔力そのもので受け止められると簡単に消し飛ばされてしまう。そこをエンジュは矢そのものを護ることで対応してみせたんだ。あれだけのヒントで良く自分で気付いたな。
あとちょっと気になったのは。
「あの掛け声みたいなのは何?」
「あれですか?何となくああして呼び掛けると強くなる気がするんです。
私自身気合が入りますし」
「そ、そっか」
確かに魔法によっては術者の合図によって多段階に展開するものもあるし間違っては居ないんだけど、エンジュの場合は若干ノリとテンションだった気がする。
まぁ、ちゃんと結果は出してるんだし良いんだけど。
「それにしても近くで見るとすごい大きさだね」
「まるで壁か山のようです」
地上に降りてみれば魔物の死体は見上げなければいけない程の大きさだった。頭だけでも数メートルあるのだから胴体からは何食分のお肉が取れることか。
と眺めていたら白甲冑の騎士達が集まってきた。その中の一人が代表して質問してくる。
「ご助力感謝する。が、君たちは一体何者だ。敵ではないと信じたいが」
「僕らは教皇様からの依頼で魔物の討伐に来たんです」
「なるほどそうだったのですか」
教皇の名前を出せば途端に警戒を解く騎士達。特に証拠を見せた訳ではないので信用するのは早い気がするけど、直近の脅威を排除してあげたのだし、そうしなかったら彼らだけでは間違いなく全滅だったので許してあげよう。
「それにしても特級魔物ハンターの戦いを間近で見られるとは思っていませんでした」
特級?いやそもそも僕らは魔物ハンターでも無いんだけど。
「え、違うのですか?
あの巨大な魔物をまるで檻に閉じ込めた魔法といい、流星雨のような強力な矢の嵐といい、まさに戦場をひっくり返す程の存在だとお見受けしたのですが」
言われて僕とエンジュは顔を見合わせる。
いや確かにね。僕らが居れば万を超える兵士が相手でも勝てるとは思う。
いつの間にか騎士の人は目をキラキラさせてるしちょっと危険かもしれない。こういう時の言い逃れはあれだ。
「僕らはアルフィリアの伝道師なのです。
大陸を巡って世界に仇なす存在を滅ぼし生きる者に癒しを与える。ただそれだけなのです」
「そ、それは女神フィリス様の御使いということですか!?」
「いやそれとは別ですけど!!」
しまった。この国は完全に新アルフィリア教に染まってる国でこの白騎士さん達はその先鋒だった。後ろに居た人たちも気付けば跪いて僕らを拝みだしてるし、これ以上はまずい。
「では僕らは次の困っている人たちの元へ向かいますので。
あ、倒した魔物の素材は頂いて行きますね」
「は、はい!」
僕らは魔物を解体すると早々に撤収するのだった。




