104.空飛ぶ鉄壁の魔物
出がけに教皇から幾つか餞別をもらいつつ僕らは癒しの国の王都を出発した。急な出発に際し、国王には特に何も言ってはいないけど向こうも今の魔物の騒ぎでそれどころではないし後で教皇からの依頼だったと伝えてもらう予定だ。
それはともかく。北と東で魔物がちょっと離れているので順番に倒していくとなると時間が掛かる。
「二手に分かれようか。
北の鳥は空も飛べるみたいだし僕とエンジュで撃ち落としてくるから、東の蛇はサラとキャロでお願い。
蛇の締め方はサラ分かるよね?」
「はい、お任せください」
「もし倒すのが厳しそうだったら上手くこっちに誘導して合流しよう」
言ってもサラなら卒なく捕縛できるだろうし、攻撃力という意味で言えばキャロに不安はない。唯一の心配は地元の人達や結社からの妨害くらいだろう。
「じゃあ気を付けてね」
「アル様も!」
軽く手を振って二手に分かれる。お互い気軽なのは信頼の証だ。
僕はエンジュと共に空を全速力で駆け抜ける。
「ご主人様。そんなに飛ばして魔力切れは大丈夫なのですか?」
「まあこの程度なら自分の魔力を使わずに軽く周囲からかき集めるだけで済むからね。
そういうエンジュは翼で飛ぶのは疲れないの?」
「はい。今日はとても良い風が吹いているのでいつまでだって飛んでられますよ」
周囲に展開している防風の魔法を弱めてみればなるほど、気持ちの良い風が全身を包み込んだ。こんな時でなければのんびり空を漂うのも気持ちよさそうだな。その為には邪魔な魔物には早々にお亡くなりになってもらおう。
「よし、エンジュ。どっちが先に鳥の魔物に辿り着けるか競争しよう」
「はい!いくらご主人様相手でも飛行という1点では負けません!」
力強く両手を胸の前で握り気合を入れるエンジュと共に僕は一気に空を駆け抜けた。
地上と違って空は遮る物がなにもないので気兼ねなく加速が出来る。興が乗ったので雲の上まで駆け上がってみたり急降下したりしながら飛んでいたらずっと向こうに居たはずの鳥の魔物がはっきり見えてきた。近くで見るとやっぱり大きいなぁ……あっ!
どごごぉぉん!
「ギャアアッッ!!」
「「「なっっっ!?!?」」」
しまった。勢い余って鳥の魔物にぶつかってしまった。咄嗟に両足を前に向けてドロップキックしておいたから僕は何ともないけど魔物の方は向こうの丘まで吹き飛んでしまった。
地上ではそれまで魔物の相手をしていた白騎士達が口をあんぐり開けて空を見上げてるし。
「ご主人様。ちゃんと前見て飛ばないと」
「ごめんごめん。あ、でも勝負は僕の勝ちだね」
僕の隣にスッと止まったエンジュを見れば、やっぱり空の制動はエンジュの方が一枚上だなと思う。そして丁度良い高さに来た頭をそのままよしよしと撫でてあげればエンジュもにっこりしながら視線を逸らした?
「ご主人様。そんなんじゃ誤魔化されませんよ。嬉しいですけど」
そう言って指差したのは土煙が収まって代わりに怒り心頭なご様子の鳥の魔物。
「キィエエエエッ」
どうやら完全に僕をロックオンしてるな。全身に赤いオーラを纏って怒ってますよアピールまでしてるし。
「まあやることはどっちみち変わらないし。
エンジュ。やっておしまいなさい」
「はーい。
我が矢は幾千の煌きとなりて敵を穿つ『サウザンドアロー』」
キリっと構えたエンジュの弓から一射で数十発の魔法矢が射出されていく。残念ながらまだ千発は届きそうにないけど。それでも合計数百発におよぶ矢を浴びれば大抵の敵にはかなりのダメージを与えられるだろう。ただ当然例外は居る。
「キィィィエエエエ」
「まだまだ元気いっぱいだね」
「どうやら当たる手前で防がれたみたいです。
あの全身に纏っている赤いオーラが防具の役割を果たしてるのでしょうか」
「だろうね。っと、反撃来るよ」
魔物もただそこに居る訳じゃない。お返しとばかりに赤く燃え盛る羽を矢のようにして撃ち返してきた。それこそ千発くらいありそうだ。
「撃ち落とします!」
「いや、今日は僕が居るからね。エンジュは攻撃に集中してほしい」
再び弓を構えたエンジュを止めて僕は右手を前に差し出す。
「『突風盾』」
僕らを中心に竜巻が発生し、飛んできた羽を受け止めた。これなら例え岩が飛んできても余裕で弾き返せる。だたこれの最大の欠点は向こうの攻撃もこちらに届かないけど逆にこっちも攻撃出来ないんだよね。それと。
「「ぎゃあああっ」」
地上に居た人たちも巻き添えを食って吹き飛ばされている。さっさと撤収すれば良いのに、近くでぼうっと見てるからいけなんだよ。それでもあまり被害を出すと教皇に怒られるから少し移動しようか。
羽の攻撃が収まったところでこちらも竜巻を解除すれば、今度は魔物自らが突撃してきた。うん、まぁさっきのだとあの巨大な魔物までは止められないかな。だけどあれだけがこちらの手でもない。
「『風圧盾』」
今度は魔物の進行ルート上に分厚い強固な空気の壁を作ってあげた。無色透明なそれを、魔物は衝突直前で急旋回して回避して見せた。流石鳥の魔物ってことかな。
それよりさっきからエンジュが考え込んでいるのが気になるな。
「何か問題があった?」
「あ、はい。先ほどお見せしたように私の矢ではあの魔物に通用しないのでどうしようかと考えていました。
数を絞れば1本1本の威力は上がりますけど、それでもあの守りを突破できるかは怪しくて」
なるほど。確かに今までなら敵の急所を狙って攻撃すれば大体倒せたけど、あのどう見ても全方位をカバーしてる守りを突破するのは厳しいか。
「試しにもう一回攻撃してみて」
「はい。
すべてを穿ち貫き通す者よ。眼前の愚者に風穴を空けよ『ピアッシング』!」
今度は矢というより槍のような太さで射出された魔法矢は、しかし先ほどと同様に魔物本体に届く手前で消えてしまった。まるで木で出来た矢が炎の中で燃え尽きたかのようだった。
それを見てがっくりと肩を落とすエンジュ。
「うぅ、やっぱりダメみたいです。
ごめんなさい、ご主人様。お役に立てなくて」
謝ってくるエンジュの頭に僕は手を伸ばし、ピンっとおでこを中指の爪の腹で叩いた。曰くデコピンだ。
「あいたっ」
「エンジュ。一度失敗したくらいで諦めちゃだめだよ。
同じ攻撃でも繰り返せばあの防御が音を上げるかもしれないし」
「うぅ~ですが、その頃には地上は壊滅状態だと思います」
「そんなことはどうでも良いよ。
大事なのはエンジュが諦めない事。どんなに強大な敵でも突破口は必ずあるって」
「ご主人様がそういうなら何度でも試してみます!
あ……ちなみになんですけど、ご主人様ならあの魔物倒せるんですか?」
「ん?そうだなぁ。
さっきの風圧壁を避けたのから察するに向こうから盾にぶつかってきてくれるのは期待できないからこっちから盾で殴りに行くとして、でも近づいたらあのオーラに吹き飛ばされそうだよね」
「はい……」
「キィィエエエッッ」
呑気に話をしてるけど、その間魔物は僕達を攻撃しようとしては風圧壁に阻まれて迂回を余儀なくされている。更に話ながらエンジュも矢を射始めたので目障りな僕らを無視して他に行くって選択肢も魔物の頭からは抜け落ちてるようだ。
まあエンジュの成長の為だ。もうちょっと我慢してもらおう。




