1-8 防具屋
翌日以降も特訓を続けていたが、日銭が尽きたため、一旦ダンジョンに向かう。
同じ道を進み、前と同じ場所でスケルトンに出会う。
前回の落ちていた棒とは違い、武器屋で購入した棒は、より速く、より自由に振り回せるようになっていた。
スケルトン程度では敵にならず、足を折り、その流れで首を落としていく。
前よりも大量の魔石を袋に詰めながら進んでいると、剣を持ったスケルトンが現れた。
(おっ、スケルトンソルジャーか)
(ほう、そんな名前か)
一般的にスケルトンが武器を持つように進化した存在を指す言葉だが、今のアユムの前では通常のスケルトンと変わらない。
足を折り、そのまま首を断つ。
(そろそろ十分な量じゃな。今日は防具を揃えるぞ)
(どんなのがいいんだ?)
(まずは足回りじゃな。スケルトンの足ばかり破壊しているお主なら、重要性は分かるじゃろ?)
(まぁ、そうだな)
足がなければ動けない。
動けなければ急所を守る手段が減る。
何より、自分は探索者として生きて帰らなければ意味がない。
そう考えていると、後ろから声がした。
「おい、お前ゴミ屋じゃないか?」
振り向くと、以前、攻撃を仕掛けてきた金髪の男――ラスと、その取り巻き二人がいた。
「何って、魔物を狩っていただけだが」
「狩っていた? 何を言っているんだ、お前ゴミ屋だろ」
あり得ないものを見るような目で、困惑している。
ゴミ屋とは、魔物を狩れない者たちが就く職業だからだ。
「そんなこと言われても、できているからここにいる」
事実を返しただけだが、金髪の男は次第に怒り始める。
「何、口答えしてんだ? お前、このへんのスケルトン狩れるようになって生意気になったな」
「口答えも何も、事実を言っているだけだが」
そう言い返すと、金髪の周囲に火の玉が浮かび始める。
一触即発の空気――
だが、それを止めたのは取り巻きだった。
「流石にダンジョン内での私闘は御法度ですよ」
「あんな奴、無視して先に行きましょうぜ」
二人に諭され、少し冷静になったのか、
「ちっ、命拾いしたな。もう俺の前に立つんじゃないぞ」
そう言い残し、別の通路へと去っていった。
(アヴァ、今の俺であいつら三人に勝てるか?)
(同時じゃと少し厳しいが……まぁ、いけるじゃろう。お主も分かっておったのではないか?)
(まぁな……)
(相手にする意味もない。予定通り、魔石を交換してから防具屋に向かうぞ)
ダンジョンを出て、前に交換した魔石屋へ向かう。
店には前回と同じ男が座っており、「また来たか」と言いたげな顔で、相場通りに交換してくれた。
店を出て、石畳の凸凹した通りをしばらく歩くと、カラフルな外観が目立つ防具屋に着く。
魔石を換金したばかりの金を握りしめ、扉を開く。
――からん。
「はーい、いらっしゃい。あら? あなたゴミ屋じゃなかった?」
そう言って、女性店員がこちらを見つめる。
「数日前まではな。今はダンジョンの魔物を狩ってる」
「へー、立派になったのねぇ。男子三日会わざれば、ってやつかしら」
「足回りを見たいんだが」
雑談を強引に切り上げる。
「靴はそこ、レッグガードはその辺に置いてあるわー。履いてみたかったら声かけてねぇ〜」
やる気のなさそうな声で、好きにしろと促される。
さて、どれにするか。
(まずは靴じゃな)
そう言って、いくつか手に取りながら考える。
(デザイン性より利便性じゃ。特に刃物への耐性がある構造がいい。鉄板が入っているとなお良い)
候補は三つ。
だが、二つは高すぎる。
実質、一択だ。
(これを買って、残りはレッグガードか?)
(そうじゃな。思ったより安い。グローブも買うか)
レッグガードと防刃グローブを選ぶが、鎧まで手が届く金額は残らなかった。
三点をカウンターに置く。
「あらあら、鎧は買わないの?」
「足回りの方が大事だからな」
その返答に、店主がにやりと笑う。
「ちょっと待ってて」
そう言って店の奥へ引っ込む。
しばらくして戻ってくると、長い黒いマントを取り出した。
「あったあった。これとかどうかしら」
「これは?」
「これ、呪われてるの」
「……!?」
「買い手がつかないのよ。でもそこらのマントより耐久力はあるわ。あなたなら使いこなせそうかなって」
「どう呪われてるんだ?」
「さぁ」
「さぁって……」
「つけてないから分からないわ。外せなかったら解呪代も馬鹿にならないしねぇ」
(アユム)
(どうした?)
(あれは買いじゃ。儂が交渉する。そのまま喋れ)
「……いくらだ?」
店主がこちらを値踏みする。
(残金が少ないのは読まれておるな)
「銀貨一枚でいいわよ」
(足りん。倍じゃ)
「銀貨? 高すぎるんじゃないか?」
「耐久力は保証するわよ?」
「でも丈が合ってない」
裾が長すぎる。
「仕立て直しもできるわよ。切れれば、だけどね」
「じゃあ、こうしよう」
「?」
「俺が着てみて、切れなかったら半額。切れたら倍払う」
「そんなお金あるの?」
「出世払いでどうだ」
「……いいわ。面白いから乗るわ」
マントを羽織る。
「じゃあ、切るわね」
店主が鋏を振るう。
――ひゅっ。
「あら?」
――ひゅっ。
マントが、わずかに身をずらす。
「なるほどね……攻撃を嫌がるのか」
「これじゃ切れないわね。半額でいいわ」
納得しきれないまま、手持ちの金を差し出す。
「ありがと。また生きて帰ったら来なさいよ」
店主はひらひらと手を振る。
俺はそのまま店を出た。
「ふふ、半額にされちゃったわねぇ」
だが店主に損はない。
もともと半ば強引に手に入れた品だ。
丈も合わず、呪われているマントなど、普通は売れない。
半額でも売れれば十分。
(……でも)
切れないことを知っていたような気がする。
「まぁ、いいか」
――からん。
「はーい、いらっしゃいー」
次の客を迎え入れるのだった。




