1-2 希望
「わしの名前も知らんとは。これでも有名人としての自負はあったんだがな」
そう言って、肩を落とす。
「あなたの目的はなんですか?」
「ん? 目的か? 特にはないがな。強いて言うなら、知識欲じゃ」
「知識欲?」
「そうじゃ。ワシはこの世界のありとあらゆることを知りたい。魔力の源は何か。ドラゴンが空を飛べる理由は何か。すべてを知りたいのじゃ。
ただ、それをするには時間がなさすぎた。だからお主がつけている指輪に、わしの魂を乗せたのじゃ」
そう言って、銀色に光る指輪を指さした。
「なるほど。俺のもとに現れたのも偶然か?」
「そうじゃな。条件は課しているが、基本は偶然じゃ」
偶然と言われて、少しだけ嬉しくなる。
生まれてから才能なしと蔑まれてきた俺の人生で、インテリジェンスアイテムを拾うという幸運を、本人から肯定されたからだ。
「それでな、お主に頼みがある」
「頼み?」
「図書館に連れていってほしい」
「図書館?」
「そうじゃ。図書館で文献さえ読めれば、今の時代がどういうものか理解できるはずじゃ」
「図書館に連れて行きたいのは山々だけど、現状は無理だ」
「現状は無理? なぜじゃ?」
「俺は才能なしで、日銭を稼いで生きている。図書館があって一番近い場所は帝都だ。
帝都までは、歩きでも半月、馬車でも数日かかる。単純な話、金が足りないんだ」
「ふむ……では、手っ取り早く金を稼ぐ方法はなんじゃ?」
「ダンジョンの魔物を倒して、魔石を換金するのが一番だけど……」
「ダンジョン? 聞いたことがないが、なぜ言い淀むのじゃ」
「俺に才能がないから、魔物を狩れないんだ」
「才能?」
質問の多さに嫌気がさしてきたが、それでも会話を続ける。
「ああ。俺は魔法が全然使えないんだ。魔法が使えなければ、魔物に決定打を与えられない。だから無理なんだ」
「魔力はあるのに、なぜ魔法が使えないんじゃ?」
「才能が無いからだよ!」
質問の連呼と、自分のコンプレックスを刺激されたことで、思わず怒鳴ってしまう。
「俺には魔法を使う才能が無い。あるとしたら……これぐらいだ」
そう言って、部屋の端に落ちている、小指よりも小さい石を持ち上げる。
周りには、手のひら大の火球を出せる者、土に恵みを与えて作物を育てられる者、自分の剣に電気を付与して戦う者などがいる中で、小石にも満たない大きさのものを持ち上げるだけの力。
無いものの能力と決めつけられ、人生でほとんど使ったことはなかった。
「才能が無いのはわかったが、なぜ鍛えぬのじゃ?」
「鍛える?」
人生で使われたことのない言葉に、怒っていたはずなのに、思わず間の抜けた声が出る。
「魔力は使えば使うほど増える。固有術式も同じように成長していくはずじゃ」
「使えば使うほど……?」
そう言われて、思わず思い返す。
才能なしと認定され、小石にも満たないものを持ち上げるだけの力。
無いものの能力と決めつけられ、人生でほとんど使ったことはなかった。
「待ってくれ……俺でも、強くなれるのか?」
「ん? 当然じゃろ。強くなれないものなんて、この世にはおらんぞ」
この世界は才能がすべて。才能がなければ成り上がりもない。
そう思っていた俺に、かすかな光が差し込んだ。
「それに、お主はついておる」
「?」
「ワシが付き添ってやる。そのダンジョンの魔物も見たことはないが、おそらく大丈夫じゃろう。
お主をサポートして強くしてやる。代わりに図書館へ連れていってくれ」
先のことを考えれば、暗闇しかなかった俺にとって、それは信じられないほどの希望だった。
「ああ、頼む……心から頼む。俺を強くしてくれ」
両目から溢れる涙が止まらない。
「任せておけ。――ところで、お主の名前はなんじゃ?」
老人は右手を差し出す。
「俺の名前はアユムだ」
その右手を、強く握り返した。




