2-13 宿舎
目の前にある二つの宿舎は、瓜二つであった。
古い木造の二階建てではあったが、手入れされているのか、どこか古臭さは感じない。
ただ、八の字に傾いた屋根の色だけは違っていた。
片方は赤色。
もう片方は青色。
「赤が男用の宿舎かな?」
そう言って、アユムは正面にある宿舎の扉に手をかける。
意を決し、扉を勢いよく開けて声をかけた。
「すみませんー、どなたかいらっしゃいませんか?」
扉の向こうは、二十四畳ほどはありそうな広い部屋だった。
部屋の中心には、ダブルベッドほどの大きさのテーブルが置かれている。
その四方を巨大なソファーが囲んでいた。
右奥には二階へ上がる階段があり、階段の脇には奥へ続く通路が伸びている。
通路の両脇には、取っ手のついた扉がいくつも見えた。
声は奥まで届いたはずだが、返事はない。
「すみませんー」
先ほどよりも大きな声で呼びかけるが、反応はない。
「すみません!!」
三度目はさらに大きな声で呼びかける。
すると――
「うっさいわ! 誰や!」
手前の部屋から、アユムより一回り小さい小柄な男が出てくる。
「そんな大声出さんでも分かるわ! お前誰や!」
「すみません。今日から編入することになったアユムと申します」
「編入? そんなん聞いてへんけど」
「えっと、数十分ぐらい前に決まったばっかりで、僕たちもよく分からないんですよね」
「あんたらが分からんかったら、ワイも分からへんやろ。誰か付き添いおらんかったんか?」
「ラルフって人が付いてきてくれる予定だったんですけど、どこかへ行っちゃって」
「またラルフかいな。マリア校長にちくったらな。そういうことなら、まぁええわ。ほれ、荷物持ってついてき」
そう言われ、アユムとグルナは男の後ろにつく。
「ああ、嬢ちゃんは向こうやから、そこで待っててな」
グルナは分かったと言わんばかりに頷き、テーブルの南側にあるソファーに座った。
「ほな、行くか」
男は階段を使わず、奥の通路を進んでいく。
「ところで、お兄さんは一体どなたなんですか?」
「お兄さんって、あんたええやつやな。ワイはここの庭師兼管理人のクラインや。あんたは?」
「僕はアユムといいます。マテリアルから来ました」
「マテリアルっていうと、銃姫のところか。大変やったんやなぁ」
「銃姫?」
「ん? 知り合いやないんか。セリーって女の子なんやけど」
「セリーは友達でしたけど、銃姫って呼ばれているとは知りませんでした」
「友達やったんか。ほれ、着いたぞ」
奥の通路を突き当たりまで進み、クラインは向かって右側の扉を開ける。
そして、中へ入るよう促した。
「ここの部屋を自由に使ってええぞ。大丈夫、一人部屋や。じゃあワイは、嬢ちゃんの方の部屋を案内してくるわ」
そう言って、クラインは来た道を引き返していく。
アユムは荷物をすべて下ろし、ベッドに横たわって一息ついた。
「はぁ……色々あったな」
帝都まで来る間は、馬車の中で揺られているだけの、ゆったりとした時間だった。
それが帝都に着いてから一時間も経たないうちに、次々と色々なことが起きた。
(アユムよ、忘れておらんか? 儂を図書館に連れて行ってくれることを)
(忘れてないさ。ただ、ちょっと休憩させてくれ)
(ほほほ。忘れておらんならいいんじゃ。楽しみじゃのう)
後ろについてきていた老人の霊は、興奮しているのか部屋の中を飛び回る。
目に映っていると疲れるため、アユムは目を閉じて過去のことを考えた。
「セリーって、銃姫って呼ばれているんだな。元気そうで何よりだ」
そう言って、最後に交わした会話を思い出そうとする。
だが、うまく思い出せない。
そう考えているうちに、アユムは眠りについてしまった。




