2-11 アルカディア
部屋に残った三人は、お互いに見つめ合いながら三者三様の反応を示していた。
ラルフと呼ばれた男は、大きなため息をつく。
グルナは何が何やら分からない様子。
そしてアユムは、プレクシアが去った扉を真剣な目で見つめていた。
(なぁ、どう思う?)
(どうと言われると困るんじゃが、まぁ確かにあの男の魔力量は尋常ではない。アユムが一生訓練しても到達できない量じゃろう。その男が権限を持っているというのも分からんではない。ただ、なんだか気に食わんのう。何でも自分のものにできるような、そんな感じが)
(俺もだ。ただ、学校にまた通えることはいいことなんだ)
(ところで、学校にまた、とはどういうことじゃ?)
(……ダンジョンがある帝都を除いた三都市には、学校って呼ばれる子供の教育機関があるんだ。そこでは十五歳まで勉強した後に、能力を測定して……今後の人生を決められる)
(なるほどのう)
アユムはDランクと判定されたため、強制退学になり、その後はゴミ屋として生きていかなければならなかった。
その頃の記憶を思い出したのか、言い淀みながら説明する。
「全くあの人は、いつもいつも」
イライラしているのか、ラルフは持っているペンが折れるほど強く握る。
――ばき。
訂正。
折ってしまった。
「君たちも大変だろうけど、諦めてくれ」
ラルフは身体をこちらに向けて伝える。
「わ、私は大丈夫! アルカディアとかにも通ったことないから楽しみかも!」
「ところで、アルカディアっていうと……」
「ん? アルカディアなんて、一つしかないだろ?」
当然のような顔で言い放ち、
「引き継ぎをしてくるから、少しここで待っていてくれ」
そのまま、奥の扉を開けて出ていく。
「アユム、大丈夫だった?」
「気にしないでくれ。ただ、気をつけてほしい」
「気をつける? 何を?」
「通うことになるアルカディアは、各都市の最優秀生徒だけが行ける場所だ。俺たちみたいなのが行けば、冷ややかな目で見られかねない」
ぽかん、という擬音が似合う顔で、グルナは話を聞いている。
「まぁ、実際はどうか分からないけどな」
才能なしの烙印を押された経験から、学校に対する嫌な考えが抜けきらず、ネガティブな感情を伝えてしまう。
そんな話をしていると、扉が開き、ラルフと呼ばれた男が室内に戻ってくる。
「じゃあ行くか。こっちに来てくれ」
そう言って、二人を呼び寄せる。
大きな机を飛び越えて男のそばに着地すると、男は右手を前にかざした。
「扉!」
そう叫ぶと、二メートルほどの大きさの歪みが現れる。
目の前によく分からないものが現れ、困惑している二人に対して、ラルフは急かすように言う。
「早く入ってくれ。長く続けるのは疲れるんだ」
(これは転移魔術じゃな。それも、かなり高度じゃ)
(転移魔術?)
(さよう。おそらく、別々の空間を繋げて、すぐに移動できるようにしておるんじゃ)
(すごい術だな)
アヴァとの会話で意を決めたアユムは、グルナへ手を伸ばす。
「グルナ、行くよ」
本当に入っていいのか困惑している少女の手を取り、一緒に飛び込む。
飛び込んだ先には、人が五人は座れそうな横長のソファーが置かれていた。
その斜向かいには豪華な机があり、団子を食べている老齢の女性が座っている。
こちらを見た女性は、団子を食べようとしていた口を大きく開けたまま固まっていた。
その数秒後、ラルフもゲートから出てくる。
「マリアさーん。この二人、プレさん推薦の編入生ですって」
その一言で状況を理解したのか、女性は口を閉じ、大きなため息をつく。
「色々大変でしょうけど……アルカディアへようこそ」
そう告げるのであった。




