2-10 序列1位
「あれが帝都だ」
運転手はそう言った。
「じゃあ、ここまででお別れだ。俺は業者用の入り口から入るから、お前たちは一般の方から入りな」
そう言って、正面の方を指差す。
「ああ、ありがとう」
「ほんとにありがと! 馬車、そんなに揺れなくて助かりました!」
「はは、じゃあまた縁があったら頼むな」
そう言って、運転手は先ほど自分が指差した方向とは別の方へ馬車を進めていった。
「じゃあ、俺たちも入都するか」
「うん! ところで入都って何するの?」
「うーん……何するんだろうな。俺も帝都に入るのは初めてだしな。まぁでも、荷物確認とかじゃないか?」
「そうなんだ」
雑談をしていると、自分たちの番が来た。
「よし、次の者。入れ」
そう言われ、壁についている扉を開けて中へ入る。
中には少し広めの空間があり、その半分ほどを占める机と椅子が置かれていた。
「そこに座りなさい」
男は机の前の椅子を顎で示す。
「失礼します」
言われた通りに着席し、元々座っていた大柄な男と向かい合う。
「まず、どこから来た?」
「南のラグシュナーから来ました」
「何をしに来たんだ?」
「図書館に興味がありまして」
慣れない役所の問答のような受け答えになってしまった。
「そちらの女の子も同じか?」
「いえ、彼女は途中の村にいたんですが、意気投合して一緒に帝都へ行こうという話になりまして」
「というと、出身はバサル村か?」
「そ、そうです!」
黙っていたグルナも、自分のことを聞かれて慌てて口を開いた。
「ふむ。まぁ、分かった。入都料は分かるか?」
「あ、いえ。その辺は疎くて」
「なら説明すると、一人あたり銀貨五枚だ。今回でいうと二人だから、十枚といったところだな」
そう言われ、銀貨を用意していると、机の向こうにある奥の扉が開いた。
「おーい、ラルフはいるか?」
そう言って、アユムより三回りほど大きい男が入ってくる。
それと同時に、巨大な圧が全身にのしかかった。
吐き気が込み上げる。
「っ……なんだ、こいつ」
内包している魔力量が桁違いすぎる。
ただ同じ空間にいるだけで、体調が悪くなる。
その様子に気づいたのか、大男はにやりと笑った。
「ほう。俺の魔力が分かるのか。なかなかお前やるな」
そう言うと、圧が消えた。
一気に呼吸が楽になる。
「悪いな。あんまり俺の魔力に気づく奴がいなくて、抑え方が適当になっちまうんだよな」
ラルフと呼ばれた男は、呆れたように顔をしかめる。
「なんですか、プレさん。今、入都審査の仕事中なんですけど」
「そんな仕事するなよ。お前は俺の足なんだから、動きたい時に動けるようにしとけ」
「ひどっ! 私に人権はないんですか!」
「ははは。人権なんて、この世に元々存在しないさ」
「なんてことを!」
魔力の圧はなくなった。
それでも警戒を解かないアユムを見て、男はどこかつまらなそうな顔をする。
だが、その視線がグルナへ移った瞬間、男の目が見開かれた。
「君、名前は?」
そうグルナに問いかける。
「私の名前はグルナですけど……」
警戒しているアユムがそばにいるからか、その感情が伝わったように、グルナの返答も少し引き気味だった。
「君の能力はなんだい?」
「おい、そんなこと言う必要あるのか?」
アユムが横から口を挟む。
「君は黙っていてくれないか? 私は彼女と会話をしている」
男は笑っている。
だが、声には逆らいがたい圧があった。
「それに、私にはこの国で何をしても許される権限を与えられている」
「一体、何を言って――」
言い切る前に、机の向こうにいたラルフが慌てて割って入る。
「おい! このお方は序列一位のプレクシア様だぞ!」
そう言われて、事の重大性を理解し、警戒を解くと同時に謝罪に入る。
「た、大変申し訳ございません」
そう言って、机に額をつける。
(アユム、どういうことじゃ?)
他の人からは見えない老人が、アユムに問いかける。
(この人は序列一位。つまり、人間界で最強の人で、帝都の守護神だ。この人がいるから他国から襲われることもなく、平和に過ごせている)
そう教科書通りの説明をする。
(ふむ)
アヴァは半分納得がいかないが、まぁいいじゃろうといった顔つきになる。
その態度を見たのか、プレクシアは表情を軟化させて、グルナに向き合う。
「それで、君の能力は?」
「わ、私の能力は、相手の魔術を食べちゃいます!」
「おもしろい!」
そう言って、プレクシアは興奮した様子で机を乗り越えてくる。
「君、うちの学園に来なさい。ちなみにこれは命令だから」
決定事項だと言わんばかりに、プレクシアはグルナの肩に手を置く。
「学校通ったことないけど、大丈夫かな」
そう言って、グルナはアユムに助けを求める視線を送る。
「ああ、心配ならそこの子と一緒に入るか? 何、学園生なら衣食住は私の権限で何とかなる」
一瞬で悩みをすべて解消されたグルナ。
しかも食事をつけてくれるというならと、目を輝かせている。
「私、たくさん食べるけど大丈夫ですか?」
「ああ、好きなだけ食べたまえ」
「やったー! アユムはどうかな?」
直接勧誘されたのはグルナであって、アユムは付属品扱いだった。
それでも、また学校に通えるという嬉しさが胸の中でせめぎ合っている。
ただ、グルナの後ろから「断る権利があるのか?」とでも言いたげな目で睨みつけてくる人がいるため、答えは一つである。
「はい、ありがたいです」
拙い語彙から、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「うむ。じゃあ後のことは、このラルフを頼れ」
そう言って、プレクシアは乗り越えた机を再度乗り越える。
「ええ、面倒ごとは私任せですか?」
「俺を歩かせた罰だ」
「とほほ……」
そう言って肩をすくめるラルフ。
満足したのか、元の用事を言い出すこともなく、奥の扉を開けて大男は消えていった。
まるで嵐のような時間であった。




