2-2 出会い
用意を済ませ、帝都行きの馬車へ乗り込む。
(そういえば、思ったより世界は変わっておらんのう。今の時代でも馬車か)
そう言う幽霊。
(そういえば、アヴァって本当にどれくらい前の人なんだ?)
(さぁ、わからんのう。ただ、ブリオン王朝は聞いたことないんじゃろ?)
(ああ、聞いたことすらないな。俺が浅学なだけかもしれないが)
(割と長く続いた王朝だったからのう。歴史書があれば、残っていてもおかしくないくらいにはな)
(まぁ、全部図書館でのお楽しみってことか)
(ああ、そうじゃな)
雑談をしていると、馬車がゆっくりと動き出す。
他の乗客はおらず、馬車の運転手と二人きりの旅だった。
(おいおい、儂もいるぞ)
俺の心を読んだのか、寂しかったのか、幽霊の老人が会話へ割り込んでくる。
(ああ、そうだったな)
傍から見れば、何もない場所でにやけている変な奴だ。
だが、本人は楽しそうだった。
馬車での旅が始まって二日目。
いつもより激しい揺れのあと、何かが壊れる音がして、馬車が止まった。
運転手は一度外へ出て様子を確認すると、荷台にいる俺のもとへやってくる。
「あー、すまん。車輪がいった。直すまで少し時間がかかる」
「少しって、どれくらいだ?」
「ざっと三、四時間程度だな。他の車輪も見ないといけないし」
「わかった。ちょっとその辺を歩いててもいいか?」
「すまんな。直りそうになったら閃光弾を上げるから、それを目安に戻ってきてくれ」
「ああ、わかった」
そう言って周囲を見渡す。
奥に見える森を指差しながら、アヴァへ話しかけた。
(アヴァ、あれが降魔の森だよ)
(降魔の森?)
(ああ。魔獣が生息していて、縄張り争いをしてるんだ)
(魔獣というと、ダンジョンと同じか?)
(ああ。ただダンジョンと違って、ダンジョンが生み出したものじゃないから、光の粒になって消えない。だから肉とかが手に入る)
(ほほう。なら肉を取りに行くか)
(ああ。猪でも狩りに行くか)
そう言って、森の奥へ向かって歩き出す。
森には光がほとんど届かず、薄暗い。
日中だというのに、ひんやりとした寒さがあった。
帰れる距離を意識しながら歩いていると、一匹のどっしりとした猪を見つける。
(お、いたな)
まだ猪はこちらに気づいておらず、背を向けて歩いていた。
息を殺し、腰に下げた剣を抜く。
そして、それを空中へ浮かべる。
少しずつ距離を詰め、射程に入った瞬間――
浮かせた剣を高速で打ち出した。
猪も殺気に気づいたのか、こちらを振り向く。
だが、それが悪手だった。
振り返った瞬間、そのまま剣に貫かれる。
ほどなくして四本脚で立っていられなくなり、横倒しになった。
(アユムもやるようになったのう)
(ああ、これくらいはな)
そう言いながら、死んだ猪から剣を引き抜く。
首を落とし、サブウェポンの棒へ後ろ脚をくくりつけ、逆さ吊りにする。
(まぁ、奥まで行ってもしょうがない。こいつ一匹だけにするか)
(ああ、そうじゃな)
十分ほどで血抜きが終わったため、腹を割き、肉を火へかける。
(もう少ししっかり火を通すか)
そう思いながら準備をしていると――
「美味しそう」
自分とアヴァ以外の、綺麗な声が背後から聞こえた。
即座にその場を飛び退き、臨戦態勢を取る。
「誰だ」
声の先には、小柄で、髪を伸ばしっぱなしにした少女がいた。
「んー? 私はグルナだよー」
「どうしてここにいる?」
(おい、アヴァ。どうして気づかなかった)
(すまん。彼女、魔力がないみたいなんじゃ)
(魔力がない? そんな人間がいるのか?)
「んーとね」
内心で話している間にも、少女は答え続ける。
「あっちにあった村にいたんだけど、追い出されちゃったんだよね」
「それでお腹空いたから、お肉ありそうな森の中を歩いてたら、いい匂いがして来たの」
そう言って、焼いている肉を指差す。
「ねー、お兄さん。分けてくれない? お腹ぺこぺこなの」
そう言う少女に対して、思考を巡らせる。
魔力がないのに、降魔の森に一人で?
話を信じるなら、死ぬだけだぞ?
魔力がないということは、この世界では魔獣すら狩れない最弱の存在である証明だった。
そんな人間が森に入っているとなれば、ただの自殺としか思えない。
そう考えていると――
ぐぅぅぅ。
少女の腹が鳴る。
少女は頬を赤く染め、恥ずかしそうに下を向いた。
なんだか気の抜ける空気になり、構えていた剣を下ろす。
「じゃあ、一緒に食べるか? まだ焼いてる途中だけどな」
少女は目を輝かせながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「ありがとう!!」
久しぶりに、アヴァ以外との食事だな――と、アユムは思い返すのであった。




