2-1 旅立ち
変調からジェネラルを倒して半年。
雪の季節も、すでに過ぎ去っていた。
一人の少年が、単独でダンジョン二十層へ到達していた。
「はぁっ!」
二本の剣が空を舞い、目の前のドラゴンゾンビ――ゾンビ種の上位個体を切り刻む。
「ギャアアアア――!」
ドラゴンゾンビが叫び声をあげる。
そこには、圧倒的な力の差があった。
ほどなくしてドラゴンゾンビは崩れ落ち、光の粒となって消えていく。
「ふう……」
(もうこの辺の敵では、相手にならんのう)
幽霊の老人――アヴァが話しかける。
(そうだな。冬も越えたし、日銭にもだいぶ余裕ができた。そろそろアヴァの依頼通り、図書館を目指すか)
(ほほほ、この時代の外の世界は楽しみじゃのう)
そう内心で話し合いながら、ダンジョンの外へ出る。
街路には、春の訪れを告げる花々が咲いていた。
「おっ、アユムじゃないか。今日は何層まで行ったんだ?」
ダンジョンの門番――もう顔なじみになった男が声をかけてくる。
「今日は二十層でドラゴンゾンビまで狩ってきた」
「すげぇな。お前、そんなところまで行けるようになったのか。一体どんな裏技使ったんだ?」
「裏技も何も、頑張っただけだよ。死ぬ気でな」
実際にはアヴァの指導を受けている。
だが、やっていることは鍛錬を続けているだけに過ぎない。
そう。
普通であれば、誰でもできるはずのことを。
「かー、そんなことできたら苦労しないって。お前も才能があったってことなんだなぁ」
才能があった――そう言われると、なんとも言えない顔になる。
もともとは才能なしと烙印を押され、ゴミを運んで日銭を稼ぐゴミ屋にまで落ちた身だ。
だが今では、才能ありと決めつけられ、過程を無視して“すごい奴”になっている。
アヴァに鍛えてもらったという自負。
そして、その評価とのズレ。
言葉にはできなかった。
雑談を交わしながら、拠点にしている宿へ戻る。
今まで泊まっていたぼろ宿とは違い、外壁は木ではなく鉄で補強され、階段が軋むこともない。
部屋には風呂までついている。
探索者向けの、上等な宿だ。
ダンジョンに近いため、十層前後を安定して狩れる探索者たちに重宝されている。
「ふう……」
部屋の扉を開け、荷物をベッドへ下ろす。
(さて、今後の計画を立てるか)
(そうじゃのう)
アユムはベッドへ腰掛ける。
(当初の予定通り、冬の間は鍛錬を積んだ。これなら道中も、ある程度は安全に進めるだろう)
(旅の準備をして、明日あたり馬車を拾って帝都へ向かうか)
(そうじゃな。どれくらいかかるんじゃ?)
(何もなければ、半月くらいで着くと思う)
(楽しみじゃのう)
(ああ、そうだな)
その後も何が必要かを話し合いながら、アユムたちは眠りにつくのであった。




