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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅷ エイジの女難

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311/313

3節 慰み ①

本日5/7はテミスの誕生日です。(レイエルピナの章だけど)おめでとう!

「……終わったね」


 機械と、ホムンクルスと、研究員達の残骸が散らばる広間で。二人は余韻に浸るかのように、立ち竦んでいた。


「…………ええ。わたしの復讐に巻き込んで、ごめんなさい」


「そんなこと気にする必要__」


「それから、ありがとう」


 透き通るかのような、儚い笑顔だった。


「……どういたしまして」


 だが、どうにも釈然としない感じがした。手放しで喜べない、そんな予感が。


「エイジ、コイツらの研究結果、調べたら?」


「……いいのか?」


「ええ。あなたなら、悪用しないでしょ」


 彼女の気持ちも考えて遠慮していたが、許可を貰ったならじっくりやらせてもらう。


 エイジは毟り取った研究員長の残骸を手に、その場を離れる。彼が向かった方向を、レイエルピナは穏やかな表情で見つめると__


「むしろ、人を助けてくれるんでしょ」


 そう呟き、俯く。そして、バズーカを取り落とした。




 エイジは広間の奥へ進み、門を開いてメインコンソールを弄り出す。幻魔器、腕、眼球と、クズ野郎のバイオメトリクスは採取済み。全てのデータにアクセス可能となった。先ずはセキュリティ設定を書き換えてから、データの走査を行う。それから、禁忌中の禁忌とされる情報を調べてみる。


「矢張り、神話関連のものばかりだな。……ん? んんん?」


 検索検索、また検索。そして進めていくうちに、ある結論に辿り着いた。


「これは……コイツらが一からやったわけじゃないようだな。……ロストテクノロジーの復元? きな臭くなってきやがった」


 神話が存在して、その神々は実在する。となると、色々ありそうだが。


「待たせるわけには、いかねえよな」


 この情報の精査は後回しだ。兎に角紙に残っている資料は掻き集める。データ上だけのものは、急いでコピーを取る。


 何故こうも急ぐか。それは、この施設を完全破壊するつもりだからだ。そうすれば、もう二度とアクセスする手段は無くなる。こんな倫理のカケラもない、命と神秘を冒涜するような研究所残しておきたくなんかないのだ。


「大半は、他の研究施設からも手に入ったデータ。で、ここのデータベースのうち、八割方は紙資料。超重要機密はスタンドアローン……この金庫だ!」


 中には紙資料と、小型情報端末。それを専用の機械に差し込み、データを閲覧。印刷できるものはしてしまう。


「便利過ぎるな……自動ドアやら、全自動製造工場、データ端末に液晶パネル……この設計データはまるっと転用してやろうっと」


 取り敢えず、大量の紙資料と、実物を手当たり次第亜空間にぶち込んで、調査完了だ。


 これだけで、実に数十分もかかってしまった。それだけ有用なデータが膨大にあったというわけでもあるのだが。カンニングみたいで気が引けるけれども、彼には時間が残されていない(と思い込んでいる)ので、どんな手段でも使うのだ。




 そして、漸くデータ収集を終えて、広間へと戻ってくる。


「待たせた。……レイエルピナ?」


 さっきと様子が違う。ぺたんと座り込み、目を伏せていた。


「この施設は、このまま取っておくの? きっと、役に立つでしょ」


「流石に、そこまでは遠慮するさ。こんな施設、残してたまるか」


 非道く嫌悪感を露わにした様子で、吐き捨てる。そして、彼女に手を差し伸べた。


「さあ、帰ろう」


 だが、その返事は__


「わたしを……殺して」


「……はぁ⁉︎」


 エイジの口から素っ頓狂な返事が出る。


「なんでだ! 巫山戯たこと言うのも大概にしろ⁉︎」


「でも、わたしは……存在しちゃいけないモノなのよ……この施設と同じで。あの、わたしそっくりの彼女達を見て、そう思ったの」


「何を馬鹿なことを言ってる! 君は、あの子等とは違う。君の人生は、これからだろうが!」


「でも、わたし、もう、どうすればいいかわからないの……だから、どうか__」


「断る‼︎」


 強い語気で、その頼みを拒絶する。そして膝をつくと、その肩をがっしりと掴む。


「今の君には、ベリアルという父がいる! レイヴンやノクトという仲間が、テミスやシルヴァといった友がいる。そして……このオレがいる! もう、独りじゃないんだ」


 さめざめと泣く彼女の顔をまっすぐ見つめて、語りかける。


「みんな、君を必要としている。生きていいと思っている、いて欲しいと願っている。たとえ、君が歪な存在だとしても……世界が君を許さず、排斥しようとも! 世界全てが敵に回ろううが__オレは、君を肯定する! オレ達が、君を絶対に護る!」


 レイエルピナの濡れた瞳と目が合うと、彼女は嗚咽を漏らし始める。


「確かに、君は復讐という自らに課した使命を果たした。ならば、その後はどうするか。簡単だ……好きに生きるんだよ!」


 語りかけるも、反応は無い。しかし、その心には響いていると信じて、話しかけ続ける。


「同胞に誓った筈だ。彼女らの分まで、生きると……幸せになると‼︎」


 静かに、小さく。しかし、確かに首を縦に振る。


「この施設は、破壊する、そしたら、一緒に帰ろう」


「……わかったわ。けど、その後でいいから、やりたいことがあるの」


 未だ止まらぬ涙に潤わせながらも、その目は何かを訴える。エイジには、それだけで十分通じた。


「ああ、弔おう」




 自爆コードと二人の砲撃で、殆ど原型を留めず崩壊し切った研究施設は、未だ黒煙を濛々と上げる。


 その近くの、傾きかけた日に照らされる小高い丘の上に、二人はいた。


「お墓、これでいいかな……。遺品も遺骨もないけど」


 石碑を立て、野に咲く花を供えただけの、小さく質素なお墓だ。その前に、レイエルピナは屈んでいた。


「遺品、か……これはどうかな」


 エイジが差し出したのは、ヘルメットと銃。


「跡地で残った物の証拠隠滅をしようとしてたんだが……これが、たまたま転がっていてな」


「ええ、それでいいわ」


 銃を石碑の横に突き立てると、そこにヘルメットを引っ掛ける。


「どうか、安らかに。わたしの姉妹たち。そして、さようなら……」


 そのお墓に祈りを捧げると、レイエルピナは立ち上がり、背を向けた。


「帰りましょう」


「……ああ」


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