3節 慰み ①
本日5/7はテミスの誕生日です。(レイエルピナの章だけど)おめでとう!
「……終わったね」
機械と、ホムンクルスと、研究員達の残骸が散らばる広間で。二人は余韻に浸るかのように、立ち竦んでいた。
「…………ええ。わたしの復讐に巻き込んで、ごめんなさい」
「そんなこと気にする必要__」
「それから、ありがとう」
透き通るかのような、儚い笑顔だった。
「……どういたしまして」
だが、どうにも釈然としない感じがした。手放しで喜べない、そんな予感が。
「エイジ、コイツらの研究結果、調べたら?」
「……いいのか?」
「ええ。あなたなら、悪用しないでしょ」
彼女の気持ちも考えて遠慮していたが、許可を貰ったならじっくりやらせてもらう。
エイジは毟り取った研究員長の残骸を手に、その場を離れる。彼が向かった方向を、レイエルピナは穏やかな表情で見つめると__
「むしろ、人を助けてくれるんでしょ」
そう呟き、俯く。そして、バズーカを取り落とした。
エイジは広間の奥へ進み、門を開いてメインコンソールを弄り出す。幻魔器、腕、眼球と、クズ野郎のバイオメトリクスは採取済み。全てのデータにアクセス可能となった。先ずはセキュリティ設定を書き換えてから、データの走査を行う。それから、禁忌中の禁忌とされる情報を調べてみる。
「矢張り、神話関連のものばかりだな。……ん? んんん?」
検索検索、また検索。そして進めていくうちに、ある結論に辿り着いた。
「これは……コイツらが一からやったわけじゃないようだな。……ロストテクノロジーの復元? きな臭くなってきやがった」
神話が存在して、その神々は実在する。となると、色々ありそうだが。
「待たせるわけには、いかねえよな」
この情報の精査は後回しだ。兎に角紙に残っている資料は掻き集める。データ上だけのものは、急いでコピーを取る。
何故こうも急ぐか。それは、この施設を完全破壊するつもりだからだ。そうすれば、もう二度とアクセスする手段は無くなる。こんな倫理のカケラもない、命と神秘を冒涜するような研究所残しておきたくなんかないのだ。
「大半は、他の研究施設からも手に入ったデータ。で、ここのデータベースのうち、八割方は紙資料。超重要機密はスタンドアローン……この金庫だ!」
中には紙資料と、小型情報端末。それを専用の機械に差し込み、データを閲覧。印刷できるものはしてしまう。
「便利過ぎるな……自動ドアやら、全自動製造工場、データ端末に液晶パネル……この設計データはまるっと転用してやろうっと」
取り敢えず、大量の紙資料と、実物を手当たり次第亜空間にぶち込んで、調査完了だ。
これだけで、実に数十分もかかってしまった。それだけ有用なデータが膨大にあったというわけでもあるのだが。カンニングみたいで気が引けるけれども、彼には時間が残されていない(と思い込んでいる)ので、どんな手段でも使うのだ。
そして、漸くデータ収集を終えて、広間へと戻ってくる。
「待たせた。……レイエルピナ?」
さっきと様子が違う。ぺたんと座り込み、目を伏せていた。
「この施設は、このまま取っておくの? きっと、役に立つでしょ」
「流石に、そこまでは遠慮するさ。こんな施設、残してたまるか」
非道く嫌悪感を露わにした様子で、吐き捨てる。そして、彼女に手を差し伸べた。
「さあ、帰ろう」
だが、その返事は__
「わたしを……殺して」
「……はぁ⁉︎」
エイジの口から素っ頓狂な返事が出る。
「なんでだ! 巫山戯たこと言うのも大概にしろ⁉︎」
「でも、わたしは……存在しちゃいけないモノなのよ……この施設と同じで。あの、わたしそっくりの彼女達を見て、そう思ったの」
「何を馬鹿なことを言ってる! 君は、あの子等とは違う。君の人生は、これからだろうが!」
「でも、わたし、もう、どうすればいいかわからないの……だから、どうか__」
「断る‼︎」
強い語気で、その頼みを拒絶する。そして膝をつくと、その肩をがっしりと掴む。
「今の君には、ベリアルという父がいる! レイヴンやノクトという仲間が、テミスやシルヴァといった友がいる。そして……このオレがいる! もう、独りじゃないんだ」
さめざめと泣く彼女の顔をまっすぐ見つめて、語りかける。
「みんな、君を必要としている。生きていいと思っている、いて欲しいと願っている。たとえ、君が歪な存在だとしても……世界が君を許さず、排斥しようとも! 世界全てが敵に回ろううが__オレは、君を肯定する! オレ達が、君を絶対に護る!」
レイエルピナの濡れた瞳と目が合うと、彼女は嗚咽を漏らし始める。
「確かに、君は復讐という自らに課した使命を果たした。ならば、その後はどうするか。簡単だ……好きに生きるんだよ!」
語りかけるも、反応は無い。しかし、その心には響いていると信じて、話しかけ続ける。
「同胞に誓った筈だ。彼女らの分まで、生きると……幸せになると‼︎」
静かに、小さく。しかし、確かに首を縦に振る。
「この施設は、破壊する、そしたら、一緒に帰ろう」
「……わかったわ。けど、その後でいいから、やりたいことがあるの」
未だ止まらぬ涙に潤わせながらも、その目は何かを訴える。エイジには、それだけで十分通じた。
「ああ、弔おう」
自爆コードと二人の砲撃で、殆ど原型を留めず崩壊し切った研究施設は、未だ黒煙を濛々と上げる。
その近くの、傾きかけた日に照らされる小高い丘の上に、二人はいた。
「お墓、これでいいかな……。遺品も遺骨もないけど」
石碑を立て、野に咲く花を供えただけの、小さく質素なお墓だ。その前に、レイエルピナは屈んでいた。
「遺品、か……これはどうかな」
エイジが差し出したのは、ヘルメットと銃。
「跡地で残った物の証拠隠滅をしようとしてたんだが……これが、たまたま転がっていてな」
「ええ、それでいいわ」
銃を石碑の横に突き立てると、そこにヘルメットを引っ掛ける。
「どうか、安らかに。わたしの姉妹たち。そして、さようなら……」
そのお墓に祈りを捧げると、レイエルピナは立ち上がり、背を向けた。
「帰りましょう」
「……ああ」




