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火煙流  作者: ケイジ
第一章 少年期
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第三話 『ライバル』

 「立てよ。もう一度、剣を構えろ」


 欧州は真顔で言うと、先に剣を構えた。

 火眼は俯きながら立ち上がると、地面に刺さった剣を抜き、構えだけはとった。

 しかし右手は震え、額には汗がにじんでいる。


 「分かってるよな」


 そう言うと、欧州は火眼との間合いをつめ、剣を振り上げる。

 火眼はその剣をなんとか受け止めるが、力がうまく入らない。

 欧州は火眼の剣を軽く弾き、もう一度剣を振り上げた。

 火眼は重心をずらされ――


 「火眼!」

 「――ッ!」


 欧州は本気で切ろうとしていた。まっすぐ振り下ろされた剣が火眼の目に迫る。

 火眼は間一髪、火奈の声とともに剣を交わした。

 しかし、ギリギリだったのであろう。右腕をかすめ、少し血が流れ出る。

 火眼は後ろに飛び、欧州と距離を置いた。


 「これで伝わったか? 俺の本気が」

 「僕は――」

 「強くなって火奈に恩を返したいと思わないのか!? 助けてもらったんだろう」

 「もう止めて!」


 火奈は一歩前に出て、目に涙を浮かべながら欧州に向かって叫んだ。


 「何か隠していることがあるのか? 火眼」

 「え……」


 再び、俯く火眼。

 自分でも分からない。

 ただ、またしても火と拳が脳裏をよぎり、


 「だって、僕の拳は人を終わらせちゃうから」

 「やっぱり、トラウマになっていたんだな」


 火眼の口からはあの時と同じ言葉がこぼれ、それを聞いた煙は目を閉じ、誰にも聞こえない声でつぶやいた。


 「怖いのか、自分の力が」

 「怖い?」

 「そうだろ、俺を終わらせてしまうと思ってる。さっきの言葉が何よりの証拠だ」

 「それは――」

 「そんなに俺は弱くない! それに今は拳じゃない、剣だろ」


 欧州は火眼の過去を全く知らない。それでも感じていた。以前の自分と同じだと。

 火奈に救われる前の、あの頃と。

 

 「教えてやるよ。その苦しみとお前の気持ちを」

 「苦しみ?」

 「あー……苦しみの正体は『罪悪感』だ。目の前で大切な人を失ったか、もしくは自分の手で終わらせたか。どっちにしてもそれがトラウマとなって、お前は人を直接攻撃できなくなってる」


 『罪悪感』、その文字が頭の中を駆け巡る。

 なぜだろうか。その言葉がしっくりきていた。


 「拳で解決しないと、意味ないよな」


 そう言うと、欧州は剣を置いた。

 手を左右に広げ、火眼の目を真っすぐ見つめた。


 「お前の拳、俺に受けさせてくれ。俺は絶対に終わったりしないから」

 「どうしてそこまで……。もし万が一終わったら――」

 「言っただろ。お前の気持ち、教えてやるって」

 「気持ち?」

 「戦いたい。強くなりたい。そして、火奈を守れるようになりたい」

 「……私?」


 火奈は急に自分の名前を出されて、驚いていた。

 欧州は火奈をチラッと見た後、火眼に向き直ると、軽く口角を上げながら溜め息をついた。

 期待と不安が混ざる複雑な気持ち。


 「色んな意味でライバルになるからな、火眼は。さぁ、覚悟を決めろ」

 「……どうなっても、知らないから」


 火眼は自分の手に目を落とした。

 覚悟を決めたように拳を作ると、欧州に向かって歩き出す。

 全員が唾を飲む中、火眼は拳を放つ態勢を取る。

 初めてのはずが、それは慣れたように、違和感がなかった。


 (この感覚、知ってる?)

 「いくぞ、欧州!」


 勢いよく拳が欧州へと伸びる。

 拳は欧州の左頬をとらえ、余りの威力に吹っ飛び、芝にたたきつけられる。

 血を吐き、横たわったまま動かなくなった。


 「おう、しゅう……欧州、欧州!」

 「……だから言ったんだよ。お前は強いって、俺は弱くないって」

 

 欧州は笑いながら、立ち上がる。


 「火眼の拳は人を終わらせ『ない』。お前は戦っていいんだよ」

 「欧州……」

 「だから、俺と強くなろうぜ。そして大切な人を一緒に守るんだ」

 「……ありがとう」


 火眼は泣きながら、欧州の伸ばされた拳と拳を重ねる。

 その時、煙は静かに空を見上げた。雲一つない快晴だった。



 火眼が人を攻撃できるようになってから1年間、剣の修業は続いた。

 三人が四歳となった頃、別々の修業をするようになっっていた。


 「火眼には『気の力』について教えようか」

 「気の力?」

 「気の力は気力とも言われ、『三大力』の一つなんだ。三大力は『体力・技力・気力』の三つで、この世界における基本的なものだ」

 「そう、なんだ」

 「体力は攻撃力をいい、技力は技の質・精度・種類をいい、気力は精神力・特殊能力をいう。この特殊能力は未だ未知の部分が大きく、使いこなせるものは滅多にいない。だから上手く説明できないんだ」

 「じゃあ、どうすればいいの?」

 「頭では考えず、言われたことを実践してくれ」

 「わかったよ。感じろ、的なことだね」


 煙が頷くと、火眼は煙の指示に従い、裏庭の芝に座禅を組むように座り込んだ。

 目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。


 「この状態を毎日一時間続けるように」

 (そんなに……)


 心の中でツッコミを入れつつ、一時間経つのを待った。

 煙は火眼だけをを見つめていた。ほとんど瞬きぜずに。

 十分間後、一つ息を吐くと、


 「期待してるから」


 そう言い残し、静かにその場を後にした。

 その足取りは非常に軽かった。

 

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