第二話 『再び』
髪は普通の長さで、目は鋭く髪と同じ灰色をしている。
火眼と火奈は煙の家の前で、昨日火奈が話した通り一人の少年と会うこととなった。
「紹介するね、州君です。で、こっちが火眼だよ」
「欧州だ。よろしく」
「あ、こちらこそ、よろしく」
火眼と欧州の間に立ち、それぞれにてのひらを向け、名前を紹介する火奈。
火眼は少し気まずそうに、欧州から差し伸べられた手と握手をした。
「怖くないよ。目はあれだけどね」
「あれってなんだよ。少し気にしてるんだからな」
定番のやり取りなのだろう。欧州の口調は少し強かったが、怒っている感じではなかった。
「まぁ、後でゆっくり話そうぜ。まずは煙と話をしないと」
「あー、それなら三人一緒らしいよ。何の話かは分からないけどね」
「お、欧州も来たか。それじゃあ早速、剣の話をしようか」
「剣?」
いきなり現れた煙の言葉に驚きつつ、三人同時に聞き直す。
それと同時に火眼は、煙の妙な笑顔に何だか嫌な予感がしていた。
火眼たちは煙の家の玄関から、芝でできた裏庭の方に移動した。
色々な花が咲いた花壇に囲まれ、花壇のすぐ奥には森が広がっている。
「へぇー、結構綺麗にしてるんだ」
「手入れしてるのは夏奈だけどね……」
欧州に対し、申し訳なさそうに答える煙。
煙は花を愛でるようなタイプではない。ただ妻にばかりやらせるのは気が引けるのであろう。
水だけはやってるよと小声でつぶやいていた。
(だから昨日、濡れていたのか)
「コホン……さて、三人とも五歳になったわけだし、そろそろかなと思っていたんだ」
「えーと、さっきの『剣』の話ですか?」
「そうだよ、火眼。お前も戦うことを覚えないとな」
「でも、僕は――」
「つまり、俺の師匠になってくれるってことだよな」
「やったー! 私もだよね? 父はなかなか教えてくれないから」
嫌な予感は当たったが、火眼以外は同じ笑顔を浮かべており、嫌だと言える状況ではなかった。
「去年からお願いがやっと実を結ぶぜ」
「州君、結構な頻度で来てたもんね」
「まずは、素振りからだ。俺の真似をしてくれ」
煙は火眼たちに剣を手渡すと、少し離れて自分の剣を構える。
それから力強く頭の上から芝に向かって振り下ろした。それを繰り返す度、フォッと風を切る音が響いた。
こうなれば一人前らしいが――
――フォッ。
火奈と欧州の目には火眼の姿が、火眼の目には口をポカンと開け、目を大きく見開いた火奈と欧州の姿が映っていた。
一発で一人前に達した。そんな火眼を煙は表情一つ変えずに見守っていた。
(むしろ遅かったかもな)
その後二人は何度も剣を振ったが、火眼のような音を出すことはできなかった。
火奈の指にマメができた時点で、今日の修業は終わりとなった。
「なんか納得できないよ。いじめられてた火眼を助けたのは私だよ! 逆なら分かるけどさっ」
「そう、カッカするな。これが普通だから」
「だよな。てかいじめって、またアイツらか。懲りないな」
「今回は州君の出番はなかったけどね」
「いや、いつもないから。アイツら火奈のこと怖がってるし」
「なんか言った?」
何でもないですっと、ため息をつく欧州同様、
火奈を諫めていた煙も肩をすくめた。昨日のようなやり取りは前から行われていたらしい。
そして、火奈は怒ると怖いらしい。いや、怖い(確信)。
火眼たちは、一ヵ月間色々な剣の振り方の練習をした。その次の一ヵ月間は煙とそれぞれが一対一で剣を交え、素振りの完成度を確かめた。
初日は心配された火奈だが、二人ともに順調に上達していった。
しかし三ヵ月目の火眼と欧州の模擬戦で、事件は起きた。
「お前、おかしいよ」
(あれ、その言葉どこかで――)
弾かれた剣は芝にささり、それと同時にふらついた火眼が尻餅をつく。
「何で……ッ!」
疑問の声とともに顔を上げる火眼を、欧州はその鋭い目で睨み付けていた。
状況を把握できない火眼だが、自分の異変には気付いていた。
(まただ、右手の震えが止まらない)
「俺は手を拭かれるのが大っ嫌いなんだよ! お前わざとやられただろ」
「そんなんじゃ――」
「先週まであんなに強かったじゃないか! 煙に善戦してたし、俺に簡単にやられる感じじゃなかった」
火眼は恐怖?で、欧州は怒りで震えていた。
そんな二人を火奈は、固唾を呑んで見守っていた。
止められないとかではなく、なぜか体が動ごかなかったからだ。
「欧州、火奈、ごめん。でも火眼のためなんだ」
そして、煙もまた何もせず見守っていた。
ただ、火眼の右手だけを見つめながら――




