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火煙流  作者: ケイジ
第一章 少年期
2/6

第一話 『会話』

 火眼は三歳で、火煙の弟、つまり叔父の(えん)に引き取られ、二年間叔父夫婦に育てられた。 

 その間、一切外には出ずに、煙の家に引きこもっていたらしい。

 火眼には三歳までの記憶がほとんどなく、最近までの記憶すらうろ覚えなのである。

 心にポッカリ穴が開いたような状態だった。


 「久しぶりに外へ出てみたらどうだい?」


 そんな状態の火眼を案じて、煙は外へ出ることを提案した。

 外へ出る気はなかったが、煙の必死の説得により出ることにした。二年ぶり?に。


 「じゃあ、行ってくるよ」

 「ああ、気を付けて」

 



 (――どうしてこうなってしまったのか?)


 火眼は久しぶりに外へ出ただけなのに、知らないヤツに絡まれてしまった。


 「お前、どこの誰だよ?」

 (あ、久しぶりだから絡まれたのか)

 「ここは俺の縄張りだ。勝手入ることは許さない」


 三人いる内の一人は怒った顔をしていて、残りの二人は冷やかすように笑っていた。


 「ごめん、知らなかったんだ。僕、この二年間引きこもっていたから」

 「はっ、何言ってんだよコイツ」

 「さあ?」


 三人は顔を見合わせ、理解不能という表情をしていた。


 「いや、だから――」

 「うるせぇ」

 「――っ!」


 突然殴られ、火眼は地面に倒れ込む。でも痛がる様子はなかった。


 「お前、おかしいよ」


 顔を上げると、三人とも眉間にしわを寄せ、変なものを見るような目をしていた。


 (いきなり殴った挙句、その表情はどうかと思うけど……)


 火眼は小さく肩をすくめたが、自分の異変に気が付いた。


 (あれ、右手の震えが止まらない。なんかハァーハァー言ってるし、鼓動も早い)


 殴られた後、自分でも思っても見ない状態になっていたのだ。


 「だって、僕の拳は人を終わらせちゃうから」

 「コイツヤバイぞ。急に震えだすし、言ってることも意味分からない」


 自分でもヤバイと思っていた。なぜなら、言うつもりもない言葉が勝手に出てきたのだから。


 (うっ、今度は気持ちが悪く……)


 そして、ふっと脳裏に火と拳がよぎった。その時――


 「やめなさい」

 

 誰かの声が聞こえた。


 「火奈(かーな)


 一人が声の主の名前を呼んだ。


 「また弱い者いじめをしていたの?」

 「コイツが勝手に俺の縄張りに入るから。それに訳が分からないヤツだし」

 「これ以上続けるなら、私が相手になるけど」


 火眼を殴ったヤツに宣戦布告する少女。


 「それは……」

 「やめた方がいいよ。火奈と戦うのはヤバイから」

 「くっ……わかったよ、もう止めるよ」


 三人は逃げるようにして、この場を去っていく。

 

 「大丈夫? 立てる?」


 三人が見えなくなったのを確認し、少女は振り返りながら火眼に手を差し伸べた。

 火眼はその手を取り、立ち上がる。不思議と右手の震えは治まっていた。

 少女は誰が何と言おうと、美少女だった。何より赤い眼が特徴的で率直に綺麗だと思った。


 「顔に何か付いてる?」

 「え、いや、その……眼が綺麗だなって思って」

 「ホント? 初めて言われたかも。かっこいいとかはあったけど」


 少女はなんだか嬉しそうだった。


 「ねぇ、君の名前聞いてもいい? 私のはさっき言われてたからわかるよね」

 「……僕の名前は火眼。君は火奈さんだよね?」

 「火奈でいいよ。私も火眼って呼び捨てにしていい? 多分、同じ年ぐらいだと思うし」

 「うん」


 自己紹介が終わり、火眼は初めて同世代とまともな会話を果たした。


 「家はどの辺? 心配だから送るよ」


 家の方向を指差すと、私の家もだよと笑う火奈。

 そんな火奈を見て、外に出るのも悪くないと火眼は思った。




 「煙さんに子供?」


 火奈が驚きの声を上げる。

 家まで送ってもらうと、家が隣同士だったということが発覚。

 火眼も驚いたが、同時に仕方ないとも思っていた。


 (まぁ、引きこもってたし、隣でも分からないよね……)


 さっきの場所から数分歩くと、少し開けた広場に出る。そこには二軒だけ並ぶように家が建っている。

 火眼は青い屋根の家(叔父の家)に住んでいて、火奈は赤い屋根の家に住んでいた。


 「いや、子供ではないんだけど……」

 「えっ、じゃあどうして煙さんの家にいるの?」

 「それは……僕のお父さんと煙さんが知り合いで、一時的に預けられているんだ」


 火眼は咄嗟に嘘を付いた。そうしないといけない気がしたのだ。


 「そういうことか、あーびっくりした。子供はいないって聞いてたから」

 「驚かせてごめん」

 「謝る必要はないよ。でも、一度も合わなかったのは何でだろう?」


 火奈は不思議そうに首を傾げた。


 「二年前、ここに来てからずっと引きこもっていたからね」

 「あ……そういうことね」


 火眼は気まずそうに答えた。それに対し、火奈は苦笑いを浮かべていた。

 二年も引きこもりとは思わなかったからだろう。


 「じゃあ、改めてこれからよろしくだね」

 「うん、よろし――」

 「あれ、火眼と火奈じゃないか」


 握手する寸前、二人して声の方に振り向くと、細身の男性が手を挙げていた。

 髪と目の色は茶色で、優しそうな顔立ちをしている。


 「煙さん! ……どうしたの?服が濡れてるけど」

 「さっき、裏庭でな」

 「あ、そんなことより、煙さんの家に火眼がいたことをどうして教えてくれなかったの? 私、今日初めて話したんだよ」

 「うーん……それは色々あってな」

 「まぁ、訳アリなら仕方ないけど」


 煙が濁すのは余程のことなのだろう。

 火奈はすんなり受け入れた。




 火奈は火眼の初めての友達となった。

 火奈は色々なことを火眼に教えた。自分のこと、家族のこと、この世界について知っていること。

 

 「明日にはもう一人増やせるよ」

 「明日? 増やせる?」

 「うん。明日は州君が私の所に来るから、紹介するね」


 州という友達の少年が、火奈に会いに来るらしい。正確には煙に用があるらしいが。

 火眼には不安があった。前みたいなことになったらどうしよう。おかしくなったらどうしよう、と。


 「大丈夫だよ。州君は強くて優しい、いい人だから」

 

 火眼の不安を感じ取ったのだろうか。カーナは笑顔で、火眼の肩に手を置いた。

 さっきとは違う意味で、鼓動が早まっていた。


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