小さな団体の光景4
「………。」
「どう?狭いながらもリフォームしたてだし、設備もしっかりしてると思うけど。」
「………。」
「あとは1階を道場に改装すれば、インディーズ団体としては十分な施設になると思うぜ?」
「………。」
「これで家賃がこれだからな。かなりお得だと思うぞ?俺は。」
「………はぁ。」
「ん?どした?」
「…いえ、別に。ただ単に、あなたの用意周到さと狡猾さに感心しているだけです。」
「そりゃどーも。」
「それが団体を生き長らえさせるコツですか?」
「ははっ!嫌味だねぇ。でも、間違っちゃいない。」
「………。」
「何でもかんでも自分の主義主張貫くだけじゃ、社長業は勤まらない。時に引く、時にへりくだる。でも、裏ではしっかり糸を引いて、最後には自分の希望通りに持っていく。どこまでそれに近づけられるか。それが、社長って職業の腕の見せ所だと、俺は思ってんだ。だから、狡猾さも立派な武器。法に触れない程度にな?」
「…ますます自分には向かなさそうなのですが。」
「だな。お前、やりたいことしかやらない主義だもんな。けど、いい機会じゃないか?」
「何がですか?」
「いつまでもそんなワガママな生き方できないだろ。自分を持ってるのは凄く大事なことだが、他人は他人の考えで行動してる。それを考慮したり受け入れたりできるのが、大人ってもんだ。社長ともなれば、なおさらな。」
「…オンとオフを使い分けろ、ということですか?」
「ん~、お前の言うオンとオフがどういうもんかわからないから何とも言えないが…、まぁ、似たようなもんかもな。」
「そうですか…。」
「求道者にも、緩急は必要だぜ?」
「……………。」
「まぁ、すぐにどうこうとは言わないさ。立場が人を創るってことはよくある。実際やっていく中で、わかっていくこともあるさ。」
「………、本当は、」
「ん?」
「………いえ、まだ、わかりません。ごめんなさい。」
「へぇ…。珍しいな。お前が言い淀むなんて。」
「そうですね…。あれから数日経って、自分でも、自分の気持ちがわかりかねていると言いますか、何と言いますか…。」
「いいんじゃない?そういうの。それって、お前ん中の何かが変わろうとしてる、ってことだろうし。」
「………。」
「そういや。」
「はい。」
「事務所と道場はいいとして、選手のあてって、あるか?」
「選手?」
「プロレス団体だからな。当然、選手がいなきゃ始まらない。興行するからには、そうだな…。まず8人くらいは選手が欲しいところだな。」
「8人ですか…。………当然、手配してくれるんですよね?この世界に無理矢理引き込んだのは、あなたなんですから。」
「……………。」
「……………。」
「………あ~、」
「……………。」
「………2人くらいで、手を打ってくんない?」
「……………。」
「いや、確かに。確かにな?確かに、いささか強引な手段で、お前をこの世界に引き込んだのは、俺だ。だから、最大限サポートはさせてもらう。もらうよ?けどな?」
「……………。」
「けど、自分とこに所属することになる選手まで、全部他人任せっていうのは、いささかよくない気がするぞ。いや、いささかだけどな?」
「……………。」
「だいたいあの日、俺はお前に、無挙動で蹴られまくって、三日三晩まともに動けなかったんだぞ?それこそ訴えたら勝てるレベルだったからな?やばかったんたからな?いささかだけどな?」
「……………ぷっ、」
「だからお前もいささか………、?」
「どれだけ、いささか、って言うつもりですか?流行ってるんですか?」
「…いや、別に。え、俺、そんなにいささかいささか言ってた?」
「言ってました。いささか心配になるくらい。」
「それはお前が」
「ご心配なく。」
「へ?」
「さっきのは冗談です。どうせやるのであれば、やはり選手は、自分の目で選びたいですから。」
「…急にやる気?あてはあんの?」
「一人は伊吹として、残り7人。まぁ、ある程度は。」
「へぇ………。」
「20代の頃は、かなり好き勝手に生きてましたから。その時の縁が、いろいろと。」
「…そういや、20代前半の頃のお前のことって、ほとんど知らないな。何やってたんだ?その頃。」
「道場の改装費用負担してくれるなら話しますよ。」
「謎は謎めいたままの方が魅力的、ってこともあるよな、うん。」
「けち。」
つづく
注:この作品はフィクションです。
まだまだプロレスは始まりません(^_^;




