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婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件【連載版】  作者: あゆと
第一部

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21/23

第11話【表】「掲示板のみんなへお礼がしたいと言ったら、世界中が匿名配送の研究を始めた件」


1 スレ主


皆さんって


甘いもの好きですか?




2 名無しの一般人


急になんだ




3 名無しの淑女


好きですわ




4 名無しの魔王


嫌いではない




5 名無しの掃除屋


良い質問ですねえ




――



 放課後。



 私は自室で、

 お茶を飲みながら掲示板を見ていた。



 温泉旅行から帰ってきて、

 数日。



 なんだか最近、

 毎日が楽しい。



 学園も。



 家族との時間も。



 掲示板のみんなとの雑談も。



 全部。



 前より、

 ずっと好きになっていた。



――




6 スレ主


いつも話聞いてもらってるので


お礼したいなーって思いまして




7 名無しの一般人


おおー




8 名無しの淑女


まあ




9 名無しの魔王


気にするな




10 名無しの掃除屋


お気持ちだけで十分ですよ




――



 私は少し悩む。



 でも。



 ちゃんと、

 ありがとうを伝えたかった。



――




11 スレ主


でも


何か渡したいです




――



 掲示板が、

 一瞬止まった。



――




12 名無しの一般人


クッキーは強い




13 名無しの淑女


まあ……




14 名無しの魔王


………………




15 名無しの掃除屋


これは困りましたねえ




――



 私は首を傾げた。



 なんだろう。



 みんな、

 急に静かになった。



――




16 スレ主


手作りクッキーとかどうでしょう?




17 名無しの一般人


破壊力高いな




18 名無しの淑女


嬉しいですわねえ




19 名無しの魔王


欲しい




20 名無しの掃除屋


大変魅力的ですが……




――



 私は少し笑った。



 やっぱり、

 甘いものは人気らしい。



――




21 スレ主


でも


匿名掲示板だから


渡せないんですよねえ




22 名無しの一般人


そりゃそう




23 名無しの淑女


そうでしたわね




24 名無しの魔王


むう




25 名無しの掃除屋


難しい問題です




――



 私はクッションへ寄りかかる。



 少し残念。



 せっかくなら。



 いつも優しい人たちへ、

 ちゃんとお礼したかったのに。



――



 コンコン。



「リーナ」



 お母様だった。



「お茶のおかわり、

 いります?」



「あ、お願いします」



 お母様は、

 温かい紅茶を置いてくれる。



 ふわりと、

 良い香りが広がった。



「ありがとうございます」



「ふふ」



 お母様は微笑む。



「楽しそうね」



「はい。


 掲示板のみんな、

 すごく優しいんです」



 お母様は一瞬だけ止まり。



 それから。



 優しく笑った。



「そう。


 良かったわね」



――夜――



 厨房。



 私はエプロン姿で、

 クッキーを焼いていた。



 妹が隣で見ている。



「……丸い」



「クッキーだからね」



「……可愛い」



 妹は真剣だった。



 私は少し笑う。



「掲示板のみんな、

 食べてくれたら嬉しかったんだけどなあ」



 妹の動きが止まる。



「……」



「でも、

 匿名だから無理だもんね」



 妹は、

 じっとクッキーを見る。



 かなり真剣に。



――




41 スレ主


クッキー焼けました




42 名無しの一般人


うまそう




43 名無しの淑女


素敵ですわ




44 名無しの魔王


食べたい




45 名無しの掃除屋


これは羨ましいですねえ




――



 私は焼き上がったクッキーを見て、

 満足する。



 我ながら、

 結構上手にできた気がする。



――




46 スレ主


届けられないのが残念です




――



 掲示板が、

 また止まった。



――




47 名無しの一般人


夜中に飯テロやめろw




48 名無しの淑女


そうですわねえ




49 名無しの魔王


転移魔法はどうだ




50 名無しの一般人


匿名掲示板に何言ってんだw




51 名無しの掃除屋


住所が分かりませんからねえ




――



 私は吹き出した。



 住所。



 たしかに。



 それが分からないと無理だ。



――



「リーナ」



 お父様が厨房へ入ってくる。



「まだ起きていたのか」



「クッキー焼いてました」



「ほう」



 お父様は少し驚いた顔をした。



「誰かに渡すのか?」



「掲示板のみんなへ、

 お礼したかったんです」



 お父様の動きが止まる。



「……そうか」



「でも匿名なので、

 無理でした」



 少しだけしょんぼり言うと。



 お父様は、

 数秒黙ったあと。



 静かに口を開いた。



「その者たちは、

 幸せ者だな」



「え?」



「お前に、

 そこまで想ってもらえている」



 私は少し照れた。



「だって、

 皆さん本当に優しいんです」



 お父様は、

 静かにクッキーを見る。



 それから。



「……そうだな」



 小さく笑った。



――



 その夜。



 世界各地で。



 匿名状態を維持したまま、

 物品を転送する方法について。



 大真面目な研究会議が、

 開かれていたことを。



 私はまだ知らない。


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