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婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件【連載版】  作者: あゆと
第一部

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20/23

第10話【裏】「雨で予定が全部なくなったのに、なぜか今日が一番楽しかった件」


 朝。



 温泉旅館。



 窓の外は、

 大雨だった。



 兄が空を見る。



「……駄目だな」



 父も頷く。



「街道も荒れる」



 妹は、

 すでに予定表を書き換えていた。



 温泉街散策。



 景勝地。



 食べ歩き。



 全部中止。



 数秒後。



 少女は静かに顔を上げた。



「……どうしよう」



 初めてだった。



 “外へ連れて行く”以外の正解が、

 分からなかった。



――



 兄は真剣な顔で窓を見ていた。



「足元が悪いな」



 かなり本気だった。



――



 父は、

 こっそり仕事へ戻ろうとしていた。



 だが。



「駄目です」



 母が書類を取り上げる。



「……少し確認するだけだ」



「家族旅行中です」



「分かっている」



「分かっていたら、

 仕事しません」



 父は黙った。



 かなり弱い。



――



 妹は、

 旅館の娯楽一覧を見ていた。



 卓球。



 将棋。



 カード。



 読書室。



 全部表示されている。



 だが。



 少女は難しい顔をしていた。



「……退屈する」



 姉が。



 それが問題だった。



――



 その時。



 廊下から、

 笑い声が聞こえた。



 リーナだった。



「お祖母様、

 それ反則ですって」



「反則じゃないわよお」



 妹が止まる。



 兄も止まる。



 父も顔を上げる。



――



 広間。



 リーナは、

 祖父と将棋をしていた。



 かなり楽しそうだった。



 祖母は笑い。



 母はお茶を淹れている。



 しかも。



 特別なことは、

 何もしていない。



 ただ。



 みんな同じ場所にいた。



――



「……楽しそうだな」



 兄が小さく呟く。



 父も静かに頷いた。



 妹だけが、

 じっと姉を見ている。



――



 カードゲーム。



 兄が負ける。



「なぜだ」



「顔に出てますよ?」



 リーナが笑う。



 兄は固まった。



 かなり悔しそうだった。



 でも。



 少し嬉しそうでもあった。



――



 昼。



 広間。



 雨音。



 湯気。



 静かな空気。



 誰も、

 無理に何かしようとしていない。



 父も、

 仕事を閉じたまま。



 兄も、

 見回りへ行かない。



 妹も、

 術式を展開していない。



 ただ、

 そこにいた。



――



 祖父が酒を飲みながら呟く。



「ようやく分かったか」



 兄が眉を寄せる。



「何がだ」



「リーナは、

 豪華なもんが好きなんじゃない」



 父も静かに聞いていた。



「家族と一緒におる時間が、

 好きなんだ」



 静かな声だった。



 誰も反論しない。



 できなかった。



――



 妹が小さく呟く。



「……喜ばせようとして、

 色々やりすぎてた」



 母が優しく笑う。



「みんな、

 リーナを大事にしたかったのよ」



「……ん」



 妹は少し俯いた。



 でも。



 その隣で。



 リーナが、

 楽しそうに笑っていた。



――夜――



 部屋。



 雨音が静かに響く。



 リーナが、

 座布団へ寄りかかりながら呟いた。



「今日、

 一番楽しかったかもしれません」



 兄の動きが止まる。



 父も、

 静かに顔を上げた。



「散歩もできなかったのに?」



 母が尋ねる。



 リーナは頷く。



「でも。


 みんな、

 ずっと一緒にいてくれたので」



 沈黙。



 かなり長い沈黙だった。



 祖父だけが、

 小さく笑う。



「ほれ見ろ」



 兄は何も言えない。



 父も黙る。



 妹だけが、

 そっとリーナへ寄った。



 その夜。



 家族全員が、

 少しだけ理解した。



 “守る”と、

 “一緒にいる”は、

 似ているようで違うのだと。


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