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婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件【連載版】  作者: 白崎ことは


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第1話【裏】「婚約破棄されたので掲示板に愚痴ったら家族が全員いた件」


 深夜二時。



 侯爵家の各部屋で。



 ほぼ同時に、

 端末が光った。



――



 父の書斎。



 机には、

 未処理の書類が積まれている。



 その時。



 机の端に置かれていた端末が、

 淡く光った。



 父は視線だけ動かす。



 画面には、

 短い通知が表示されていた。



――


匿名掲示板


スレ主:

「今日、婚約破棄されました」


――



 父の手が止まった。



 通知設定は一件だけ。



 リーナが新しくスレを立てた時。



 三年前に設定した。



 本人には言っていない。



 当然だ。



 娘の安全確認は、

 保護者として当然の義務である。



――




2 名無しの大黒柱


どうぞ




――



 即座に打ち込む。



 数秒後。



 別の返信が増えた。



――




3 名無しの剣士


聞く




――



 父は小さく目を細めた。



「……起きたか」



――



 兄の部屋。



 暗い部屋で、

 端末が光る。



 兄は顔をしかめながら目を開けた。



「……リーナ?」



 半分寝ぼけたまま、

 掲示板を開く。



 すでに父の返信がある。



「早っ……」



 負けじと打ち込む。



――




3 名無しの剣士


聞く




――



 さらに返信が増える。



――




4 名無しの魔導師


大丈夫?




――



「妹まで起きてんのかよ……」



 兄は呆れたように呟いた。



――



 妹の部屋。



 薄暗い。



 机の上には、

 魔導端末が並んでいる。



 光った瞬間。



 少女は目を開けた。



 普段は感情が薄い。



 必要最低限しか話さない。



 だが。



 姉関連だけは別だった。



 リーナ専用の通知音。



 それだけは、

 即座に反応する。



――




4 名無しの魔導師


大丈夫?




――



 短く打ち込む。



 余計な言葉はいらない。



 まず確認。



 精神状態。



 睡眠状態。



 最優先事項である。



――



 母の部屋。



 寝る前だった。



 ソファで紅茶を飲みながら、

 掲示板を見る。



「……あら」



 婚約破棄。



 浮気。



 愛がない。



 その単語だけで、

 だいたい察した。



 最近、

 社交界で妙な噂があった。



 繋がった。



――




6 名無しの淑女


まあ




――



 母は小さく息を吐く。



「そういうこと」



 誰に言うでもなく呟いた。



――



 祖父の部屋。



 老人は起きていた。



 年寄りは眠りが浅い。



 光った端末を見て、

 数秒黙る。



 それから。



 別の端末を取った。



「動け」



 短く送る。



 返事は来ない。



 必要ないからだ。



――



 その夜。



 王都の裏通りで、

 数人の男が姿を消した。



 翌朝には。



 ある貴族家の帳簿が、

 監査局へ匿名で届けられる。



 さらに。



 隠されていた口座。



 愛人への送金履歴。



 裏取引の記録まで、

 なぜか発覚した。



――



 祖父は新聞を閉じる。



「遅い」



 小さく呟いた。



――



 祖母の部屋。



 静かな部屋で、

 編み物をしていた。



 端末が光る。



 内容を見て。



「まあまあ」



 優しく笑う。



 でも。



 目は笑っていなかった。



「うちの子を泣かせるなんて」



 小さく呟く。



 隣にいた使用人が、

 少し震えた。



――



 掲示板は進む。



 リーナは、

 いつものように遠慮していた。



 別に大丈夫。



 面倒だった。



 どうでもよかった。



 そう書く。



 でも。



 家族は知っている。



 リーナは、

 本当にどうでもいい時ほど、

 わざわざ掲示板へ来ない。



――




17 名無しの大黒柱


嘘だな




――



 父は即答した。



 そして。



――




19 名無しの淑女


傷つきましたね?




――



 母が続ける。



 数秒後。



 返事が来た。



――




20 スレ主


ちょっとだけ




――



 その瞬間。



 侯爵家の空気が変わった。



――



 兄は起き上がった。



「泣かせやがった」



 低く呟く。



 壁に立てかけてあった剣が、

 かすかに鳴った。



――



 妹は、

 無言で端末を操作する。



 婚約者。



 最近の交友。



 資金の流れ。



 出入りした店。



 すでに大半は調査済みだった。



 姉に近づく男は、

 常時監視対象である。



 当然だ。



――



 父は鐘を鳴らした。



 使用人が現れる。



「例の件だ」



「承知いたしました」



 説明は不要だった。



――



 母は、

 社交界用の端末を開く。



 数件だけ、

 連絡を送った。



 明日の昼には、

 噂が広がるだろう。



 自然に。



 本当に自然に。



――



 祖父は、

 すでに興味を失っていた。



 処理は始まった。



 後は終わるだけだ。



――



 祖母だけが、

 小さくため息を吐いた。



「ほんと、不器用ねえ」



 誰に向けた言葉なのか、

 誰も聞かなかった。



――翌朝――




51 名無しの魔導師


確認完了




52 名無しの大黒柱


情報は揃った




53 名無しの剣士


動く




54 名無しの淑女


ふふ




――



 父は書類を眺める。



 横領。



 架空取引。



 裏口入学。



 愛人への横流し。



「……随分出るな」



 そこへ。



 兄が入ってきた。



「父上」



「始めるか」



「ああ」



 会話終了。



 十分だった。



――



 妹は掲示板を見ていた。



 リーナが、

 少し怯えている。



 怖い。



 なんか怖い。



 たぶん、

 そう思っている。



 妹は無言で端末を閉じた。



――昼――



 そして。



 予想通り、

 馬鹿が来た。



――




81 名無しの魔法使い


俺は彼の友人だが


婚約は合意の上で解消したと聞いているぞ




――



 兄が吹き出した。



「本人だろこれ」



――



 父は冷静だった。



 むしろ、

 喋らせやすくなったと思っている。



――




82 名無しの大黒柱


ほう


具体的には?




――



 馬鹿は、

 気持ちよく喋り始めた。



 感情的。



 合理的判断。



 才女。



 比較。



 舞踏会。



 全部、

 勝手に。



 誰も聞いていないことまで。



――



 妹が淡々と記録する。



 母が社交界へ流す。



 兄が笑う。



「助かるなあ」



 本当に助かっていた。



 自白だからだ。



――




87 名無しの魔導師


記録完了




88 名無しの剣士


後は任せろ




89 名無しの大黒柱


承知した




――



 その夜。



 ある上級貴族家へ、

 監査が入った。



 翌朝には、

 複数の関係者が拘束された。



 さらに翌日には。



 婚約破棄騒動の噂が、

 社交界へ自然に広がった。



 本当に自然に。



 恐ろしいほど自然に。



――



 朝。



 食堂。



 リーナが来る。



 全員、

 少しだけ視線を逸らした。



 やりすぎた自覚は、

 一応ある。



 少しだけ。



――



 リーナが新聞を開く。



 沈黙。



 怖い。



 なんか察してる。



 兄が目を逸らした。



 妹も逸らした。



 父は窓を見た。



 母は紅茶を飲んだ。



――



「早くないですか?」



 リーナが聞く。



 兄が小さく呟く。



「遅いくらいだ」



 妹が頷く。



 父が咳払いする。



 母が笑う。



 祖父は普通に食べていた。



――



 その日の夜。



 閉鎖されたスレッドを開く。



 最後の書き込みを見て。



 祖母は、

 小さく笑った。



――




147 名無しの淑女


お疲れ様でした




――



「まあまあ」



 祖母は小さく呟く。



 それから。



 静かに、

 最後の書き込みを打ち込んだ。



――




148 名無しの隠居


次はちゃんと話しなさいね




――



 送信後。



 祖母は、

 穏やかに編み物へ戻った。


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